第667話 ユートさんは気さくな人でした



「そうだタクミ君、僕に敬語は必要ないよ。同郷っぽいからね、仲良くしようよ」

「同郷? あぁ、日本からって事ですか?」

「そう。他にも異世界からという人はいるんだけど、日本じゃない時もあったね。そういう意味では、異世界からというだけでなく、貴重な同郷だ。だから畏まる必要はないし、敬語はいらないよ」

「えっと……?」

「タクミ殿がしたいようにして構わんだろう。元々、レオ様がいる時点で、私どころか王家よりも格上なのだからな」

「はぁ……それじゃ、えっと……よろしく、でいいのかな?」

「うん、よろしく! それで、タクミ君にもあると思うんだけど、聞いていいかな?」


 エッケンハルトさんにも窺ったけど、大丈夫そうなので肩の力を抜き、レオと話す時に近い話し方で接する事にした。

 初めて会ったのに、懐かしい友人と再会したような気分を微かに感じているから、さっきまでの緊張感は既にない。

 改めて、敬語を止めて軽く頭を下げると、嬉しそうな笑顔を浮かべたので、ユートさんも近い気持ちなのかもな。

 それはそうと、俺に聞きたい事ってなんの事だろうか?


「俺にもあるっていうのは……?」

「ギフトだよ。ギフトというのは、誰にでも発現する能力じゃない。けど、タクミ君はギフトを持っているよね?」

「えっと……」


 確かに俺はギフト、『雑草栽培』という能力を持っている。

 けど、レオの事とは違ってできるだけ多くの人に知られないようにしていたし、基本的に知らない人がいる所で使う事はあまりなかったはずだ。

 なのにユートさんは、一応聞くような体ではあるものの、俺にギフトがあると確信をしているような言い方だった。

 ……可能性としては、俺達が来る前にハンネスさんから聞いたというくらいだが……あの人がおいそれと俺の事を話すとは思えないしな。


「おっと、警戒させちゃったかな?」

「いや……その、どうして俺にギフトがあると?」

「そうだねぇ……ギフトを持つためには、一つの条件があるんだ。その条件に当てはまっているからなんだけど……実は、僕もギフトを持っているんだよ」

「え!?」


 ギフトを持っている、と確かにユートさんは言った。

 だが、この世界に来てすぐセバスチャンさんから説明を受けた時は、この国には現在ギフトを持っている人間はいないと言っていたはずだ。


「その反応を見ると、条件には気づいていないみたいだね。他に、同じ条件の人と会っていなければ、無理もないかぁ」

「条件……ってなんだろう? ……以前この国には今、ギフトを持っている人間がいないと聞いていたんだけど……」

「あぁ、僕の事は秘匿されているからね。いないものと扱っているわけじゃないんだけど、さっき話した通り、一部の人間しか知らされないという事の一つだよ」


 なら、エッケンハルトさんは知っていたという事か……それで、一部の人間から外れていたセバスチャンさんは知らなかったため、俺への説明では現状ギフトを持っている人間がいないと言ったのか。


「あと、条件というのは簡単。異世界から来たという事実だね。それに当てはまる人間は、すべからくギフトを持つようになっているから」

「異世界から……あれ? でも、生まれてしばらくしてから、ギフトの能力に目覚めるとも聞いたけど……?」

「それは、異世界から来た人間の子孫だからだよ。受け継がれる能力ってやつだね。ただ、能力が遺伝するかどうかは確定じゃないんだ。だから、異世界から来た人間……その直系ならギフトが使えるようになる可能性はある。それが、異世界からという条件を隠す事にも繋がっているみたいだね」

「そういう事、なんだ……」


 つまりは、今までこの世界でギフト能力があった人物は、異世界から来た……あるいはその子孫であるという事か。

 だからこそ、ギフト自体が珍しい能力となっているのかもしれないな。


「それで、タクミ君の能力は何かな? 一応、危険かどうか聞いておかないといけないからね。国や世界を危険な方向へ向かわせる事ができる能力なら、警戒しておかないといけないし……まぁ、シルバーフェンリルがいる時点で、ギフトとかあまり重要じゃなくなってくるけど……」


 そう言って、苦笑するユートさん。

 エッケンハルトさんも、レオと接し、それ以外でもシルバーフェンリルの事を知っているので、同じく苦笑いを浮かべていた。

 唯一、ルグレッタさんだけは刺すような視線で俺を見ているけど、レオの事はさておいて、ギフトの能力が危険なのかを確認するためだろう。


「えぇと、俺のギフトは『雑草栽培』といって、そのまま雑草……つまり、農業用だったり、人の手が入っていない植物を栽培する能力で……」

「『雑草栽培』……かぁ。うーん……これはどうなんだろう?」

「植物であれば、直接何かの危険になるような事はないので、問題ないのではないでしょうか?」

「……使いようによっては、危険ではあると思うけどねぇ。まぁ、ルグレッタがそう言うなら、そうしておこう。同郷だし、話していて危険な人物とは思えないから、大丈夫だろうからね」

「ほっ……」


 『雑草栽培』の事を説明すると、悩むように顔をしかめたユートさんと、安心したように胸をなでおろし、さっきまでの厳しい視線を解いてくれたルグレッタさん。

 ユートさんが悩んでいるのは、毒に使える植物を作ったり他にも……植物とはいえ使いようによってはという事なんだろう、俺も近い事は考えた事がある……実行する気はさらさらないけど。

 とりあえず、警戒されたり敵視されないようで、ホッと溜め息を吐きたかったが、なぜかエッケンハルトさんが安心していた……。

 もし問題があるようなら、ランジ村での薬草畑ができなくなったり、公爵家が責められる可能性があったとかだろうか?


「そうだ、人に聞いておいて自分の事を言わないのはフェアじゃないね。僕のギフトは『魔導制御』。種族に関係なく、どんな魔法でも使えるギフトだね。副効果で、魔力もほとんど無限に近いくらい使えるけど……これは『雑草栽培』にもあるのかな?」

「副効果……えっと、植物の効果を発揮する状態に変化させる……かな?」


 副効果、か……『雑草栽培』という名から考えると、状態変化は植物に関係していても栽培ではないから、主効果ではなく副効果と言えるんだろう――。



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