第487話 刀の使用許可が出ました



「タクミ殿は、初めての実戦で大量のオークを相手に、機転を利かせて時間を稼いだり、村の者を助けたりしたと聞く。そんな事ができるのは、新兵では希少中の希少だろうな」

「そうなんですかね? あの時は必死で……とにかく皆の所にオークを向かわせないようにとだけ考えていましたから……」

「そう考える事ができて、さらに有効な手を実行できるだけでも、通常ではできないのだがな」

「でも、結局はレオに助けられましたし……」

「だが、タクミ殿が頑張っていなければ、レオ様が到着するまでにオーク達によって村は蹂躙されていた可能性も高い。良くても、複数の死者が出ていただろう。複数のオークを相手に、時間を稼いだだけでも立派なものだ」

「まぁ、負傷者は出ましたけど……死者が出なかったのは、自分でも頑張ったと思いますね」

「うむ、そこは誇りに思っていいところだろう」


 あの時はとにかく必死だったからなぁ……。

 レオか来る事は予想していなかったが、とにかく村への被害を減らすため、オークをどうにかする事ばかり考えていた。

 最初は、村の人達が逃げる間だけ、時間を稼ぐことができれば良いと考えていたんだけど、ハンネスさん達は戦おうとしてくれたしな。

 それもあって、レオが来るまでに俺はなんとかオークにやられずにいられたのもある……怪我はしたけども。


 『雑草栽培』がオーク相手に発動したりと、驚く事や新たな発見もあったが、とにかく皆無事で終わって良かったと思う。

 ……自分が誇らしく思えるが、それとは別にレオには本当に感謝だな。


「あ、そうだタクミ殿。オークと戦う時は、薬草を使うのはなしだぞ?」

「はい、わかっています。実力を見るためなので、そういった事は考えていません」

「うむ。まぁ、もし怪我をした場合の治療なら、話は別だがな」


 思い出したように言うエッケンハルトさんだが、最初から俺はそのつもりがない。

 身体強化の薬草とか、戦うために有効な薬草は禁止にしている。

 一応、実戦経験を得るため以外にも、今まで鍛錬をしてきた実力を試す意味合いもあるので、本来の自分を見せなきゃいけないからな。

 要は、ドーピング禁止というわけだ……多分。


「あとそうだな、刀を使ってもいいぞ?」

「いいんですか? それじゃ、ティルラちゃんの見本にならないのでは……?」

「構わん。ティルラにはまずオークがどういう者なのかという事を、見せるだけでいいだろう。……というより、タクミ殿の武器まで気にしている余裕が、ティルラにはなさそうだからな」

「……確かに、そうですね」


 ティルラちゃんの見本として、最初に戦うのだから、刀ではなく剣を使おうと考えていたが、エッケンハルトさんの許可が出たため、刀に変更。

 刀は剣と一緒に持って来ていて、今も左側の腰に両方下げている。

 今回は、スラムに行く時と違って使う事もあるだろうと考えていたから、右側ではなく左側だ。

 エッケンハルトさんの許可が出たので、刀を抜いていつオークが来てもいいように備える。


 ついでに、動きの妨げにならないよう、一緒に腰へ下げていた剣を外して地面に置く。

 オークに備えながら、エッケンハルトさんの視線を追ってティルラちゃんの方を見ると、ガチガチに緊張していた。

 今なら、歩くと同じ方向の手と足が前に出そうなくらいだ。

 これは確かに、武器の使い方とか、細かい事を見ている余裕はなさそうだな……。


「ワフ、ワフワフ」

「わかった」

「来たか……」


 フィリップさん達が森へ入って体感二十分くらいが経った頃、油断なく森へ顔を向けていたレオが鳴いた。

 それによると、フィリップさん達がオークを連れて戻って来たらしい。

 よく耳を澄ますと、森の中でフィリップさん達の声や、木を揺らしているような音が聞こえた。

 教えてくれたレオを、刀を持っていない方の手で感謝を伝えるように撫でた後、呟くエッケンハルトさんに頷いて、数歩前へ出る。


 数分も立たないうちに、ガサガサと騒がしく草木を掻き分けながら、フィリップさん達が森から出て来る。

 その後ろには、もう見慣れたくらいになった、二足歩行の豚……オークが顔を真っ赤に染めて走って来ていた。

 囮になっておびき寄せるのは、その通りになったようだが……顔が真っ赤って、相当怒ってるよな?

 フィリップさん達、どんな方法で挑発したんだろう?


「タクミ様、二体いたオークのうち、一体はこちらで処理させて頂きました! 後はお任せします! ちょっと石をぶつけたりして挑発し過ぎたので、怒って興奮していますが、タクミ様ならきっと大丈夫です!」

「申し訳ありません、フィリップ殿がこの方がいいと言って聞かなくて……任せました!」

「御武運を!」

「もう少し穏便にして欲しかったと思いますが、わかりました!」


 森の奥からこちらに迫って来るオークを見据え、刀を構える俺の横を、フィリップさん達が駆けてすれ違いつつ、言葉を交わす。

 二体いて一体を処理してくれてるのは、さすがだと思うが……おびき寄せるなら、もう少し興奮させないようにして欲しかったと思うのは、俺の我が儘だろうか?

 ともあれ、そうなってしまっているのは仕方ない。

 俺の横を通過していくフィリップさん達に答えつつ、ジッと森からこちらに向かうオークを見据えた。


「ひとまず、突進を止めないとな……刀で受けるわけにはいかないし……あの手で行くか」

「ギュオ!! ギュオ!! ギュオォォォォアァァァ!!」

「……というか、ちょっと興奮しすぎじゃない?」


 フィリップさん達を追いかけてきたオークは、リンゴかと思うくらい真っ赤な顔で、俺を気にする事なくそのまま逃げたフィリップさん達の方へ一直線。

 さすがに、このまま突進させるとクレアさん達がいる所へ行ってしまうので、止めないといけない……というか、俺が倒さなきゃいけない。

 まずは、動きを止めるため、興奮しすぎなオークへ向かって手をかざす。

 俺の事は見ていないが、オークは俺がいる場所へ向かって突進している。

 もちろん、向こうの標的はフィリップさん達なんだろう。


 ……興奮し過ぎて、これで止まってくれるかわからないが、ランジ村では時間稼ぎに役立った方法だから、速度を落とすくらいはできるだろう。

 オークそのものの動きは速くないが、その重量からの突進の勢いは怖い……これを刀でどうにかしようとするのは、ちょっと無謀かな……刀が折れてもいけないし。

 とにかく、最低限オークの勢いを殺すため、かざした手に魔力を集めた――。



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