第582話 さすがのレオも疲れているようでした



「ワフゥ……」

「ははは、まぁリーザもきっと、レオの毛が綺麗な方が喜ぶからな。観念した方がいいぞ?」


 溜め息を吐くレオに、笑いながら声を掛けると、不貞腐れたように顔を床に付けて目を閉じてしまった。

 まぁ、以前よりも多少は風呂に慣れてきているようだし、風呂嫌いな理由を聞いてレオが嫌な事をしないように気を付けているから、前よりも抵抗はしなくなった方かな。

 小さかった頃は、抱き上げて連れて行こうとすると、足を踏ん張ってたりしてたからなぁ……。

 記憶にある小さかったレオの事を思い出しながら、ふて寝するレオと、気持ち良さそうに寝ているリーザを部屋に残して、俺は風呂へと向かった。

 思い出し笑いをしているようで、ちょっと気持ち悪かったかもしれないと、お湯に浸かりながら思い至ったが……まぁ、途中で誰かに見られたわけでもないから、大丈夫か。



「ただいま……レオ、中々すごい格好だな……」

「ワ……フ……」

「スー……むにむに……」


 風呂から上がり、起こさないようにそっと部屋へと入る。

 中では、熟睡している様子のレオとリーザの寝息が聞こえた。

 リーザは部屋を出る前にかけていた毛布にくるまって、幸せそうだからいいんだが……レオの恰好は特に目を引いた。

 いつもは丸まっていたり、伏せをしたまま顔を前足に乗せるようにして寝ていたはずなのに、今は体を横たえて足を投げ出し、油断しきっている格好だ。


 まぁ、普段は油断しないようにしながら寝ているというわけではないだろうが、それでも今日は一段とリラックスしている様子だな。

 さすがに最強のシルバーフェンリルでも、森の中であれこれとやって疲れたんだろうと思う。

 オークを察知してくれたり倒したり、フェンやリルルの事もあったと思えば、ラーレに魔法を使って落としたりもした。

 常に俺やリーザが安全なように、周囲には常に気を配っていただろうし、テントの中に入れないから外で寝ていたというのもあるしな。


 フェンやリルルは慣れているから平気だろうが、レオは元々室内犬のマルチーズだ。

 シルバーフェンリルになっても、多少は慣れない部分もあっただろう。

 疲れるのも無理はないな。


「ありがとうな、レオ。一緒にいるだけで心強いし、助かってるよ。また元気な時に、いっぱい遊んでやるからな?」

「……プスー」


 小さな声で、レオを起こさないように呟きながらレオの体をゆっくりと撫で、触り心地のいい毛を堪能する。

 レオから寝言のような寝息のような、鼻から抜ける息を返事と受け取り、そのまま離れて俺も寝るためにベッドへと潜り込んだ。

 ……リーザが完全に毛布を独占してるな……まぁ、寒いわけじゃないから、このまま寝ても大丈夫だろう。


「……おやすみ、リーザ、レオ」

「……ワスー……」

「むにむに……スー……」


 そっと呟いて、レオやリーザの寝息を聞きながら、俺も夢の世界へと意識を沈めて行った――。



――――――――――――――



「……起きてますか、タクミさん」

「大丈夫だよ、ティルラちゃん。入っておいで」

「はい、失礼します……まだリーザちゃんは寝ているんですね? あ、レオ様もタクミさん、おはようございます」

「ワフ」

「おはよう、ティルラちゃん。よっぽど疲れてたんだと思うよ。あの小さい体で頑張ってたからね……まぁ、楽しくて疲れを忘れてたってのが正しいかもしれないけど。ティルラちゃんの方は大丈夫?」


 朝、いつもより少し早めに目覚めて、同じく目を覚ましたレオに見られながら朝の支度をしていると、控えめなノックと共に部屋の外からティルラちゃんの声。

 そっと入ってきたティルラちゃんは、まだ時間が早いとわかっていたからだろう、小さな声でリーザが寝ているのを確認しつつ、レオや俺に朝の挨拶。

 もしかしたら俺やレオもまだ寝ているかも……と思って、ノックとかも控えめだったんだろうな。

 リーザは大分疲れていたようで、まだぐっすりと寝ているが、ティルラちゃんの穂はどうなのか聞く。

 レオはまだしも、俺は安眠薬草のおかげでそこまで疲労は溜まっていないが、ティルラちゃんは違うからな。


「私は大丈夫です。昨日も食後にすぐ寝ましたから」

「子供は、やっぱり元気だなぁ。でも、いつもより早くにどうしたんだい? レオやリーザの様子を見に来たのかな?」

「ワフ?」

「レオ様やリーザちゃんも気になりますけど……ラーレの事です」

「ラーレがどうかしたの?」

「一緒に、様子を見に行ってくれませんか? さっきセバスチャンに聞いたら、この屋敷の庭とかを気に入ったらしいんですけど、どんな様子か見ておきたくて……やっぱり、レオ様やタクミさんがいてくれると心強いですから……」


 ティルラちゃんはどうやら、ラーレの様子が気になっているようだ。

 まぁ、初めての従魔だし、シェリーと違って屋敷の中で過ごしているわけじゃないからというのもあるかもな。

 俺の部屋へと来る前に、セバスチャンさんには話を聞いたらしいが、直接自分でも見たいんだろ。

 ただ、従魔になってから、親しく話したりしていたり、ラーレに乗って背中に乗ったりはしたが、一対一で対面するのはまだ少し気後れするのかもしれない。


 空を飛んだ時以外は、周囲には俺やレオ、他にもエッケンハルトさんやクレアさんがいたからな。

 従魔にしたんだし、お互い気を許してはいるようだが、まだ慣れない部分もあるから、俺やレオへ頼みに来たんだろう。

 見た目が強そうな狼のレオにもすぐ懐いたティルラちゃんだし、最初だけですぐにラーレにも慣れるとは思うけども。


「そうかぁ。わかった、それじゃ一緒に行こう。……あー、リーザは……」

「それでしたら私が」

「うぉ、ライラさん?」

「おはようございます、タクミ様、レオ様。昨日はお気を使って頂き、ありがとうございます。おかげさまで、森での疲れも取れました」

「おはようございます。……元気なようで何よりです」

「ワウ」


 ティルラちゃんと一緒に行く事を快諾したはいいが、まだ寝ているリーザを放っておくのも気が引ける。

 ある程度慣れているから大丈夫だろうが、起きて俺達の姿が見えなかったら、寂しがるかもしれないからな。

 そう思っていたら、ティルラちゃんが開けたままにしていた入り口から、ライラさんがスッと入ってきた。

 そこにいるとは思っていなかったから、少し驚いてしまったじゃないか……。



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