第550話 フィリップさんとペアを組みました



 翌日、薬草のおかげで俺を含めた数人は気持ち良く目覚め、さっさと朝の支度を終わらせる。

 エッケンハルトさんは、薬草があるとやっぱりよく寝られると言っていたが、あまり頼り過ぎない方がいいような気もするから、今夜からはなしだと伝えておいた。

 朝食では、落ち込んでしまったエッケンハルトさんを除き、昨日の夕食と同じような忙しさが再来。

 親フェンリル達が、よく食べるからな。


 朝食が終われば、親フェンリル達との別れを済ませて……と思ったら、まだ俺達と一緒にいるつもりのようだ。

 シェリーとできるだけ長く一緒にとか、レオに従うためだとは思うが、どちらかというと料理された物に釣られている気がしなくもない。

 俺達が帰った後、自分達で食事をする時に不満を抱くようにならなければいいんだが……。


 ともあれ、フェンリル達はともかく引き続き、俺やティルラちゃんの鍛錬だ。

 シェリーに至っては、昨日両親の勇姿を見たおかげなのか、今まで以上にやる気になっていた。

 ……やる気になるのはいい事だとは思うが、それで初日のように失敗をしなければいいんだけどなぁ。


「リーザは、何をしているんだ?」

「ワフ? ワフワフ」


 もはや恒例となったオークを待っている時間、俺やレオから離れた場所で、親フェンリル達と話しをしている様子のリーザ。

 何かを熱心に教えているようで、尻尾がしきりに振られているが……何をしているのか。

 レオに聞いてみても、首を傾げたり横に振ったりと、何をしているかはわからないようだ。

 まぁ、レオが言い聞かせたから、リーザが襲われる事はないだろうし、楽しそうに話している分には問題ないか。


「来たぞ……タクミ殿、フィリップ」

「はい……」

「はっ!」


 今日はまず、近くにオークが二体いたみたいなので、俺とフィリップさんがペアを組んで戦う事となった。

 ニコラさんを含めた残りの護衛さん達総出で、オークをおびき寄せている。

 クレアさん達のように戦えない人達に対する護衛は、レオやフェンリル達がいるから問題ないだろうからな。

 森の方を見ていたエッケンハルトさんが、俺と横に立つフィリップさんに声をかけ、心構えを促す。


 二人で同じように頷き、剣を抜いて構えながら、数歩前へ。

 今回は刀を抜いたり、昨日のように変則的に使ったりする事は禁じられた。

 フィリップさんと共闘という事で、同じ剣を持って戦うように言われた。

 確かに、昨日の使い方はともかく、フィリップさんが使う剣と刀は違う動きになるから、同じ物を使った方が合わせやすいだろう。


 今回は、ただオークを倒すというだけでなく、人と一緒に共闘した時にできるだけ息を合わせて行動できるかを、見るためなのだから。

 それならば、刀を使うのではなく剣を使った方がやりやすいしな……俺もフィリップさんもお互いに。


「タクミ様、まずはそちらから、オークに向かって下さい。私はタクミ様に合わせて動きますので」

「わかりました。フォローはお願いします」

「はい」


 森の方から、ニコラさんを先頭に護衛さん達が走って来るのを見ながら、軽く打ち合わせをするように言葉を交わす。

 フィリップさんの方が戦い慣れているのは間違いないから、フォローというか合わせるのは任せた方がいいだろう。

 もちろん、俺が無茶苦茶な動きをしていいわけではないが、フィリップさんの動きに俺が合わせてフォローをするというより、よっぽど上手くいくはずだ。

 というか、俺だとまだフォローをするとか、そういう事ができそうにないからな。

 ……それを学ぶための、今回の戦闘だ……心してかかろう。


「それでは、タクミ様……」

「はい。行きます……!」


 森からオークが二体、抜けて来るのを見てフィリップさんに頷いて、駆け出した!

 相変わらずの猪突猛進なのか、オークは森から抜けて突然視界に入り込み、向かって来る俺に驚いている様子だ。

 とはいえ、ニコラさん達が結構挑発したんだろう……既に顔は真っ赤で興奮していて、すぐに俺へ向かって突進をしてきたが……。



「ふむ、フィリップが慣れている分、悪くはなかったな」

「はぁ……ふぅ……そう、ですね。昨日とは違って、余裕を持って倒せました」

「剣を習い始めて数カ月とは思えない動きでしたよ。昨日までの動きで、わかっていた事でしたが……」


 動かない二体のオークを見下ろし、乱れた呼吸を整えながら近付いてきたエッケンハルトさんと話す。

 俺の横では、フィリップさんが汗を拭きながらも、まだ余裕はある表情で評価してくれた。

 乱れた呼吸を整えるのに必死な俺と違って、ほとんど息を切らせていないもんなぁ……褒められるのは嬉しいが、やっぱりまだまだだな。


 オーク二体との戦いは、昨日一人で戦った時とは違って、特に時間がかかる事なく決着した。

 フィリップさんも俺も、怪我一つする事なかったから、成果としては上々だろうと思う。

 戦闘に関しては簡単だ。

 俺がオークに向かって突撃、むこうは突進して来ているので、横にずれながらだから致命傷までは与えられない。


 多少の傷を負わせてすれ違い、方向を変えようとするオークに対し、後ろからフィリップさんが近寄って足の腱を狙うように剣を振る。

 さすがにオークも動いているから、一度や二度で二体いるオークの足の腱を斬る事はできなかったが、それでも多少の切り傷を負わせる事はできていた。

 そして、それが積み重なって動きの鈍ったオークの足の腱を、フィリップさんが切る事に成功する。


 基本的には、大体俺がオークに向かってある程度の傷を負わせながら挑発するのと、突進をさせる。

 すれ違った後、フィリップさんが近付いて足を狙って剣を振った後、すぐに離れる……という繰り返しだった。

 元々、俺の鍛錬や経験を積む事が目的なのだから仕方ないが、ほとんど俺は囮のようなものだった。

 とはいえそれでも、ちゃんとフィリップさんは俺がオークの攻撃を避けやすいよう、足の健が斬れなくとも、傷を負わせて動きを鈍らせてくれたからな。


「足の腱を斬られて、それでも前に進もうとした結果……前のめりに倒れるか。中々考えたな、フィリップ?」

「やはり、オークの突進は脅威ですからね。広い場所なら避けるのも比較的楽にできますが、それでも当たってしまえば人間は軽々と吹き飛びます。二体もいれば、さらに脅威が倍増……いえ、一体に飛ばされた後、もう一体からの突進に当たるような事があればひとたまりもありません。なのでまず、足の動きを止めるべきだと……」

「うむ、そうだな。そして、少しずつ弱らせていった結果、狙いやすくなった足の腱を……だな」

「前のめりに倒れた後、少し滑っていましたからね……よっぽど、俺に突進を当てたかったんでしょうね」


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