第421話 思いのたけを叫んでしまいました



「優越感には、今の所浸ってないな。まだ一緒にいる時間も短いしな。そこはこれから自分を戒めて行くさ。それと……」

「っ」


 少しだけ溜めるようにして、ディームを睨む。

 俺に睨まれた事で、ディームが少し怯んだようだが、それはもしかしたら隣にいるレオのおかげかもしれない。

 ……俺、誰かを睨んだりする事ってほとんどないし、迫力ないからな。

 そんな事を考えながら、大きく息を吸い込み、勢いよくディームに言った。


「家族ごっこがどうした! 俺とこいつ、そしてあの獣人の子は確かに種族も違う! それでも俺達は立派な親子だ! 血が繋がってない事なんて一切関係ない! 家族ごっこ……大いに結構だ。そこから本当の家族になる事だってできるはずだ! あの子が親代わりに慕ってくれる、そして俺達もあの子を娘のように扱う。それだけでもう家族なんだ! そこに、誰かの意思や見た目の違いなんて関係ない! 家族なんてのは、本人達がそう信じて、お互いを思いやる事で成立するんだ! はぁ……はぁ……はぁ……」

「ワフ、ワフ」


 体一杯に息を吸い込んで、思いっきり叫ぶようにディームへ言ってやる。

 家族ごっこと言われようと、見た目が違おうと、血が繋がっていなかろうと、リーザが俺達の事をパパやママと思ってくれるうちは、立派な家族であろうとする。

 少なくとも、俺はリーザを娘として育てる事を決めたんだ。

 誰にどう見られようが関係ない。

 本当の子供すらおらず、まだまだ未熟者ではあるが、俺は俺の精一杯でリーザに接すると決めたんだからな。


 一息に叫んで、酸素を求めて息を切らすと、レオが頬を寄せて来て軽く鳴く。

 どうどう、落ち着いて……とでも言ってるようだ。

 頬を寄せて来たのは、レオも一緒に家族と言ったのが嬉しかったんだろうな。

 この世界に来て助けてもらってる事だけじゃなく、レオには本当に感謝してるぞ?

 あと、尻尾を振るのは、もう少しおとなし目にな?

 少年達に当たっていたそうだ。

 

「……」


 俺に叫ばれて、呆気にとられたのか黙り込むディーム。

 何を言っても無駄だとわかったんだろうか……?

 まぁ、リーザをイジメる指示をしていたディームなんかに、何を言われても、今更俺の意見が変わる事はないが、静かになっていいな。

 少年達の方は……二人程青ざめてるが……多分こっちはリーザをイジメてた事で、家族だと言った俺に何かされると考えてるのかもしれない。

 謝って反省するなら、何もしないんだけどなぁ……。


「こっちだ、こっちで叫び声が聞こえたぞ!」

「……ん?」

「ワフ?」


 遠くから、何者かの足音と声が聞こえて来る。

 一人じゃないな……複数いる。

 感覚強化の薬草のおかげで、雨が降っていても遠くからの音が聞こえる。

 当然の事ながら、少年達やディームには聞こえていないようで、音のする方へ視線を向けたのは、俺とレオだけだ。


「ディームの知り合いか……?」

「あ?」

「ワフ、ワフワフ」


 ディームを助けるために、何者かが複数でこちらに来ているのかと考え、縛られて転がっているディームの方へ視線をやるが、こちらを睨むくらいで特に何も反応はしない。

 助けが来るとわかっていたら、もう少し余裕がありそうだが……それもなさそうだ。

 ディームが演技派だったら、それくらいの演技はしてるだろうが、どう見てもそうは見えないしな。

 首を傾げていたら、レオが気になる事を言った。


 足音や、声と一緒に、金属がこすれる音がする……か。

 足音は、走ってこちらに向かって来るようだし……それで金属がこすれるという事は、鎧でも着てるのかもしれない。

 という事は……。


「衛兵?」

「「「「「っ!」」」」」


 俺がふと呟いた言葉に、少年達とディームが同時に体をビクッと震わせた。

 ディームは当然の事ながら、少年達にも掴まるだろうと言ってあるから、それでだろうな。


「ワフゥ……? ワフ、ワウ」

「やっぱりそうか。でもどうしてこんな所に……?」


 レオが言うには、街に入る時に対応してもらった衛兵さんの気配がするとの事だ。

 街に入る時、スラムに行くという事は言っていなかったから、その衛兵さんがここまで来るのが不思議でならない。

 もしかすると、この広場の周囲で見ていた人が、衛兵さんを呼びに行ったのかもしれないな。


 濡れネズミになっているレオは、いつもより小さく見えても、大きな狼の体は変わらない。

 そんな大きな体を持ったレオが、男達に襲い掛かったのを見て、魔物が街に侵入したとでも勘違いした人が、衛兵さんの所へ通報しに行った……と考えられるか。


「……運ぶ手間が省けた……かな?」

「ワフ」


 衛兵さん達が向こうから来てくれるのなら、ディームや男達を運んだりする手間が省ける。

 縛って捕まえてるから、ここで引き渡せば、俺の仕事は終了だからな。

 そう思い、レオが頷くのを見ながら、遠くから走って来る足音を聞いて少しの間待つ事にした。


「おい、そこで何をしている!」

「本当に衛兵さんだ。えっと……怪しい男達が、少年達を囲んでいたので、助けました」


 駆け込んで来たのは、何度か顔を見た事のある衛兵さん。

 こちらからは、感覚強化のおかげで顔がはっきり見えるが、向こうは木の棒に明かりの魔法を灯していても、こちらをはっきりと見えないのだろう。

 広場に来るなり警告の言葉を発する衛兵さんに、ここで会った事を端的に伝える。


「怪しい男達……? そこで縛られて転がっている者達の事か……お前は何者だ? そちらの方が怪しいが……」

「いえいえ、俺は怪しい者じゃありませんよ?」

「「「「……」」」」


 衛兵さんが転がっている男達やディームを見ながら、訝し気な表情。

 何を思ったのか、俺の事も怪しんでいる様子。

 それを受けて、怪しくないと訴えるが、少年達からは怪しくないなんて嘘だ……とでもいいたげな視線。

 いや、確かに怪しいかもしれないけどさ……。


「大きな魔物も連れてるな……こっちへ来い!」

「えーと……はぁ……とりあえず、おとなしく従おう」

「ワフ……」


 レオの事を見て、さらに怪しんだのか、衛兵さんが俺を広場の端へ呼ぶ。

 縛られた男達や、少年達の方へは、別の衛兵さんが向かった。

 取り調べとかされるかもしれないが……衛兵さん達に逆らうためにここへ来たわけじゃないから、ここはおとなしく従っておこう。

 レオに言って、暴れたりしないように注意しつつ、男達や少年達が集まっている場所から離れた場所へ。


 ……ラクトスに来た時、何度も顔を合わせた人なのに、暗すぎて俺の顔やレオの事がわからないのかなぁ?

 なんて考えながら衛兵さんの所へ行くと、俺達に背を向け、ついて来いと言わんばかりに、レオが通れるくらいの路地へ数歩入り、こちらへ向き直った。



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