第349話 リーザがレオと話せる事を説明しました



「パパ、お話は終わった?」

「あぁ、終わったよ。おとなしくしてて偉かったな?」

「えへへ……」


 俺達の話が終わったと感じたんだろう、レオに包まれていたリーザが、俺の座っている所まで来た。

 リーザには難しい話だったのかもしれないが、退屈そうにするでもなく、おとなしくレオと一緒に待ってた事を褒めるように、リーザの頭を耳と一緒に撫でた。

 昨日レオに教えてもらっていたおかげか、リーザは俺に撫でられて気持ち良さそうに笑った。


「……タクミさん、リーザちゃんの耳と尻尾は、どうなりましたか?」

「あぁ、えっと……獣人の掟というのは、リーザは知りませんでした。耳や尻尾は、痛くしたりしないようであれば、触っても構わないようです。な、リーザ?」

「うん。優しくしてくれるなら、私はいいよ!」

「そうですか……では、屋敷の者にはそう伝えておきます」

「はい。あ、でもその触り方なんですけど……」


 俺がリーザの耳を撫でているのを見て、昨日の要望はどうなったのかクレアさんに聞かれた。

 多分、クレアさんも触りたかったんだろうなぁ……手がワキワキしてるし。

 ともかく、クレアさんや食堂にいるメイドさん達に、耳や尻尾を触っても問題ない事を伝えると、その場にいる人達の表情が明るくなった。

 ……皆、触りたかったんだな……エッケンハルトさん、貴方もですか……セバスチャンさんはポーカーフェイスだが、手が微妙に揺れている……貴方もか!


 リーザに確認して、頷いたのを見たクレアさんは、ホッとした息を漏らしつつ、皆に伝えてくれるとの事。

 その時に、リーザの耳や尻尾を触るうえでの注意を説明した。

 昨日、レオに指示された事や、尻尾の根本についてだな。

 結局、リーザが嫌がったらすぐに止める事、尻尾の根本は女性陣だけが揉み解して、凝りを取るようにする事となった。

 まぁ、エッケンハルトさんのようなオッサンが、リーザのお尻付近に触れてたら、俺とレオが狂気に染まりそうだからな……仕方ない。


「あ、そうだ。それとなんですけど」

「他に何かあるのですか?」


 耳や尻尾の事を伝えた後、リーザに関する事で伝えておこうと考えていた事を思い出す。


「リーザなんですけど、どうやらレオと会話ができるようです。レオが何を言っているのか、はっきりとわかるらしいんです」

「リーザちゃんが……」

「ふむ、やはり獣人だからか」

「そのようですな。獣人は、獣型の魔物と意思疎通ができる者がいる、と聞きます」


 リーザがレオが言う事がわかるのだと伝えると、クレアさんは少し驚いた表情、エッケンハルトさんとセバスチャンさんは、獣人であるという事で納得している様子だ。

 クレアさんはあまり知らないようだが、獣人ってそういうものなんだろうか?


「者がいる、という事は……全員じゃないんですか?」

「それは、私もわかりかねます。獣人を見る事が少ない地域なので、実際に獣と話す事ができるかを確認した事はございません。ですが、魔物と話す事で対等、もしくは従魔として使役する事を可能にすると、聞いた事があります」

「人間と違って、話せる分、従魔にする事が容易なのかもしれぬな。獣型に限った事のようだが、それがリーザが迫害されつつあった状況に繋がる、偏見や差別の原因である噂の一因でもあるんだろう」


 情報が少ないため、獣人が全員獣型の魔物と話せると決まったわけじゃないが、やはりリーザと同じように話せる獣人はいるらしい。

 魔物と話せる事で、人間よりも共存しやすいという側面もあるんだろう。

 それを見た人間が、勝手な憶測で獣人は魔物だと考え、噂を流したという可能性もあるわけだ。

 戦争をしていた時だから、相手を悪く言うのは当然の事なのかもしれないが、それでリーザがイジメられていたと考えると、やりきれない。


「シェリー、こっちにおいで」

「キャゥ? キャゥ!」

「それと、リーザちゃんも。ちょっとこっちに来てもらえるかしら?」

「どうしたの、クレアお姉ちゃん?」


 エッケンハルトさんやセバスチャンさんの話を聞いたクレアさんは、レオの所で寛いでいたシェリーを呼んだ。

 うとうとしていたシェリーは、クレアさんの声に反応して顔を上げ、一度首を傾げた後、テコテコとクレアさんの所へ移動した。

 そのシェリーを抱き上げ、座っている膝の上に乗せた後、リーザも手招きして呼んだ。

 自分が呼ばれた事に、不思議そうな顔をしながらも、尻尾をゆっくり振りながらテーブルを挟んで対面にいるクレアさんの所へ向かった。

 リーザも、クレアさんに呼ばれて嬉しそうだし、しっかり懐いているようで良かったな。


「リーザちゃん、シェリーが何を言っているか、わかるのかしら?」

「うん、わかるよ?」

「そう。なら……シェリー」

「キャゥ?」

「今、シェリーが何を言ったのか、わかる?」

「うん。食べ物くれるの? って言ってるよ」

「キャゥ」


 クレアさんは、リーザが近くに来たところで、シェリーを示しながらいう事がわかるのかを試すようだ。

 膝の上に呼び掛け、顔を上げてクレアさんを見返し首を傾げたシェリー。

 傍から見てても、シェリーが何を言ったかわかる状況だが、それでもクレアさんはリーザに何を言ったのかを聞く。

 自信満々にリーザが答え、それに頷くシェリー。


 うん、えっと……クレアさんに呼び掛けられたから、シェリーはどうしたのかと聞いたんだと思ったが……違ったようだ。

 俺もまだまだだな……。

 というよりシェリー、さっき食べたばかりだろうに。


「成る程ね。じゃあシェリー、私やタクミさん、リーザの事をどう考えているか教えて?」

「キャゥ……キャゥ! キュゥ……キャウ!」


 リーザを見て頷き、またシェリーに問いかけたクレアさん。

 シェリーはその言葉を受けて、まずはクレアさんに顔を向けて一鳴き、次に俺を見ようとしてレオで一瞬視線を止めた後、俺を見た。

 そこで力なく鳴いた後に、リーザを見て、今までで一番強く鳴いた。

 さて、今度は何て言ったのか……クレアさんには、ご主人様、かな?

 俺やリーザに、なんて言ったのかまではわからなかった。



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