第337話 デリケートな話には加わらないのが一番でした



「支度も終わったようだな。では頂こう」

「はい、頂きます」

「頂きますー」

「えぇ」

「はい」

「ワフ!」

「キャゥ!」


 そんな話をしているうちに、料理の配膳が終わり、食卓を見渡しながら、エッケンハルトさんの合図で食べ始める。

 リーザは俺の真似をして手を合わせ、散々遊んだティルラちゃんやレオ、シェリーはがっつくように食べ始めた。

 シェリーは、レオの頭に乗ってただけだから、あまり動いてないはずなんだけどな……。


 クレアさんとアンネさんは、さっきの匂いの話が原因なのか、いつもより食べるペースはゆっくりだ。

 がっついて食べて、ソースが服に付いたり、匂いの原因になる事を避けたいらしいが……いつも通りで大丈夫なのになぁ。

 まぁ、リーザに変な匂いと言われたくないのかもな。


「ふむ……クレア。ふと思ったのだがな?」

「なんですか、お父様?」


 食事もある程度進んだ頃、エッケンハルトさんが何かを思いついたように、クレアさんに声をかけた。

 クレアさんは料理を口に運ぶ手を止め、エッケンハルトさんの方へと視線を向ける。


「気のせいかもしれんのだが、以前より食べる量が落ちてないか? 今だけでなく、他の時でも……」


 さっきの話のせいか、いつもより食べるスピードの遅いクレアさんは、食べる量が少ないようにも見えるかもしれない。

 だがエッケンハルトさんは、今回以外にも少なくなったと感じたらしい。

 クレアさんは、いつもティルラちゃんよりは食べてるようだし、近くにはレオやエッケンハルトさんといった、大量に食べる者達がいるから、それと比べると少なく思ってしまうのかもしれない。

 実際は、俺とあまり変わらない量を食べてるんだけどな。


 俺は食が細いわけでもなく、成人男性の平均くらいだと思う……あまり比べた事はないが。

 クレアさんは、そんな俺と同じくらいなのだから、十分に多い量を食べてると思う

 まぁ、以前のクレアさんが食べる量を知らないから、エッケンハルトさんの勘違いとは言えないけども。


「お父様、何を言っているんですか? 私は以前から、食べる量は変わっていませんよ?」

「む、そうか? しかし、以前はもっと食べていたような気がするのだが……」

「……確かに姉様、前はもう少し食べていた気がします。今と同じくらいになったのは……タクミさんとレオ様が来てからでしょうか?」

「ちょっとティルラ!?」

「やはりそうか。ふむ……タクミ殿がこの屋敷に来てから、となると……成る程な」


 クレアさんからの返しに、エッケンハルトさんは納得いかないながらも、勘違いかと考え直しかけたが、ティルラちゃんの証言によって事実が判明してしまった。

 焦るクレアさんだが、エッケンハルトさんは理由に納得した様子。

 俺がこの屋敷に来てからって、食べる量と何か関係してるんだろうか?


「俺のせいですか? 何か、悪い事でもしたんでしょうか?」

「タクミさん、そんな事はありませんから。タクミさんが気にする必要はない事ですからね?」

「はぁ、そうですか……?」


 誤魔化されたのだろうか、もしくは俺に知られたくない何かがあるのか……。

 なんにせよ、女性にはそういう事もあるのかもしれないから、深くは突っ込まないようにしよう。

 大きな事ではないから、そこまでの事はないと思うが、好奇心は猫も殺すって言うしな。


「クレアさん、貴女太ったの?」

「ちょっとアンネ、なんて事を言うの!? 私は太ってなんかいません! ……確かに、ヘレーナの料理は美味しいから、ついつい食べ過ぎてしまうけど……」

「むぅ……クレアさんは、食べた物が胸に行くのかしら?」


 エッケンハルトさんが納得したように、うんうん頷いて、俺が深くは追及しない事で、この話は終わりかと思っていたら、アンネさんが突っ込んでしまった。

 アンネさんの方を見て訂正するクレアさんだが、ヘレーナさんの料理はついつい食べ過ぎてしまうらしい。

 確かに美味しいしなぁ、ヘレーナさんの料理。

 しかも、甘いデザートもよく出るおかげで、運動してなかったら俺も太っていたかもしれない。

 しかしアンネさん、見た目ですぐクレアさんが太ったようには見えないからって、胸をじっと見るのはどうかと……女性同士だから、問題はないのかもしれないが。

 

「ちょっとアンネ、どこを見ているの?」

「その主張の激しい一部を見ていましたわ。……口惜しい」

「口惜しいって貴女……今まで気にしていなかったでしょう?」

「それはそうですけれど…私は、殿方を魅了する一つの手としてそれが使えないのですわよ?」

「アンネ……それだけで考えるのは、さすがにどうかと思うわよ?」

「持つ者が故の、余裕ですわね。持たない者の気持ちはわかりませんわ」

「それは……そうだけど……」


 羨ましそうに、クレアさんの胸を見ているアンネさん。

 確かに、アンネさんの胸というか体形はスレンダーだ。

 以前の世界なら、雑誌モデルとかも余裕でできるだろうと思われる。

 だが、クレアさんと並んだ時、一部の大きさの差は歴然としている。


 そうか……クレアさんは栄養が胸に行くタイプか……という事は……おっと、これ以上は考えないようにしないと、クレアさんにも失礼だな。

 それに、この屋敷にはクレアさんよりも大きいライラさんという、猛者もいるわけだし……これもあまり考えないでおこう。


「うむ……まぁ、それぞれ考える事があるという事だな……」


 俺やティルラちゃん、エッケンハルトさんを残して、クレアさんとアンネさんのお胸談義はヒートアップして行った。

 さすがに、俺やエッケンハルトさんがいる前でする事ではないと思うのだが……。

 そんな二人の様子を見ながら、エッケンハルトさんがまとめるために呟いた。

 綺麗にはまとまってはいないが、とにかく女性のそういう部分には、あまり触れない方がいい事がわかった。


 多分、胸の大きさとか関係なく、クレアさんは多く食べる事がはしたないとか、ダイエットの意味合いも少しはあるのだろう、と頭の中で結論付けた。

 俺はあまり自分の体形を気にしてないし、今は剣の鍛錬で体を動かす事が多いから、太るとかは気にせず食べてるけどな。

 まぁ、女性には女性の悩みがあるんだろう。

 そのうち、ダイエットに使えそうな薬草でも考えてみるか……とも思ったが、今は触れない方が良さそうなので、止めておいた。

 アンネさんのような女性のために、胸を大きくする薬草の考え……は、ダイエット以上に危険な気がするから、頭の奥底に封印する事にした。


 ちなみにレオやシェリーは、なんで食べるのを遠慮するんだろう? というような、不思議なものを見る目をしていた。

 人間と違って、太る太らないは気にしないだろうから、理解できないんだろうなぁ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る