第624話 厨房で料理を開始しました
「とにかく、薬草を頼んだぞ、ニック」
「へい、必ずカレスさんに届けます!」
ミリナちゃんといい、ニックといい……なんでここまで、俺の事を持ち上げるのが好きなんだか。
とにかく、長話するのも薬草を待っているカレスさんに迷惑がかかるし、俺も昼食を作るという約束をしているから、適当なところでニックとの話を終える。
「それじゃ、アニキ、姐さん、失礼しやす!」
「気を付けてな」
「お気を付けを。それと、私の事を姐さんと呼ぶのは……行ってしまいました」
「ははは、ライラさんも慕われていますね」
「タクミ様……」
屋敷の玄関でニックを見送る。
去り際、ライラさんを姐さんと呼んで行ったが、呼ばれた本人は不服な模様。
お世話が好きな人だから、ある意味姐さんというのも合っている気がする。
困った表情のライラさんを見るのが珍しくて、楽しく笑いながら厨房へと向かった。
……ちょっと失礼だったかもしれないが、それだけ気安く慣れてきたと考えよう……すみません、ライラさん。
「タクミ様、お待ちしておりました」
「「「お待ちしておりました!」」」
「えっと……?」
「皆並んでるねー?」
厨房へ入ると、ヘレーナさんを中心に、料理人さん達が揃って並んでいた。
一斉に声をかけられ、戸惑う俺。
ちなみにリーザは、厨房に行く途中でゲルダさんに連れて来られた。
俺が昼食を作るのを手伝うと言ってくれている……いい子だ……。
レオ達はまだ、裏庭を走ってお腹を空かせる事に一生懸命らしいが……走り続けていて大丈夫だろうか? 特にシェリー。
疲れすぎて食欲が沸かない……なんて事がないように祈っておこう。
「皆、タクミ様の料理というのを楽しみにしております。どのように作られるのか学ぶため、見ていてもよろしいでしょうか? もちろん、何かお手伝いができる事があれば、手伝わせて頂きます!」
「よろしくお願いします!」
「やー、パパの手伝いはリーザがするの!」
「あぁ、わかりました。大した事でもありませんが、構いませんよ。――リーザ、美味しい物を作るためだから、皆にも手伝ってもらおう。リーザももちろん手伝ってもらうぞ? それに、リーザだって美味しい物がたべたいだろう?」
「うーん……わかった!」
どうやら整列していたのは、俺に見学の許可を求めるためだったみたいだ。
そこまで大した物や、手の込んだ料理を作るつもりはない……というか作れないしな。
ともあれ、今まで屋敷で一度も出て来た事がないから、俺が作ろうと考えている料理は、あまり見られない料理なんだろうとは思う。
俺の手伝いは自分がと主張しているリーザの頭を撫でて、言い聞かせるようにして納得してもらう。
パパの手伝いをしたくて、独占を主張するなんて……いい子過ぎるだろう……。
おっと、こんな事で感動してはいられないな、料理に取り掛からないと。
「えーと、挽き肉……ミンチはありますか?」
「はい、ございますよ。ソーセージを作るのに使用するので、常に常備するようにしています」
まず一番重要なのは挽き肉。
肉の種類はできれば牛がいいが、種類にこだわりはないため、気にしない。
水で手を入念に洗いながら聞くと、ヘレーナさんがソーセージ用と言って挽き肉を取り出した。
種類は……オークの肉らしい、豚肉か。
ヘレーナさんから取り出された豚肉を受け取りながら、ソーセージを作るため常にっていうのは、レオのためなんだろうなと考える。
体の大きなレオは食事量も多く、好物なだけあって大量のソーセージを食べるから、そのためなんだろう。
いつもありがとうございます。
「それじゃあ、その挽き肉を器に入れて……塩は?」
「はい、こちらに」
別の料理人さんから、塩の入っている瓶を渡される。
ヘレーナさんも含めて、皆俺の周囲に集まっており、何か言われたらすぐに動ける体制のようだ。
ちょっと偉い人になった気分だが、皆新しいかもしれない料理を見るために、真剣なんだろう。
改めて、この屋敷の料理人さん達は、美味しい料理を作ろうとする意識が高いんだなと実感する。
向上心の塊とも言える、ヘレーナさんが中心だから影響されているんだろうけど。
「それじゃ、塩を入れて捏ねます。とにかく捏ねます。粘り気が出るまで捏ねます。粘りが出なかったら、塩が足りないので足して下さい」
「捏ねるだけなのですか?」
「まずは、ですね。この捏ねが足りないと、形を保てずにボロボロになったり、食感が悪くなったりしますので、注意して下さい」
「はい! えーと、捏ねて捏ねて捏ねる……と」
周囲の人たちに一応の説明をしながら、洗った手で塩と混ざるように挽き肉を捏ねる。
詳しい知識がないから、あまり自信をもっていうのもどうかと思うんだが、確かそうだったはず……。
捏ね方が甘いと、焼くまでの行程で形が作れなかったりする……はず。
とりあえず、そういう物としておこう。
力強く返事をした料理人さんは、何やら紙を取り出して机でメモ書きをしている。
料理の行程だとかを書き記してレシピにするのかもしれないが、捏ねるがひたすら書いてあるレシピって……。
まぁ、俺が作って見せた料理が、後々アレンジされてヘレーナさん達がさらに美味しくしてくれるだろうから、このままにしておこう。
「ん~、ちょっとまとまりが悪いかな? ヘレーナさん、この肉ってオークですよね?」
「オークの肉がほとんどですが、他の種類も混ざっていますね。オークのみの方がよろしかったでしょうか?」
「いえ、混ざっていてもいいんですが……成る程、だからか」
ある程度塩を混ぜて捏ねても、まとまりがいまいちなような気がしたので、聞いてみる。
最近見慣れていたせいで、オークの肉だけだと勘違いしたけど、実際は他の肉も混ざっていたようだ。
つまり、合い挽き肉か……どうりでまとまらないわけだ。
同一の肉だけであるなら、もう少しまとまるはずだしな。
一番いいのは牛肉百パーセントだが、オークの肉があまっているようだし、俺が求める肉があるかどうかもわからないので、今はこの合い挽き肉でなんとかしよう。
もう作り始めているから、捏ねている物を無駄にしたくないし、牛肉の事を聞く時間ももったいない……また今度だな。
えーと、合い挽き肉の場合はつなぎに使う食材で、良さそうなのって……。
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