第350話 クレアさんはシェリーと話せるようでした



「リーザ、今シェリーが何を言ったのか、わかるかしら?」

「うん、わかるよ。えっと……クレアお姉ちゃんには、マスター。パパには、絶対服従の人。それで私には……後輩? 後輩って何?」

「そう。ちゃんとわかるのね。偉いわ」

「にゃふふ……」


 もう一度、クレアさんがリーザに聞くと、はっきりシェリーが何を言ったのか答えた。

 クレアさんをマスターか……ご主人様とは違ったが、似たような物か。

 俺には絶対服従って……レオがいるからだろうな、一瞬レオで視線を止めてたし、レオも軽く頷いてた。

 リーザに対して後輩って……もしかして、屋敷に来た順番で考えてるのか?

 それとも、獣人だからリーザとシェリー自身が同じものと考えての発言なのか……どちらにせよ、シェリーよりリーザの方が年上なのはまちがいないんだがなぁ。


 クレアさんも、シェリーの言った事がわかったのか、リーザの答えに納得して、褒めるように耳と頭を撫でた。

 ちゃんと、さっき俺が伝えたような撫で方だったのは、シェリーと一緒にいて撫でるのに慣れてたからかもしれない。

 というよりクレアさん、リーザがシェリーやレオと話せる事の確認より、撫でる事の方が本題だったりしないよな?

 話せる事を褒めるための笑顔より、耳に触れて満足そうな笑顔の方が強い気がするんだが……まさかな。


「リーザを撫でる事ができて良かったな、クレア。とりあえず、これでシェリーやレオ様とは話せる事が確定したか」

「お、お父様」

「そのようですな。これでクレアお嬢様以外にも、シェリー様が何を言っているのがわかるので、便利かと」

「そういえば、クレアさんもシェリーの言葉がわかってたようですけど……?」

「え、えっとですね、タクミさん……」


 エッケンハルトさんが、リーザを撫でるクレアさんを面白そうに見ながら、少しからかう。

 ちょっと焦ったように手を離し、エッケンハルトさんを見るクレアさんだが、やっぱりリーザを撫でたかったようだ。

 考えて見れば、好奇心の強いクレアさんだから、リーザの耳や尻尾へ興味が強くても仕方ないか。

 他のメイドさんとかアンネさんとか、皆触りたい様子だし……人を惹きつける何かがあるのかもしれない。


 ともかく、リーザが獣型の魔物と話せる事に納得した様子の、エッケンハルトさんとセバスチャンさんだが、クレアさん以外に……というのが気になった。

 シェリーは基本的に、ティルラちゃんとかレオと一緒にいる事が多いから、あまり気にしてなかったが、クレアさんだけはシェリーと話す事ができてたのだろうか?

 俺は、なんとなくわかるかも……くらいで、はっきりとはわからないんだが。

 そう思って聞いてみると、リーザを撫でて喜んでた事が恥ずかしかったのか、少し顔を赤らめたクレアさんが説明してくれた。


 なんでも、シェリーに名を付け、従魔にしたあたりからはっきりと何を言おうとしているのか、わかるようになったとの事だ。

 森から連れて帰る時は、仕草でなんとなくくらいだったらしいから、従魔になった事が大きいんだろう。

 セバスチャンさんの補足……というより、喜々とした説明によると、従魔にした魔物は、主人である人間との相性にもよるが、意思疎通ができる事もあるという。

 この事から、クレアさんはフェンリルとの相性がいいのだろうとの事。


 ただ、他の魔物との相性は不明であり、フェンリルと相性がいいからと、他の獣型の魔物と相性がいいとは限らないらしい。

 結構複雑なんだな。

 ともあれ、これからシェリーが何かを訴える時は、レオを介して俺に聞くか、主人であるクレアさんに聞く以外にも、リーザに聞くという選択肢ができたという事だ。

 まぁ、リーザは俺と一緒にいる事が多いから、必然的に俺やレオに聞く事と近い気もするけどな。


「シェリーみたいな可愛い従魔がいて、姉様が羨ましいです……」


 従魔の説明を聞いていると、レオに抱き着きながら、少し拗ねた様子を見せたティルラちゃんが声を上げた。

 以前、エッケンハルトさんに剣を教えてもらう時、従魔が欲しいと言っていたティルラちゃんだから、いずれは自分も……と考えてたんだろう。


「ティルラは従魔が欲しいか。どんな従魔が欲しいのだ?」

「うーんと……シェリーみたいな、可愛い従魔がいいです!」

「そうかそうか。だが、従魔を得るには、ティルラも強くならないといけないぞ?」

「わかっています! だから、一生懸命剣の鍛錬をします!」

「うむ、そうだな。弱い者には魔物は従わない。まぁ、シェリーはレオ様の事があるから、例外だが……ともかく、ティルラは強くなって、満足のいく従魔を探さないとな?」

「はい!」


 エッケンハルトさんに聞かれ、すぐに可愛い従魔と答えたティルラちゃん。

 確かに、シェリーやレオを見ていると、可愛い従魔が欲しいのはわかるが、そんな魔物がいるのだろうか?

 同じフェンリルなら、可愛いのは間違いないんだろうが……他の魔物だとなぁ……俺が見た事があるのは、トロルドやオークしかいないが、あっちは大きな人型と二足歩行の豚だしなぁ。

 見た目で差別はしたくないとは思うが、トロルドやオークを見て、ティルラちゃんが可愛いと言うとは、とてもじゃないが思えない。

 それに、ある程度知能もないといけないらしいから、オークとか従魔にできないんだったか。


 ともかく、エッケンハルトさんの言葉で、すっかり剣の鍛錬へと意識を向けたティルラちゃんだった。

 さっきまでの拗ねた様子はもうなく、エッケンハルトさんが上手くそちらへ話を逸らす事に成功したようだ。

 エッケンハルトさんやクレアさんの肉親だからな……好奇心が暴走して、ティルラちゃんも森へ従魔を探し行くと言って聞かなくなったり、勝手に抜け出して行ったら危ないからなぁ。

 クレアさんやセバスチャンさんが、ホッとしているような様子を見て、エッケンハルトさんもそう考えているのだろうと思っていたら、悪巧みをしているような笑顔になっていた。


 変な事でも考えているのだろうか?

 娘を可愛がってるエッケンハルトさんが、ティルラちゃんを危険な目に合わせたりはしないとはおもうが、例の店の時、俺の鍛錬を兼ねて戦わせた程だ……何かを企んでいてもおかしくはない。

 ……また、クレアさんに大目玉を食らうような事じゃなければいいんだが……。


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