第679話 レオがやきもちを焼いていました



「うーん、理由がわからないな……どうして、お前は俺にすぐ懐いてくれたんだ?」

「ワウ?」

「……レオやシェリーと違って、聞いてもわからないみたいだなぁ」

「ふふふ、そうやって語り掛けてくれるから、安心できる人だとわかるのかもしれませんね」

「そうなのかな?」

「えぇ。シェリーにもそうですけど、レオ様にも優しく話していますし、タクミさんが優しいのがわかるのかもしれません」

「んー……そうなのか?」

「クゥーン……」


 もう一度問いかけると、俺の胸部分に頭を擦り付けて撫でろとねだられてしまった。

 レオと一緒で、他に人がいない事が多かったから、話しが通じるかどうかをよく考えずに、動物へ話しかける癖がついてしまっているようだ。

 一人暮らしをすると、独り言が多くなるとか……それに近いのかもしれない……微妙に違うか。

 ともあれ、さすがにマルチーズに聞いてもなぜ懐かれているのかはわからないか、レオやシェリーみたいに、ちゃんとした意思疎通ができるわけじゃないからな。


 微笑ましそうなクレアに眺められながら、片手で抱いてやり、要求に従ってもう片方の手で頭を撫でてやった。

 嬉しそうに振られる尻尾が体に当たっているのが、ちょっと面白い。 


「……ん?」


 マルチーズを可愛がってやっていると、ふいに頭上から落ちる影……。


「ワウゥ……」

「レオ?」

「あらレオ様? どうしたのでしょう、元気がないようですけど?」

「キャン!」


 何がと思って振り返ると、いつの間にか近くでお座りしていたレオが、俺の頭の上から覗き込むようにしていた。

 横にいて、怒られないようにマルチーズを見ていたクレアも気付かなかったらしく、マルチーズの方はレオに向かって邪魔するなとでも言うように吠える……やっぱり度胸あるな。

 振り向いて見たレオの表情は、クレアも言っているようにどことなく元気がなく見えるが、どうしたんだろう?


「ワウ……ワウワゥ……」

「そういう事か……」

「どうされたのですか? しきりに、そのマルチーズを見ているますけど?」

「いやその……俺がこいつを可愛がっているのに、ちょっと嫉妬しているみたい」

「嫉妬……レオ様がですか?」

「……クレアは見た事がなかっただろうけど、レオは元々このマルチーズと同じで、こんな感じで俺に抱かれる事が多かったんだ。多分、その頃と重ねてなんだと思う」

「ワフ……」


 俺の言葉に肯定するように、鳴いて頷くレオ……自分が嫉妬しているって認めるんだな、まぁ人間と違って自分の感情に正直で、隠す気がさらさらないからだろう。

 今抱いているマルチーズより、この世界に来るまでのレオの方がもう少し大きかったはずだが、それはともかく、クレア達は大きなレオしか見た事がないから、改めて説明をする。

 とにかく、レオは元々自分がそうされていたように、俺が抱き上げて撫でている様子を見て、羨ましいと感じたんだろうなぁ。


「そうなのですね。以前事情を聞いた時は、小さいレオ様というのは想像できませんでしたが、こんなにかわいらしかったのですね。――レオ様、タクミさんはレオ様の事が嫌いになったとかではないので、大丈夫ですよ?」

「ワゥ……」


 少し目を見張って、驚いた様子を見せながらマルチーズを見た後、レオに視線を移して嫉妬したり、うらやんだりする必要はないと話すクレア。

 だが、レオの方は納得がいかなかったらしく、視線を落として元気のない鳴き声を出すばかり。

 人間臭い仕草をするレオにも、大分慣れたなぁ。


「あぁ、クレアさん。言葉だけじゃレオは納得しませんよ。んー……ちょっと、降りていてくれな?」

「ワン!」

「どうすればいいのでしょう?」

「簡単ですよ、レオにもちゃんと可愛がっている事を示してやればいいんです。――レオ?」

「ワウ……」


 言葉はマルチーズの頃より理解できているのは間違いないが、レオはそれだけでは納得しない……まだこの世界へ来る前、近所に住む他の犬を構ったりした時にも、同じ事があったからな。

 あの時は、今以上に言葉が通じなかったから仕方なくでもあったんだが、要はレオを喜ばせてやればいいんだ。

 俺は、抱いていたマルチーズを地面に降ろし、何か遊んでもらえるのかと思って、俺を見上げながら尻尾を振っているのを、一度頭をくしゃっと撫でておとなしくしておいてもらうようにする。

 レオに声をかけ、正面からじっと目を見ながら近づく。


 本来、野生動物相手だと目を合わせるのは、敵対を意味する場合もあるらしいけど、信頼し合っていればそれを違う意味にする事だってできる。

 むしろ、向こうから視線を合わせたり、目が合う事で嬉しそうに尻尾を振る事だってあるからな。

 さすがに、それだけで完全にお互いの考えがわかるアイコンタクトとまでは……ちょっとできないが。


「ほーら、ぷにぷにー」

「ワヒュワヒュ」

「……レオ様の頬を引っ張って、嫌がられたりはしないのですか? シェリーは、あまり好きそうじゃありませんでした……」

「まぁ、嫌がるのもいるけど……相手によるのかな? レオは結構こうされるのが好きみたい」

「ワフュー!」

「お、調子が出てきたなー?」


 じっと見つめ合ったまま、手を伸ばしてレオの口から頬を掴んで、ぷにぷにとしたり、軽く引っ張って伸ばしたりする。

 クレアさんが不思議そうに尋ねるが、レオにとってこれは遊びとも愛情表現とも感じているようだから、大丈夫だ。

 というかクレア……シェリーにはやったんだ……柔らかくて伸ばし甲斐がありそうなのは、わかるけど。


 レオが大きくなったため、以前よりも伸びたりぷにぷにになって触り心地のいい頬を伸ばしたりしてやっていると、息が漏れてはっきり声を出せないレオが、尻尾を振って段々と気持ちが上向いてきたようだ。

 声をかけつつ頭を下げさせて、止めとばかりにガシガシと頭を撫でてやると、さらに激しく振られる尻尾、大きいから砂ぼこり立っているけど、今は気にしないでおこう。

 以前は、さっきのマルチーズのように最後は抱いてやったりしていたんだが、今はできないからな……全力で撫でて安心させてやるのが一番だ。

 長年の付き合いで、相棒と呼べる存在なのは、レオで間違いないんだからな――



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