第463話 シェリーはトロルドがトラウマになっているようでした



「構わん。どうせ、そろそろ夕食の時間にもなるからな。ゆっくり話す時間もあまりとっていなかったのだ、たまにはいいだろう」

「それでお父様、レオ様に何か話があるとの事ですけど?」

「タクミ殿から聞いていないのか?」

「あー、説明するよりも連れてくる方が先と思って……エッケンハルトさんが呼んでいる、としか言っていません」

「そうか、わかった。えーとだな……?」


 クレアさんがエッケンハルトさんに話しを促し、皆にはまだ説明していない事を告げると、レオの方へ顔を向けて話し始めた。

 まずは、レオにシェリーの事を聞く事からみたいだな。


「ワフ……ワーフワウ。ガウガウ、ワウー」

「……レオ様はなんと?」

「適当にオークと戦わせると言っています。場合によっては、それ以外の魔物とも。多分、見つけられるかどうかによって変わるのかと」


 森へ行った後のシェリーはどうするのか、レオが答えて、俺が通訳。

 リーザと違って、確実性は低いかもしれないが、ほとんど間違っていないだろう……俺が言った後にレオも頷いてるし。

 通訳はリーザに頼んでも良かったんだが、森へ付いて来なかった場合、代わりに俺が通訳する必要があるため、その練習みたいなものだ。


「ふむ、成る程な。それでは、シェリーはティルラやタクミ殿と同様、オークとの実戦を積ませると考えていいのですかな?」

「ワフ! ワフワフ? ワウ!」

「そうだけど、オーク以外の魔物とは戦わないのかと聞いてますね。トロルドあたりがいいだろうとも」

「キュゥ!?」


 レオとしては、俺やティルラちゃんとは違い、シェリーにオーク以外の魔物と戦わせる事も考えているようだ。

 ダイエット計画と共に、フェンリルとして鍛える目的もあるから、多少俺達よりも厳しめにするんだろう。

 ……盗み食いをした事を、レオがまだ怒っているとかではないと思いたい。

 あと、トロルドというのを聞いた瞬間、シェリーが弾かれたように顔を上げて、声を上げた。


「……どうしたの、シェリー?」

「キャゥキャゥ……キュゥ……」

「そうなのね。――シェリーは、トロルドとだけは戦いたくないと言っていますね。どうなのでしょうか、レオ様?」

「ワフゥ……ガウガウ! ガウ!」

「キュゥ……」


 シェリーを膝の上に乗せていたクレアさんが聞くと、元気がないながらも説明するように鳴いた。

 従魔となっているおかげで、シェリーの言っている事がわかるクレアさんが通訳してくれる。

 それによると、シェリーはトロルドとは戦いたくないらしい……声にも元気がなかったし……もしかしたら、以前森の中でやられていた事があるため、トラウマのようになっているのかもしれない。

 複数で囲まれ、痛めつけられ、瀕死にまでなっていたんだから、仕方ないか。


 だがレオは、溜め息を吐くようにした後、シェリーを厳しく叱るように吠える。

 それでさらにシェリーがしょんぼりしてしまったな……。

 えっと、レオが言ったのは……トロルド如きにフェンリルが臆するんじゃない! とかそんなところかな。

 エッケンハルトさん達にも、レオがどういったのかを教える。


「ふむ……確かに魔物としての強さは、本来フェンリルの方が上だな」

「そうですな。トロルドは、体の大きさと力という点では凄まじいのですが、フェンリルと比べますと、危険度は全く違います。素早く動き、木々をも斬り裂く爪と魔法を持つフェンリル。大してトロルドは、その巨体から繰り出される力任せの攻撃……動きが遅いので、フェンリルであれば軽々と避けられる事でしょう。……実際に見た事はありませんが」

「まぁ、魔物同士が争う場面なぞ、早々見られるものでもあるまい。……トロルドは、オークより上だが、フェンリルとは比べるのもおかしい程の差がある……というのが、我々の認識だな」

「ワフ!」

「キュゥゥ……」


 トロルドとフェンリルを比べて、どちらが強いかを話すエッケンハルトさんとセバスチャンさん。

 俺は直に戦った事はないが、ランジ村に向かう途中にレオが倒すところを見た事はある。

 遠めだったが、確かに動きは遅く見えたな……俺が戦ったら、避けられるかどうかは別として。

 力が強い分、遅い動きでも当たってしまえばひとたまりもないだろうから、俺からすると十分に脅威なんだが……エッケンハルトさん達に同意するように、力強く頷いたレオにとっては、取るに足らない相手のようだ。

 ……さらにシェリーがしょんぼりしてしまったな。


「ワフ?」

「ん、なんだ?」


 しょんぼりした様子のシェリーを見て、どう言おうか悩んでいると、レオが俺に鼻先を向けて、首を傾げた。

 何やら俺に聞きたい事があるらしい。


「ワフワフ、ワフ?」

「それは、さすがに用意されるだろう。――セバスチャンさん、シェリーもそうですけど、皆の食事はどうなりますか?」

「食事ですか? 以前と同じように、森へ入る執事やメイドがご用意させて頂きます」

「そうですか、ありがとうございます。――だそうだぞ、レオ?」

「ワフゥ……」


 レオの心配はどうやら食事の心配だったみたいで、セバスチャンさんに聞いてみると、前回ライラさんが調理してくれていたように、今回も用意してくれるとの事だ。

 話の最中に食事の心配とは、レオも食いしん坊だ……と思いかけたが、どうやら違うらしい。

 セバスチャンさんや、俺の言葉を聞いて、少しだけレオが考える仕草。

 顔をしかめるレオなんて、嫌な匂いを嗅がせてしまった時以来だなぁ……なんて考えつつ、その様子を眺める。


「……ワフ! ワフワフ、ワーフ。ワフワフ?」

「キャゥ!?」

「あー、成る程……そういう事か」


 何やら思いついた様子のレオは、それを伝えるために鳴き始める。

 えっと、何々……シェリーはオークを倒して、その場で食べ物を得るから、調理は任せられる? とかそんな感じかな?

 通訳した言葉を、セバスチャンさんに伝えて聞いてみる。

 ちなみに、さっきから驚いた様子のシェリーは、スルーされている。


 レオによるダイエット計画に関わる事なので、誰も口を挟めないんだろう。

 フェンリルを正しく鍛える方法なんて、俺やクレアさん達にはわからないしな。

 シルバーフェンリルであるレオに任せる事にしてるから――。



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