第447話 ランジ村に獣人差別はなさそうでした



「それじゃあ、ランジ村にリーザを連れて行っても、大丈夫そうですね」

「タクミ様やレオ様が保護していらっしゃるのであれば、何も問題はないかと。村の子供達が何か失礼な事をするとは考えられますが……ロザリーのように……」

「んー、まぁ、子供達同士でちょっとした事はあってもおかしくはないですね。ですが、獣人だからと差別するような事がなければ問題ありませんよ」

「そこは、大丈夫かと思います。村の子供達は獣人を差別する事はないかと……見た事がないはずなので、絶対とは言えませんが……根も葉もない噂を信じるようにはしておりません」

「それなら安心ですね」


 リーザはまだまだ子供だ。

 今までの経験から、少し大人びたような……諦めのような気持ちはあったみたいだが、それはスラムでいじめられてたからに過ぎないしな。

 ランジ村の子供達とは、あまり諍いを起こして欲しくないと思うが、子供同士で意見が別れる事も、ちょっとした喧嘩をする事もあるだろうし、そこは仕方ない。

 差別するようだったら、注意したりはするだろうが……子供が喧嘩とか、よくある事だし、普通の事だしな。


 リーザには、もっと子供だからこその経験をして欲しいと思う。

 というより、かわいいうえに特徴的な耳と尻尾のおかげで、女の子達には人気になりそうだな。

 ロザリーちゃんの反応がいい例だ。



「では、頂こう」

「いただきます」


 夕食の配膳が終わり、エッケンハルトさんの合図で、皆が食べ始める。

 俺は癖にもなっている、手を合わせての頂きますだが、他の皆は思い思いに頷いて、料理に手を付け始めた。

 今日は、少しだけいつもと違う形で座っての食事だ。

 エッケンハルトさんは、当主様らしくいつもの上座で、その左側にクレアさんとアンネさんで、右側は俺とハンネスさんの並びだ。


 少し離れた場所に、シェリー、レオ、ティルラちゃん、リーザ、ロザリーちゃんと並んで座っているのは、子供達とレオを一緒にした方が喜ぶだろうとの配慮だ。

 エッケンハルトさんがそうしてくれた。

 シェリーは、食べ過ぎないようレオが見張るための位置だけどな……結構厳しい。

 レオがシェリーを時折注意しながら、リーザ達を見守っている形だ。

 自分も食べたいだろうに、子供好きで面倒見がいいな、レオ。


 ティルラちゃんやリーザ、ロザリーちゃんは、それぞれ年齢はちがうが、近い年頃としてキャイキャイと楽しそうにしながら食べてる。

 今日ばかりは、クレアさんもティルラちゃんが多少行儀悪い事をしても、注意したりはしないようだ。


「それでですが、エッケンハルトさん?」

「ふぉうひは、ふぁふひぼも?」

「お父様、それはさすがに行儀が悪いです……」


 食事をしながら、ティルラちゃん達の方を、目を細めて朗らかに見ていたエッケンハルトさんに声をかける。

 タイミングが悪かったのか、エッケンハルトさんはお肉を口いっぱいに頬張った時だったようで、返事はよくわからない言葉だった……多分「どうした、タクミ殿?」とかだろう。

 口の中に物が入った状態で喋ろうとした事を、クレアさんに注意されつつ、咀嚼して飲み込むのを待って、話し始める。


「いえ、住む場所の事です。あまり大きすぎるのも落ち着かないので、止めて欲しいのですが……あと、費用の方もですね」

「なんだ、そんな事か? 気にしなくてもいいのだぞ? 公爵家の利益にもつながる事だ。屋敷一つ建てるくらいなんて事はない。それに、クレアも住むのだしな。使用人もいる事を考えると、ここと同じくらいの大きさが必要だろう?」

「いえ……さすがにここと同じはちょっと……」


 今俺がいるお屋敷……公爵家の別荘なんだが、その大きさは豪邸と言わざるを得ない。

 くまなく屋敷内を探索した事はないが、三階建てくらいで、高さはそこまででもないのだが、その分横に広い。

 屋敷内を端から端まで移動しようとするだけで、数十分はかかるくらいだ。

 それに、庭を含んだ周囲を囲む、数メートルの高さがある塀までの範囲を含めると、正直徒歩で移動するのを躊躇われるくらいだ。

 車とは言わずとも、自転車くらいは欲しい……どちらもこの世界にはないだろうが。


 さすがにそれだけの大きさを、ランジ村に建てるのはなぁ……大き過ぎるし、自分が暮らす家として落ち着く気が全くしない。

 レオがいるので、ある程度の大きさが必要なのはわかるが、もう少しこじんまりとしていた方が、俺としては住み心地がいいと思う。


「大きいとあまり落ち着かなさそうで……」

「そうなのか? ふむ……この屋敷には馴染んでるようだが」


 多少は馴染んでるが、お世話になってる感が強いのはまだまだ取れない。

 実際お世話になってるんだから、ここにいる限りはそのままでもいいんだろうけど。

 でも薬草畑を作って、それを管理して……自立すると考えると、いつまでもお世話になりっぱなしというのもな……。


「ここは使用人の皆さんが、気を使ってくれますからね。快適ではあります。クレアさん達も、良くしてくれてますし」

「公爵家としても、タクミ殿やレオ様がいてくれる方が良いからな。もう身内のようなものだ。……正直、娘ばかりで肩身が狭くてな?」

「お父様?」

「んんっ! なんでもないぞ、クレア」


 娘ばかりで、父親が肩身の狭さを感じるのは、ここでも同じようで、声を潜めたエッケンハルトさんだが、クレアさんには聞こえていたようだ。

 もしかしたら、エッケンハルトさんは男の子も欲しかったのかもな。

 それはともかく、この屋敷にいると使用人さん達が色々とやってくれるから、快適で居心地はいいんだが、いつまでもお世話になりっぱなしというのは遠慮したい。

 エッケンハルトさんから、身内と言われて嬉しくは思うけども。


 そうして、食事をしながらしばらくランジ村で暮らすための家をどうするのかを話し合った。

 ほとんど、エッケンハルトさんが大きな家……屋敷を用意する事と、費用を負担する事を止めさせる方法を考えるばかりだったが。

 ハンネスさんは、自分の村に関係する事だが、口を出す事は遠慮していた。

 どちらにせよ、公爵家と直接的なつながりができる事は歓迎だろうし、村としては大きな屋敷でもこじんまりとした家でも、良い事だと考えてるみたいだ。

 ……個人的には、あまり大きな家は村に相応しくないとか、援護して欲しかったが……いや、ハンネスさんはそんな事を言わないだろうけどな。



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