第437話 久しぶりにハンネスさんと話しました



「ワフワフ」

「キュゥ……ヘッヘッヘッヘ!」

「体を動かすのは楽しいよ、パパ!」


 延々と走り続けたレオ達が、それぞれ俺とティルラちゃんの方へと寄って来る。

 レオが疲れを全く見せないのは、なんとなくわかるが……リーザがほとんど息を乱す事なく、楽しそうにしてるのには驚きだ。

 これも、獣人だからなのか……?


 とりあえずシェリーは、力なく一声上げた後、舌を出して荒い息を吐いてるな。

 四本足で立つのもフラフラしてるようだが、大丈夫か?


「おつかれさん。リーザ、良かったな。……シェリーは大丈夫なのか?」

「ワフ! ワウワウ!」

「キュウ……」


 それぞれに声をかけ、労う中で、駆け寄ってきたリーザの頭を撫でつつ、シェリーの様子を窺う。

 レオは、これしきの事で軟弱な! とでも言うように鳴き、シェリーの方は落ち込んでいる様子だ。

 まぁ、リーザが平気そうなのに、フェンリルであるシェリーが疲れ果ててるのは、情けないのかもしれないな。


「……まぁ、シェリーはここで休んでてくれ。ティルラちゃんは……」

「シェリーを見てます!」

「そうだね、よろしく頼むよ。それじゃ、リーザもティルラちゃんと一緒にいるといい。もしシェリーが復活するようなら、一緒に遊んでたらいいかもな。お客さんが来たらしいし、これからちょっと話をして来るから」

「うん、わかった、パパ!」

「キャゥゥ……」

「ワフ?」


 しばらくはシェリーも自力で動きたくないだろうから、ここで休んでもらうとして、ティルラちゃんはと聞くと、ここで一緒にいるようだ。

 シェリーの事を頼んで、リーザも一緒にいるように言う。

 素直に頷くリーザの頭を、もう一度しっかり撫でる。

 ハンネスさんが来たというのは、何かあったのかわからないが、薬草畑の事も話すはずだ。

 リーザを連れて行っても話ばかりで退屈だろうし、ここでティルラちゃんやシェリーと一緒にいた方が楽しいだろう。

 それぞれと話していると、のっそりと横に来たレオが、首を傾けて自分は? と聞くように鳴いた。


「レオは、俺と一緒だ。ハンネスさんが来てるらしい。挨拶しておこう」

「ワフ! ワウワウ?」

「ロザリーちゃんは……どうなんだろう? 聞いてなかったな。まぁ、とりあえず行ってみよう」

「ワウ!」


 ハンネスさんが来てると聞いて、レオは勢いよく頷いたが、すぐ後に首を傾げてロザリーちゃんの事を聞いて来た。

 ロザリーちゃんはレオに懐いていたし、レオもランジ村にいる時によく遊んでいたから、覚えていて気になったんだろう。

 セバスチャンさんからは、ハンネスさんが連れて来ているとは言われていないが、もしかしたら一緒に来てるかもしれない。

 以前も、付き添いのようにして、一緒に来てたからな。

 とりあえず、言ってみればわかるだろうと、ティルラちゃんとリーザにシェリーを任せて、飲み水を用意しているライラさんに断り、レオを連れて屋敷へと戻った。



「失礼します。……ハンネスさん、お久しぶりです」

「おぉ、おぉ、タクミ様、レオ様も。お久しぶりでございます! おかげさまで、村の皆も健やかに過ごさせて頂いております」

「タクミ様、レオ様、お久しぶりです!」

「ワフワフ!」


 客間に声をかけ、中に入って座っているハンネスさんに挨拶。

 ハンネスさんの横には、ロザリーちゃんがちょこんと座っているから、連れて来てたみたいだ。

 俺が挨拶をするとすぐに、ハンネスさんとロザリーちゃんが立ち上がって深々とお辞儀。

 以前ランジ村で、ラモギを使って病気を治した事や、オーク達が襲って来たのを食い止めた事に対して、改めて感謝してくれているようだ。

 ……俺相手にそこまでする必要はないんだけど……まぁ、公爵家の屋敷だし、畏まる必要はあるのかもな。

  俺の後から入って来たレオは、ハンネスさんに挨拶するように鳴きながらも、ロザリーちゃんがいるのを見て、嬉しそうに尻尾を振っている。


「ランジ村の方は、あれからワインの製造は?」

「既に行っていた製造以外は、行っておりませんね。商人達は、オークをけしかけて来ましたし……向こうの商人がブドウを仕入れて来るというのを、信じていいものかどうか……それに、子供達の事もあります」

「そうですか……」

「レオ様~。あいかわらずフカフカです~」

「ワフッワフッ」


 エッケンハルトさん達が来るまでの間、ハンネスさんの向かいに座って近況を窺う。

 レオはロザリーちゃんと一緒に遊び始めた……ほとんど抱き着いて、毛の感触をだけに見えるが。

 ……ちゃんと風呂に入れて綺麗にしてて良かった。


 楽しそうにじゃれているレオとロザリーちゃんはともかく、ランジ村でのワインの事だ。

 オーク達を捕まえて来て、村を襲わせるといった事があったうえ、病気の原因も持って来たんだ。

 いつも村に来ている商人と違う人物とはいえ、伯爵領の商人を信じられなくなるというのは当然か。

 それに、俺が村でのんびりしている時、ワイン作りで忙しくしていたため、子供達を放っておいた事も、後悔してたようだしな。


「ですが……ワインの方は、もう一度作るように頼む事になると思いますよ?」

「そうなのですか?」

「はい。詳しくは、俺から話す事ではありませんが……」

「それはもしかすると、村の傍で畑用の土地を……という事と関わりが?」

「ありますね。今日は、その事を聞きに?」

「はい。公爵様から直々のお手紙を頂きました。村で畑を用意する事……場所も指定されておりまして……公爵様からお手紙を頂くのは、名誉な事なのですが、どういった事をされるのかと……」


 エッケンハルトさんが考えているのは、ワインに薬草を漬け込んで、薬酒として売り出す事。

 まぁ、ワインそのものの味を気に入ってるというのもあるだろうが。

 ともあれ、そのためにはワインを作ってもらわないといけないし、畑も用意してもらわなきゃいけない。

 エッケンハルトさんが出した手紙には、詳しい事はあまり書かれておらず、畑用の土地を用意するようお願いする内容だったらしい。


 当主様が直々にお願いというのは、命令に等しいとは思うが……とりあえず詳細まではまだ教えていないようだ。

 もしかすると、直接出向いて説明したり、他の情報は別の手紙で後に送る事にしてたのかもしれないな。

 ランジ村へ連絡をしたと聞いた時から、ハンネスさんが来た期間を考えると、届いたのはまだ薬草畑のための詳細が決まっていない時期の手紙だろうし。

 公爵家の当主様が自らの手紙という事で、同じく手紙で返答をするよりも、直接窺った方が早いし失礼にならないと考えて、ここまで来たんだろう……と思う。



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