第480話 クレアさんとエッケンハルトさんが来ました



 焚き火を見ながら、近い位置にあるテントを見て、リーザを運ぶくらい何でもない事を確認する。

 ちなみに皆が寝ているテントは、前回の時よりも増えている。

 前回は男女で別れた二つだったが、今回は人数が多いため、男性用二つに女性用二つだ。

 男性用は俺とリーザ、エッケンハルトさんとフィリップさんが一つを使い、護衛さん二人とニコラさん、セバスチャンさんと執事さんがもう一つを使う。

 女性用は、クレアさんとティルラちゃん、ヨハンナさんとシェリーが一つを使って、ライラさんとメイドさんはもう一つのテントに入っている。


 リーザが俺やエッケンハルトさんと同じテントなのは、やっぱり寝る時は俺かレオと一緒に寝たいとの事だったし、さすがに体が大きすぎてテントに入れないレオと一緒に外では寝させられないからだな。

 男女ともに、エッケンハルトさんやクレアさんの方に、必ず一人は護衛さんを入れる事になっている。

 これは、もしもの時を考えてだ。

 レオが外で寝ている時点で、もしもというのはなさそうだが、念のためだな。


「……んー……」


 見張りも半分くらいの時間が過ぎた頃、さすがに眠気の限界に達しそうになっているリーザが、ほとんど目の開いていない状態で、ウトウトし始めた。

 持っている懐中時計を見ると、一時付近を示していたので、むしろここまでよく頑張って起きてたというところだろう。

 ……そろそろ、テントに運ぶ頃かな?


「リーザは、さすがに眠そうだな。運ぶか?」

「ん? エッケンハルトさん?」

「私もいますよ、タクミさん」

「クレアさんまで。どうしたんですか? 寝られないんですか?」

「んやー……?」


 リーザ―が寝るかどうかを見て、完全に寝入ったら抱き上げて運ぼうか……と考えていたら、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、そこにはエッケンハルトさんが立っていて、クレアさんもその後ろから顔を覗かせていた。

 二人共、寝てたんじゃなかったのか……というか、気付かなかったな……リーザの方へ意識を向けていたというのもあるだろうが。

 エッケンハルトさんなら、気配を殺して物音を立てずに歩くくらいはできそうだが、クレアさんも似たような事はできるのか?


 初めてクレアさんと会ったのが森の中で、一人で屋敷を抜け出していたんだから、護衛さんに気付かれないように、少しくらいならそういう事ができるのかもしれないが……。

 レオはエッケンハルトさん達の接近に気付いていたのか、耳をピクピクと動かしただけで、特に大きく動いたりはしていない。

 ……もっと、周囲に気を配っていないといけないな。


「クレアお姉ちゃーん……」

「あらあら、甘えん坊さんね?」


 眠くてトロンとした目をしながら、声を聞いて耳を動かしたリーザは、ちょっとふらふらしながらもクレアさんへと抱き着く。

 眠気が限界な時に、甘えられる対象が来たから、本能的に動いたような感じだ。

 多分、普段のリーザだったら、そんな行動はとらないだろうが、もしかしたらラクトスで抱き締めた時の事が印象的で、無意識に甘えたい衝動と一緒に行動してしまったのかもしれない。

 ……それなら、俺やレオにもっと甘えてもいいんだがなぁ。


 クレアさんは、そのままリーザを抱き締め、右隣にいるレオの向こうに腰を下ろす。

 リーザは、クレアさんに抱き着いた格好のまま、膝の上に乗っているな。

 腰を下ろすと言っても、地面に直接というわけではなく、焚き火を囲むように人が座れるような丸太を置いてある。

 そこに腰を下ろして座るって寸法だな。

 さすがに座れないレオは、俺の座ってる丸太と、クレアさんの座る丸太の間で丸くなってる。


「はっはっは、リーザはクレアに取られてしまったな?」

「まぁ、眠気の限界なんでしょう。――クレアさん、重かったり、辛かったら言ってさい。テントに連れて行って寝かせますから」

「はい。ですが、大丈夫ですよ。リーザちゃんは軽いですからね。……さすがにシェリーより軽いという事はないですけど」

「シェリーと比べるのは、さすがに大きさが違い過ぎますね」


 元々リーザが座っていた場所、俺の左隣にエッケンハルトさんが腰を下ろしながら、笑う。

 それに答えつつ、クレアさんに抱かれて寝息を立て始めたリーザを見る。

 甘えられる相手に甘え、抱き着いた安心感と、クレアさんの温かさのおかげか、眠そうにしていたリーザはすぐに寝入ってしまったようだ。

 リーザにとっては、ここらが限界なんだろう……寝不足なのも原因だろうしな。


「今朝は、早く起きていたのだったか? 裏庭でのんびりしていたと聞いたが」

「そうですね。森に来る事が楽しみで、昨夜も中々寝付けなかったようで……多分、少し寝不足なのもあるんでしょう」


 エッケンハルトさんは、執事さんか誰かに聞いたんだろう。

 俺がリーザに朝早く起こされて、裏庭に出ていた事を聞かれる。

 

「そうか。ティルラも似たようなものだったが……リーザの方が楽天的なのかもしれんな。獣人というのも関係しているのかもしれん」

「お父様、リーザちゃんはティルラと違って、オークと戦うという目的がないのですよ? レオ様やタクミさんの近くにいて、魔物を怖がっている風でもありませんし、獣人というのはあまり関係ないのかもしれませんよ?」

「む? ふむ……そうだな。魔物が出る事やオークの事は教えたが、ティルラのように、戦うという目的で来ているのではなかったな。安心のできる相手がいて、危険も少ない……」

「ほとんど、森へ遊びに来てる感覚なんでしょうね」

「そうだな。本来危険な場所のはずなのだが……これだけの人数がいて、レオ様もいるのだから、危険という事はあまり考えられないな」


 ティルラちゃんの事を考えつつ、リーザが楽天的な事や獣人という事を考えるエッケンハルトさん。

 けど、それはすぐにクレアさんに否定された。

 リーザが楽天的かどうかは微妙な所だが、前向きなのは間違いないだろうな。

 ティルラちゃんと違って、戦う目的ではないにせよ、森の中に入って色々な事を楽しんでる。

 緊張してたり、後ろ向きな性格だと、安全な場所にいてもあまり楽しめないだろうしなぁ……。


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