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第648話 セバスチャンさんとお揃いになりました
第648話 セバスチャンさんとお揃いになりました
えーっと……耳付きの帽子は女の子が被るからかわいいのであって、男の子が被ってもかわいいかもしれないが、成人した俺が付けても微妙な気分になるだけで、かわいさはかけらもないはずで……セバスチャンさんに至っては、美形の紳士ではあってもさすがに似合わないだろうから……うーむ……。
いやでも、帽子そのものがかわいいのは確かだし、自惚れでなければ童顔と言われていた事もあってので、それはそれでに合ったりするのかな? うーん、でもさすがにセバスチャンさんは……なんでもそつなくこなしそうだから、むしろ似合ったり?
あーうーん、でもなぁ……。
「ほら、パパー!」
「はい、セバスチャン」
「「……うぅ」」
頭の中が混乱する中、こそっと奥から追加の帽子を差し出すハルトンさん。
他の店員さんと一緒に、笑いを堪えてプルプルしている様子だが、とても楽しそうだ。
ちょっと、止めて下さいよ!
満面の笑みで、俺やセバスチャンさんに耳の付いた帽子を差し出す、リーザとティルラちゃん。
二人の笑顔に、嫌だと断れず……呻くような声を出して受け取ってしまった。
「……えーっと」
「……どうしたらいいのでしょうか?」
お互い手に帽子を持って顔を見合わせる、俺とセバスチャンさん。
リーザやティルラちゃんの笑顔に屈して受け取ったが、頭に被るまで手が動かない。
意識的にも無意識的にも、耳付きのかわいらしい帽子を被る事を拒否しているようだ。
「早くー!」
「お揃いになるのですよー!」
「「ワクワク……」」
急かすリーザとティルラちゃん。
なぜか期待する視線を向ける、ハルトンさんと店員さん。
「覚悟を、決めるしかなようです……」
「はぁ……仕方ありませんな。ティルラお嬢様とリーザ様に、こうも言われてしまうと……」
「では……」
「はい……」
「「いざ!」」
受け取ってしまっているうえ、皆の期待する視線を浴びて今更嫌だとは言う事ができず、セバスチャンさんと覚悟を決めて、拒否する体を動かして帽子を頭へ。
「「くっ……」」
「パパもお揃いになったー!」
「皆お揃いですよー!」
「はぁ……セバスチャンさん……くっ、くふふふ」
「タクミ様の方こそ……笑ってはいけないのでしょうが……くふ……くふふふ」
俺達が帽子を被った途端、凄い勢いで顔を逸らしたハルトンさん達。
体がプルプル震えているから、笑いをこらえているのはわかってますよー?
リーザとティルラちゃんが喜び、再び顔を見合わせると、目の前には老紳士が耳付きの帽子を被っている姿。
近くに鏡がない事が幸いし、自分がどうなっているのか見られないため、目の前のセバスチャンさんに注目できたのはいい事だとは思うが……これは、笑いをこらえるのは無理だ……!
お互いがお互いの姿を確認し、堪えられない笑いを漏らすという状況……一体どうしてこうなった!
俺、ランジ村の子供達や、ティルラちゃんを喜ばせようと思っただけなんだけどなぁ。
トホホ……。
「ワフ? ワフワフ!」
「「「っ……っ……」」」
「まぁ、なんとなくわかっているので、見なかった事にして下さい」
「っ……は……はっ!」
「ママー、リーザもティルラお姉ちゃんも、パパも皆お揃いだよー!」
「ワフー!」
「リーザもレオも、凄く喜んでるなぁ……」
「……はぁ。……絶対、旦那様にも付けます……!」
仕立て屋を出ると、すぐにレオに見つかり尻尾を振って喜んでいる様子。
リーザも嬉しそうに報告しているし、仕方ないか。
とりあえず、ニコラさん始め護衛の皆さん、笑うのを我慢しているのはわかっていますから、この事は心の奥底にしまっておいて下さい……。
セバスチャンさんが、何かを決意して闘志のような何かを燃やしていたのが、少し怖かった――。
「はぁ、ようやく街の外に出られた……」
「レオ様関係なしに、目立っていましたなぁ……」
東門から街の外に出て、ラーレの待っている場所へ向かいながら、セバスチャンさんと遠くを見ながら呟いた。
リーザやティルラちゃんは、帽子を被っている姿はかわいく愛らしいので、微笑ましい目で見られていたのは間違いない。
だが、俺やセバスチャンさんのような、成人した男が同じ帽子を被っている姿は、街の人達にどう映ったのだろうか……せめて、痛々しいものを見る目出なかったと思いたいが……。
仕立て屋を出てから、さらにハインさんの雑貨屋まで寄ったから俺やセバスチャンさんを見る目が、痛みを感じる程に突き刺さるような心地だった。
ほんとに、どうしてこうなったのか……。
ちなみに雑貨屋では、ティルラちゃんとリーザが剣やナイフを手入れするための物を買った、俺もな。
エッケンハルトさんから、自分で手入れをする方が武器に愛着が沸き、大事に使う事やそれも一人前になるために必要な事だと言われたからだ。
まぁ、自分の武器を自分で手入れをするというのは、当然の事なのかもな。
とはいえ、あくまで道具なので愛着が沸き過ぎるといけないとも、注意されているから気を付けないといけない。
武器は戦うための物であり、それに固執し過ぎては戦いの幅が狭まるという事らしいが……まだ俺やティルラちゃんには難しい。
このまま、鍛錬していけばいずれわかるのだろうか?
ちなみに、刀を手入れするような物はなかった……広く知られている物じゃないし、仕方ないか。
打ち粉だったかな? あの時代劇とかで、ポンポンやっているのを、俺も一度やって見たかったんだが……エッケンハルトさんに聞いてみるか。
あと、孤児院にも寄ってアンナさんとも話しておきたかったんだけど、思わぬ時間を取られてしまったので、また今度にした。
提案というか、話しておきたい事があったんだが……帰りか屋敷に戻ってからにしよう。
「それじゃ、セバスチャンさん……頑張ってください」
「はい……」
「行きましょう、ラーレ!」
「キィー」
「こっちも行こう、ママ!」
「ワフ」
待機していたラーレに乗り、護衛さん達に見送られてセバスチャンさんとティルラちゃんは空へ。
俺とリーザはレオに乗ってランジ村へと出発だ。
とりあえず、進む道は前回と同じく街道をしばらく真っ直ぐ行って、途中で森の方へ逸れるようにする進路だ。
同じ道を進んだ方がレオも覚えているだろうし、進みやすいからな――。
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