第634話 レオが新しい芸を覚えました



「よーしよし。偉かったぞー、レオ」

「ワフッ、ワフッ」


 体全体でティルラちゃんのように、レオの体へ抱き着きながらワシワシと撫でたり、顔を下げてもらって頭を撫でる。

 褒められているレオは、とても嬉しそうだ。

 というか、やっぱりレオの毛は気持ちいいな……全身を使って、よくレオに抱き着いているリーザやティルラちゃんの気持ちがわかるというものだ。


「むにー」

「ワムー」


 時折、レオの口の皮を引っ張ってみたりして、俺も遊んでいるような気分。


「小さい時は抱き上げられたんだけどなぁ……鍛えているとはいえ、さすがに無理か」

「ワッフ?」

「いやいや、俺が潰されるからやめような?」


 懐かしくもある、レオが小さかった時には、俺の膝に乗せたり抱き上げたりしてやっていた。

 けど今は、むしろ俺がレオに乗るようになったからなぁ。

 以前の事を思い出しながら呟くと、レオが両前足を上げて、どう? というような仕草。

 さすがに今の大きさで抱き上げようとしたら、俺が潰されてしまうだけだろう。


「大きくなった分、重くもなったからなぁ……」

「ワウ!」

「太っているとか、そういう意味じゃないんだが……お前もダイエットするか?」

「ワウ!? ワウワウワウ!」

「まぁ、そうだよなぁ。食べるの好きだもんな」


 太っているとかではなく、単純に体が大きくなると重くなるのは必然。

 なのにレオは、少しだけ怒るような声を漏らした。

 ダイエットを提案すると、驚いて勢いよく首を振り、拒否の姿勢。

 レオはシェリーと違って太っているようにも見えないし、今のままでいいんだろうな。


 というか、ダイエットをするからって食事制限をするとは限らないんだが……レオにとってはすぐぐそちらに結びついてしまうんだろう。

 シェリーのように、体を動かせば痩せる効果はあるはずなんだが……。

 日頃、ティルラちゃんと遊んだり、シェリーのダイエット計画のために一緒に走っているから、ダイエットの必要はないか。


「お、そうだ……久々にマッサージしてやろう」

「ワフ~」


 以前にもやった事があるが、犬だって肩凝りのような状態になる事がある。

 解してやるように、足の付け根を揉んでやったり、皮を引っ張ったりするとマッサージ効果になって、気持ちいいみたいだ。

 足の一つ一つを、丁寧にマッサージしてやると、気持ち良さそうな声を漏らすレオ。

 目まで細めてるな。


「ここはどうだ……?」

「ワフ、ワフ」

「ちょっとくすぐったいか……リーザと似たような感じか。それじゃ……こうだ!」

「ワッフ~」


 足の付け根が終わったら、今度は耳の付け根。

 マルチーズは垂れ耳だったのに、今では立派にピン立つ耳は、オークの気配を探る時に忙しなく動いていた。

 軽く揉み解すように、耳の付け根をマッサージしてやると、レオからはくすぐったそうな声。

 リーザもそうだったが、敏感な場所でもあるらしく、軽く触れる程度だとこそばゆいみたいだな。


 それならばと、手に力を入れて強めにマッサージしてやると、先程までよりもさらに気持ち良さそうな声で鳴いた。

 ふむ、足よりも耳の方が凝っていたのか……いや、鋭敏な場所だから特に気持ちいんだろうな。


「そしてお次は……バァン!」

「ワフワフ~」

「……教えてないのに、できるようになってたんだな」


 調子に乗って、レオへ向かって手で銃の形を作り、声で発射音を真似する。

 すると、打たれたようにひっくり返ったレオ……芸としては教えてないのに、知ってたんだな。

 時折レオがやる、空中で体を回転させる動き。

 今回はわざと背中から落ちてお腹を見せる、服従のポーズに繋がった。

 死んだふりまではしなかったが、これだけでも十分過ぎる程の芸だ……今度、クレアさん達に見せてみよう、反応が面白そうだ。


「ほーらほら、気持ちいいだろー?」

「ワフーワフー」


 フェンやリルルにしてやっていたように、お腹をわしゃわしゃと撫でてやる。

 お腹を見せたり、撫でられるのが嫌な犬もいるけど、レオはむしろ自分からせがむほど好きだった。

 リーザの前では一応、気高く立派なママとして過ごしている分、今はしっかり甘えさせてやろう。

 ……ラクトスで一度、俺に怒られて同じポーズをしていたが、リーザは怪我をしていたしそれどころではなかったからな。


「失礼します。リーザ様がお風呂から……あら?」

「パパー、ママー、ポカポカになってきたよー。 あー!」

「お?」

「ワフ!?」


 レオのお腹を撫でてまったりとしていたら、いつの間にか結構な時間が経っていたらしく、風呂から上がったリーザを連れて、ライラさんが部屋に入ってきた。

 その後ろから、湯気の立っているリーザが元気よく入室。

 レオがひっくり返ってお腹を見せているのを発見し、大きな声を出して急いで駆け寄ってくる。

 目が爛々と輝いているから、楽しい物を見つけたような反応だな……。

 ちなみにレオの方は、油断しきっていたところを見られて、酷く驚いた声を上げていた。


「ママも、フェンやリルル達のように、お腹を撫でられるの好きなのー? なでなで……」

「ワフ……ワゥ……」

「まぁ、威厳とかそういうのはなくなるが、気持ちいいんだからそれでいいんじゃないか?」

「ワゥ……」


 俺の横に駆け寄ったリーザは、すぐにレオのお腹を撫で始める。

 なでなでと口に出しながら動かす手つきは、俺が森の中で教えた事をしっかり覚えているようだ。

 気持ち良さそうな声を漏らすのを我慢しながら、レオはどうしたらいいのかと目で俺に訴えかけている。

 シェリーやリーザには、偉そうというか威厳を見せておきたかったんだろうが、既に時遅しだ……諦めろレオ。


「タクミ様……?」

「あ、すみません。リーザのお世話ありがとうございます」

「いえ、それは構わないのですが……」

「んー……ライラさんも撫でてみます?」

「……よろしいのでしょうか? いえ、レオ様は以前から体を撫でさせてくださっていましたが」

「大丈夫ですよ。な、レオ?」

「ワウゥ……ワフ!」


 諦めて起き上がる気力をなくしたレオと、楽しそうに撫でているリーザを眺めていると、ライラさんから戸惑っている様子で声をかけられた。

 そういえば、リーザを風呂に入れて戻って来てくれたんだった。

 感謝をしつつ、何やら視線が柔らかそうなレオのお腹へと向かっていたので、興味があるのだろうと勧める。

 少し遠慮している様子だったが、レオに確認すると溜め息を吐いた後、「どんと来い!」と言うように鳴いたのでライラさんにも撫でてもらう事になった――。



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