第674話 王家と公爵家の前に整列しました



「旦那様、村の者達、屋敷から連れてきた者達も、全て整列させました。レオ様や子供達は……」

「ご苦労、セバスチャン。レオ様やタクミ殿は問題ないだろう。子供達にも、強要させる気はないからな……ティルラはクレアと一緒にいさせる必要があるが、他は気にしなくていいだろう。閣下も、そこまで気にする方ではないからな」

「畏まりました……では……」

「うむ」


 俺がレオを撫でたり、背中に乗っている犬やマルチーズを撫でていたりしていると、いつの間にか村の人達や屋敷の使用人さん達が、それぞれ並んでいた。

 セバスチャンさんがエッケンハルトさんに報告し、促す。

 ……一体、今から何が行われるんだ?

 あ、リーザは子供達と一緒にいて不思議そうにしているけど、シェリーはクレアさんが抱いているんだな、どうりで静かだと思った。

 アンネさんも同様に、ティルラちゃんやクレアさんと並んでいる。


「閣下、こちらへ」

「はいはい。形式ばった事をするつもりはなかったんだけどねぇ」

「これも必要な事です」

「私も、あまりそういった事は得意ではありませんが、皆に示しを付けるためです」

「仕方ないねぇ。こういった事から遠ざかるために、ルグレッタを連れて気ままに旅をしているんだけど。まぁ、今回は仕方ないか」

「は。それでは……」


 エッケンハルトさんがユートさんに近付き、整列している皆の前に連れて行く。

 若干どころか、嫌そうな雰囲気を出して呟いていたけど、後ろからついて行くルグレッタさんに一蹴されていた。

 皆の前に向かうようにした後、エッケンハルトさんが目配せ、セバスチャンさんが受け取り、宣言をするように胸に片手を当てて声を張り上げた。


「王家、ユート・ヤスクニ様。並びに公爵、エッケンハルト・リーベルト様の御前になります!」

「え? え? えぇ!?」

「ワフ?」


 ザザッ! と音を立てて、整列していた人達が一斉に片膝立ちで頭を垂れた。

 この場で立っているのは、離れている子供達以外では、エッケンハルトさんとユートさん、それに俺だけだ……レオはお座りしているから、除外だ。

 それにしても、ユートさんの苗字はヤスクニって言うんだなぁ……どんな漢字を書くんだろう?


「ふふ、タクミ君は驚いているようだね。まぁ、こちらに来て短いから、馴染みもないんだろうけど」

「むしろ、レオ様に我々が同じようにしなければと思いもしますが……」

「公爵家のハルトはそうだよねぇ。まぁ、とにかく今はこっちに集中しないとね」

「はっ……」


 こちらを見て、笑いながら話していたユートさん達は、すぐにまた頭を垂れている皆へと向き直り、一歩前へ出て声を張り上げた。

 その後はエッケンハルトさんも同様にしていたが……聞く限りでは、王家や公爵家からのありがたいお言葉をたまわる、といった式典に近いものだったんだろう。

 二人共、大体がこの村の繁栄を願いとか、国の礎がどうの……と言っていたから、形式的なセリフが最初からあり、それを皆に向けて言うのが一つの形何だろうなと思った。

 俺は、よくわからずレオと一緒に見ていただけだった……だって、式典とか学生の頃にしか経験した事ないし……会社も、入社式すらやらなかったからなぁ。



「はぁ、驚きました。ランジ村に来てみたら、王家の方がいましたので……」

「そうですね。……いきなり、レオに襲い掛かるのも驚きましたけど」


 一番驚いたのは、異世界からの同郷人だったり、この国の建国者だったりといった部分だが、秘匿されているらしいのでそこには触れないでおく。

 今は、ユートさんやエッケンハルトさんに対しての式典らしきものが終わり、村での歓迎会の最中だ。

 俺が以前来た時のように、村の広場で料理を持ち寄って立食会のようになっている。

 ユートさんはエッケンハルトさんと一緒に、ハンネスさんにお酒を振る舞われていて、羽目を外し過ぎないか少し心配ではあるが、あちらにはセバスチャンさんとルグレッタさんがいるから大丈夫だろう。


 リーザやティルラちゃん達は、お酒を飲まないため村のロザリーちゃん達村の子供達と一緒に一塊になって、ワイワイと食事をしていた。

 レオやシェリー、ラーレもそっちだな……犬達と一緒に、レオやラーレとじゃれている子もいるようだ。

 シェリーは犬達と一緒にいるようだが、そっち側でいいのかフェンリル……。


 クレアさんと俺は、出されたワインを舐める程度に飲みつつ、料理を食べて先程の事を話していて、護衛さんの半分と屋敷の使用人さんはこちら側。

 時折村の人が挨拶に来る程度で、エッケンハルトさん達や子供達よりは落ち着いた雰囲気だ。

 ちなみにアンネさんは、謝罪の意を示すためと張り切って、村の人たちにワインのお酌をして回っている……貴族のご令嬢がそれでいいのかとも思うけど、本人がやりたがったので誰も止められなかった。

 村の人達は十分に謝ってもらったからとも言っていたし、アンネさんから直接お酌をされて引き気味ではあるが、少しずつ受け入れられ始めているみたいだな。

 アンネさん自身は、森にいる時俺と話した事で色んな人と関わってみようと考えているのかもしれない……いい傾向、かな?


「それにしても、タクミさんはお父様やユート様と、何を話していたんでしょうか? セバスチャンから王家と聞かされて、後でお父様から詳しい詮索は不要と言われましたが……」


 ハンネスさんから話を聞いていたので、セバスチャンさんによって皆にユートさんの事は説明されていたのだろう。

 けどなぁ……何を話していたかは、クレアさんが相手でもあまり詳しく話せない。

 とりあえず、当たり障りのない事で誤魔化しておくしかないか……。


「シルバーフェンリルのレオと一緒にいたりとか、その説明ですね。まぁ、ほとんど俺がどうしてここにいるのか……という話しでしたよ」

「そうですか。レオ様は、公爵家にとって重要ですが、国にとっても重要になる存在ですものね。……大丈夫でしたか?」

「大丈夫ですよ。レオが人をむやみに襲ったりせず、人に危害を加えたり、国に対して何かをするわけではないと、わかってもらえましたから。……まぁ、問題がなさそうなのは、さっきの土下座を見ればわかると思いますけど……」



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