第588話 ギフトはやっぱりよくわからない能力でした



 テーブルを囲む休憩では、前に話したように、ライラさんも一緒に休憩してくれていたし、そのライラさんに言われてゲルダさんやミリナちゃんも一緒だ。

 やっぱり、休憩する時というかのんびりする時は皆一緒がいいよな。

 後ろで立って控えているというのは、少し落ち着かないし……。


「パパ、どうしてパパは簡単に薬草? が作れるの? うーんと……お爺ちゃんが言ってたけど、植物って待たないと成長しないんでしょ?」

「植物に限らず、生き物はほとんどそうだと思うけど……まぁ、前にも言ったように、ギフトのおかげだなぁ」

「そうなんだー」


 リーザが不思議そうに言って、それに答える俺。

 以前にも、一応ギフトの説明はしていたと思うが……忘れてたのかもな。

 あの頃はまだ、生活が一変してそれに慣れるのに必死だっただろうし。


「それにしても、ギフトという能力は不思議ですね。何もない所から、薬草を生やす事ができるんですから。いえ、その能力を使える師匠が凄いんですけど」

「俺は、ただ能力を使っているだけだから、何も凄い事はないんだけどね……」

「『雑草栽培』、考えてみれば不思議な能力です。法則や摂理というと、少し大仰になるかもしれませんが……本来ならあり得ない事ができるのですから」

「確かにそうなんですよね……」


 ミリナちゃんが褒めるように言ってくれるが、本当にすごいのは能力であって、俺自身ではない。

 知らないうちに授かっていた能力だから、自分の能力とはまだ思えないせいもあるかな。

 ライラさんも首を傾げつつ、まだ摘み取っていない薬草へと視線を向けて呟いた。

 『雑草栽培』か……確かに不思議な能力で、ライラさんの言う通り大仰になってしまうが、自然の法則や摂理からは外れた能力だ。


 本来なら、種や苗を植えて初めて植物は生えて来るのに、それすらないのだから。

 いや、植物によっては種や苗以外もあったり、土に紛れていた小さな何かから発芽する事もあるかもしれないけどな。

 雑草ってそういうものだし……それはともかく、そういった事とは関係なしにどこへでも植物を生やす事はできる能力か……。

 一応、作れる植物は全てではないし、能力を使い過ぎると倒れてしまうという事もあるが、それにしたって便利過ぎる。


 俺もいくつか自分で作ってお世話になっているが、自分が考えた薬草をも作る事ができるから、この能力を活用しようと考えれば、薬草畑以外にも色々できるんだろうな。

 それに、イザベルさんに言われていたどこでも……という言葉の通り、生き物を苗床のようにして生やす事すらできる。

 さすがに、あの使い方は命の危機にでも晒されない限り、二度と使いたいとは思わないけども。

 ……生き物から生えてきた植物を食べるなんて、躊躇するのは当たり前か。


「なぁ、レオ。お前は『雑草栽培』やギフトの事って、何かわからないか?」 

「ワフ……ワフ? ワフゥ」

「わからないか。いや、いいんだ。わからなくて当然だもんな」


 シルバーフェンリルになった影響なのか、ある程度の知識を得ているらしいレオに念のために聞いてみる。

 しかしレオは首を振り、ギフトに関する知識はないようだ。

 申し訳なさそうにするレオを撫で、知らなくても悪い事じゃないと伝えた。

 俺だけでなくライラさん達、ティルラちゃんも含めて皆ギフトの事を考えて、難しい顔をしている。


 ここにセバスチャンさんがいれば、もしかしたら説明してくれたかもしれないが……いや、以前話を聞いた時も詳細はわからないと言っていたっけか。

 人数が少ない影響もあって、ギフトの事は詳しく解明されていないらしい。

 まぁ、話を聞く限りでは使い方次第でとんでもない効果を発揮する事もあるようだし、そんな能力を持った数少ない人を、実験に使ったりはできないよな。

 確か、重宝されて大事に扱われるって聞いた気もする。


 俺の能力は植物を生やす能力だから、どれだけの事ができるかはまだ未知数な部分もあるし、他のギフトと違ってとんでもない効果というのは発揮しずらいのかもしれないが……まぁ、今でも役に立ってくれているし、おかげでこの世界での生活が安定しそうだからな。

 不思議な能力だし、なぜこんな能力があるのかはわからなくとも、忌避するような事はない。

 そうして、ふとした疑問から答えの出ないギフトがなんなのかを考えつつ、数十分程度の休憩を終えた。



「あぁ、セバスチャンさん。ここにいましたか」


 休憩の後、再び遊び始めるレオ達や、走らされるシェリーを余所に、ミリナちゃん達の手伝いでさっさと薬草や薬を作り終える。

 簡易薬草畑の方は、ラクトスへの薬草が足りないためにほとんど摘み取られていたが、その分も『雑草栽培』で作って、研究用を追加しておいた。

 その時確認したが、やはり以前にセバスチャンさんと話したように、急激な成長で土の栄養を吸い取るのは間違いないらしく、砂漠化したのかと思える地面が少し広くなっていたため、そこではなく別の場所に薬草を生やしておく。

 砂漠化したような場所は、土や肥料となる物を持って混ぜないと駄目そうだからな……その辺りは、そのうち農業に詳しい人に話を聞いて取り組もう。


 ランジ村の周囲を砂漠化するわけにもいかないから、そういった事は考えないといけないしな。

 ともあれ、それが終わってからミリナちゃんに、薬酒用の薬草を渡し、調合を任せてセバスチャンさんのいる所へ。

 久しぶりの調合で張り切っていたミリナちゃんは、あまり無理をしないよう、ライラさんとゲルダさんが付いてくれるようだから安心だ。

 屋敷の中に戻り、セバスチャンさんがどこにいるのか使用人さんに聞くと、いつもの部屋で執務をしているとの事だったので、そこを訪ねて発見したところだな。


「タクミ様。薬草の方は、もう?」

「はい、注文された薬草は作り終えました。摘み取ってすっかり寂しくなっていた簡易薬草畑の方も、少しだけ研究用の薬草を生やしておきましたよ」

「それはそれは、お疲れでしょう? 休まなくても良いのですかな?」

「ライラさん達と一緒に休みましたから、大丈夫です」

「ほっほっほ、ライラさんとの親睦を深めたわけですな? 中々やりますなぁ、タクミ様……」



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