第559話 リーザは鳥型魔物の言葉もわかるようでした



「ママも同じようにパパに言っていたけど、あの鳥さんもそう言ってたよ。ママは聞き間違えてなんかないよー!」

「そ、そうなのか? というかリーザ、あの魔物が言う事もわかるのか?」

「うん!」


 元気よく俺の問いに頷くリーザ。

 獣人は獣型の魔物にとって特別……と以前聞いていたから、獣型……それこそレオやフェンリル達のような、四足歩行の魔物の言うことがわかるだけなんだと思っていたんだが。

 うーん……一応、鳥も鳥獣とは言うから、一緒のカテゴリー扱い……なのかな?

 という事はだ、リーザも聞いていたのだから、俺がレオの通訳を聞き間違えたとか、レオがそもそも聞き間違えていた……という事ではないのか。


「え、えーと……それなら、本当にあの魔物はティルラちゃんと、従魔契約をしたいみたいだね」

「そうなんですかー……うーん……」


 リーザが鳥型の魔物とも話せるという事は、少し衝撃的で驚いたりはしたが、まずはティルラちゃんの事だ。

 従魔契約をどうするかを決めないとな。

 あの魔物が希望していても、ティルラちゃんが嫌がるようなら無理強いはできない。

 というか、従魔契約の押し売りに近い気がするのは、俺だけだろうか?


 魔物の方から従魔になりたいという事があるのか、俺にはあまりわからないが……いや、シェリーはそれに近かったかな。

 まぁあの時は、レオがいるからとか、保護してくれたクレアさんだから、というのもありそうだが。

 そう考えると、今回もレオがいるからという点では同じか……さすがシルバーフェンリル……と後で褒めておけばいいか、ソーセージも付けて。


「私は、それもいい事だと思うぞ、ティルラ。鍛錬をしているとはいえ、まだまだ子供だ。強力な魔物が味方に付くというのであれば、私も安心できるしな。――タクミ殿もそう思うだろう?」

「俺ですか? そうですね……ティルラちゃんは、シェリーをやレオを見てから、従魔を欲しがっていましたし、悪くはないと思います。確かに、安全面では今よりも心強いでしょう。まぁ、ティルラちゃんがあの魔物を気に入るかどうか……でしょうかね?」

「私もそう思います。私にはシェリーがいますし、タクミさんにはレオ様がいらっしゃいます。護衛のため……というよりも、良き友としていてくれればと」


 エッケンハルトさんは、ティルラちゃんが従魔とする事に賛成のようだ。

 理由に関しては確かにティルラちゃんはまだ子供だから、オークを倒せるくらいになっていてももし狙われたりしたら危険かもしれない……という考えがあるんだろう。

 公爵家のご令嬢だからな、危ない事を考える奴がいてもおかしくはない。

 なぜか俺にも意見を求められたので、エッケンハルトさんに同意しつつも、ティルラちゃんと仲良くやれるならという事に近い意見も出しておいた。


 せっかく従魔を得たとしても、お互い仲良くできなければ、あまりいいとは思えないからなぁ。

 クレアさんも同意するように頷きつつ、護衛代わりとかではなく、友になれるのなら従魔とするのもありだと考えているようだ。

 ティルラちゃんは、孤児院とかに行けば遊ぶ友達もいるようだけど、屋敷には近い年ごろの相手はリーザくらいしかいないし、遊び相手と言えばレオとシェリーとリーザくらいだ。

 そう考えると、友を得るというのはいい考えだと思う。

 これも同じく、ティルラちゃんとあの魔物の相性が良ければ……だけどな。


「ふむ、そうだな。ついつい、利について考えてしまうが、そういう利害を超えた関係を築けるというのも、ティルラくらいの年齢には大事な事だな」

「……うーん、わかりません。でも、従魔が欲しいのは本当です」

「それなら、とりあえずあの魔物と話してみるかい? リーザとレオがいれば、従魔になっていなくとも話ができるだろうしね」

「はい、そうします!」

「それがいいな。当事者同士で話すのは重要な事だ。それで、ティルラが嫌だと思うのなら、丁重にお引き取り願えばいいだろう。それにしても……意志の疎通が容易だというのは、知性を持つ魔物に対して有効だということがよくわかるな」

「そうですね。フェンリル達もそうですし、今までお互い何を考えているかもわからなかったので……そのせいで、いらぬ衝突もあったのでしょう」


 エッケンハルトさんは、俺とクレアさんから出た意見に頷きつつ、ついつい利害について考えてしまう自分を反省していた。

 公爵家の当主ともなると、そういう考えができないといけないだろうし、大変そうだ。

 ともあれ、これは大人達の意見なので、ティルラちゃんの感覚としてはよくわからないらしく、可愛く首を傾げるだけだった。

 それならと、まずは魔物と話してみる事を勧めてみよう。


 せっかく意思疎通ができるのだから、まずはお互い話して本当にそれでいいのかを確かめるのも手だから。

 ……というかこれって、なんとなくお見合いに似ている気がするのは、気のせいだろうか?

 俺がふと考えているのを余所に、ティルラちゃんが頷き、エッケンハルトさんとクレアさんは乗り気の様子。

 ま、まぁ、魔物と意思疎通なんて中々できないらしいから、いい機会だよな。

 オークとは違って、ちゃんと話せば理解してくれるんだから。


「えーと……なんで、私を選んでくれたんですか?」


 ティルラちゃんを連れて、レオの元へと戻る。

 身を竦ませていた鳥型の魔物は、ティルラちゃんが来た事を喜ぶように、翼をバサバサとしていた。

 通訳を担当するのはレオとリーザ……主にリーザだな。

 レオの背中に乗って意気揚々としているのは、頼りにされて嬉しいからか、遊びのような感覚だからなのか……後者っぽいな。


「キィー。キィキィ!」


 俺の前に立ったティルラちゃんは、何を話そうかちょっとだけ悩んだようだが、すぐに毅然として魔物に対して問いかけた。

 相手は自分よりもかなり大きな魔物なのに、こういうところはエッケンハルトさんやクレアさんに似ているな。

 そのエッケンハルトさん達は、レオの後ろでハラハラしながら見守っている様子なんだが……心配なら、こちらに来ればいいのにと思う。

 別に、邪魔になったり、魔物を囲んでいるレオやフェンリル達が邪険にするわけでもないんだがなぁ。



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