第591話 建材は分けて使う事にしました



「そこでです。石材と木材の両方を使ってみてはいかがでしょうか?」

「両方ですか?」

「はい。まず、レオ様やタクミ様、クレアお嬢様の暮らす場所は石材で造り丈夫に。代わりに、使用人や薬草畑の人員が暮らす場所は木材で作る……といった事ですな。その場合、木で造るよりも時間はかかりますが、石で造るよりも短縮できます。お互いの利点不利点を合わせた形ですな」

「成る程……」


 レオの生活圏というか、行動範囲は意思で造って丈夫にする事で、損壊を防ぐ。

 代わりに使用人さん達を含めた他の人は、木材で造られた場所で暮らす事で、時間と費用を減らすわけか。

 完全に木材で造るよりは大変だろうが、その分壊れる心配は減るだろう。

 でもそれだと、木造部分で暮らす人たちから不平不満は出ないのだろうか?


「俺やクレアさん達はいいんでしょうけど、木材で造られた部屋を宛がわれた人達が、不満に思ったりはしないですかね?」

「この屋敷で、というよりは多少質素にはなるかもしれませんが、大丈夫かと思います。その事も説明して、人選をするのはもちろんの事ですが……そもそも、この屋敷にいる使用人以外は、普段木造の家に住んでいる事が多いですからな。それに、シルバーフェンリルを従えるタクミ様や、公爵家のクレアお嬢様にそれしきの事で不満を持つ事はないでしょう」

「権力……というと聞こえは悪いかもしれませんが、それに近いですね。ですけど、ランジ村の空き家に住むにしても木材の家なのです。不満を持つ者はすくないでしょうね」


 そういえばそうだった。

 ラクトスの街を見てもそうだが、基本的に木造の家に住むのが普通の人達が多いんだ。

 それに、階級差を示しているようになってしまうが、シルバーフェンリルのレオや公爵家のクレアさんがいるんだから、そこに文句を言う人は少なそうだ。

 そもそもに、その事を承諾してもらってから雇えばいいんだし、元々が不満に思う人もいなさそうだ。


 下働きだから……というのは日本では微妙に差別のように見られてしまうかもだが、この世界ではそれも当たり前の事だもんな。

 貴族制度など、階級差がはっきりしている以上、大体の人はそれを理解して納得しているようだ。


「そうですね……問題がないようでしたら、その石材と木材を合わせて作った家にしましょう。レオが壊してしまったりすると、修理するのも手間がかかりそうですし」

「畏まりました。実は既に、どういった事になっても動けるよう、手配してあります。具体的には、建材の確保ですな。木材の方は、すぐにでも集まるでしょうし、石材の方もあまり時間はかかりそうにありません」

「そうなんですか、ありがとうございます」


 さすがセバスチャンさんといったところか。

 誰かに使える執事には必要な能力なのかもしれないが、どういう方向に決まるかを想定して先に動いておく……という事なんだろうな。

 ……俺は執事になれそうにはないなぁ……なるつもりもないけど。

 とりあえず、家の話はそんな風に決まり、セバスチャンさんが手配した建材をランジ村へと運ぶ事が決まった。


 住む人数の想定もしたので、間取りも決めるのかな……? と思ったが、違うらしい。

 日本の建築程厳密な設計図があるわけでもなく、大体ここはこういった部屋、というような当たりを付けて設計するのが一般的なようだ。

 後から、大きな部屋は食堂や客室といった、多くの人が利用する部屋として家具を配置したり、人が住む部屋は大体の大きさを決めて、同じような大きさの部屋を並べたり……といった具合のようだ。

 あとは住む人数の想定から、建てる家の敷地次第で二階建て三階建てと決まるらしい。


 日本のように、土地が足りないという事もないので、通常は大きく敷地を取って平屋になる事が多いらしい。

 まぁ、横に広げられないなら、縦に伸ばせばいい……という特殊な考えと言えなくもない建物づくりだからなぁ。

 日本に限らず、人口が集中している都市では似たような事になるらしいが、この世界では今のところそういった事はなさそうだ。


「では次に、タクミ様とクレアお嬢様の役割ですな」

「私とタクミさんですか?」

「共同運営という事にしましたけど、役割をわけるんですか?」

「お互いがお互いの補佐をする事はあるでしょうが、お二方ともが常に同じ事をするのではいけません。例えば、タクミ様は薬草を作る事、薬を作る事に専念する。対してクレアお嬢様はタクミ様の作られた薬草や薬を、他の街や村へと運搬し販売する事を担当する……とかですな。もちろん、クレアお嬢様が持って行くとかではなく、販路を管理する……といった具合になるでしょう」


 役割をわけるのは、俺とクレアさんが同じ事をしていても……という事みたいだ。

 言われてみれば、二人いるのだからそれぞれ違う事をした方が効率がいいか。

 もちろん、セバスチャンさんの言う通りお互いを補佐したり、協力したりする事は当然だろうけどな。


「……そうね。私なら領民の人達に話がしやすいかもしれないわね。それに、タクミ様が表で交渉事をとなると、レオ様が付いて来るでしょうから……」

「確実に、相手を威圧する事になってしまいますな。まぁ、上手く交渉を進めるために、そういった事をするのもありかもしれませんが、それではタクミ様の評判が下がってしまいますからな」

「あー……あははは、そうですね。レオなら付いて来たがるでしょうし、体が大きいですから」


 クレアさんが頷いて同意しつつ、俺が外で交渉には向かない理由も言われた。

 セバスチャンさんもそれに頷いている……まぁ、確かにレオは俺と一緒にいたがるから、そうなっても仕方ない。

 クレアさんや公爵家の人達は、レオを拒否しにくいだろうし、俺もあまり離れていたいとは思わない。

 ランジ村の時のように、レオに何か頼んで仕方なく離れるとかならまだしも、特に理由なく別々にいるというのもちょっとな。


 ……そうなると、リーザも一緒にいそうだから……獣人の子供を乗せたシルバーフェンリルという事で和んだりというのは……ないか。

 大きいもんな、レオは。

 さらに、最強らしいシルバーフェンリルだとわかれば尚更だ。



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