第335話 ミリナちゃんは意気込み十分なようでした



「ミリナちゃん、これはまだ計画してる段階で、決まった事じゃないんだけど……」

「はい、なんですか?」

「ランジ村で、薬草を育てて生産しようと計画してるんだよ。これは、そのためのお試しだね。『雑草栽培』で作った薬草が、しっかり根付くのか。薬草を育てる事で数が増やせるのかとかね」

「そうなのですか。師匠の薬草は、きっと他の皆の役に立つ事は間違いないと思います。いい計画かと」

「そうだね。それで、もしその計画通りに薬草を作る事になったら、俺はランジ村に行かないといけない」

「そうですね。実際に能力を持ってるのは師匠ですし、気軽に行き来して薬草を育てるなんて、できそうにもありません」

「うん、その通り」


 薬草園の話を、ミリナちゃんにも伝える。

 契約とかの前段階ではあるが、ミリナちゃんは俺の能力の事を知っているし、薬の知識や調合で手伝ってくれてるから、ちゃんと教えておかないとな。

 それに、多くの人を雇う事になったら、信用してるミリナちゃんの力を、借りなきゃいけなくなると思うし……。


「それでね、俺がランジ村に行く時……クレアさんとか、ライラさんや使用人さん達の許可は取らないといけないと思うけど、ミリナちゃんにも手伝ってもらいたいなと思ってね」

「私ですか!? ……あ、でも確かに、これだけ急激に成長する薬草を、師匠一人では大変ですね……」

「うん、そうなんだ」


 さっき、人を雇う事を考えた時、一番最初に思い浮かんだのはミリナちゃんだ。

 ミリナちゃんは、薬や薬草の知識の勉強をしているし、俺を手伝って薬草を摘みとったりもしてくれてる。

 人柄についても、信用できるのは間違いないし、元々ミリナちゃんを孤児院から屋敷へ連れて来る時、使用人見習いとしてではあるが、俺が預かったようなものだからな。

 使用人見習いというのは、この屋敷にいるための仕事だし、本来は薬の知識を学びたいと言っていたミリナちゃんだから、ランジ村で手伝ってもらう事に問題はないだろうと思う。

 まぁ、一応クレアさん達には許可をもらうけどな。


「……わかりました。私は、師匠について行くと決めたのです。師匠がここではなく、別の場所で新しい事を始めるのであれば、弟子である私も付き従うのが役目! そのお話、お受け致します!」

「いやあの……そこまで、意気込まなくてもいいんだけどね? もしミリナちゃんが、使用人としてこのまま屋敷に居たいのであれば、それでいいと思うし……」

「いえ! 私は師匠にお世話になり、無理矢理弟子入りした身。師匠から離れて、ここで働こうとは思いません!」

「あぁ、そうなんだ……」


 弟子入りって、無理矢理だったっけ?

 というか、俺はミリナちゃんを弟子とは思ってないんだが……師匠と呼ばれてるだけだしな。

 『雑草栽培』の能力や、ミリナちゃんに諭した事で、尊敬されて師匠と呼ばれてしまったが、いつの間にかミリナちゃんは本当に、俺へ弟子入りした気になっているようだ。

 訂正したい気もするが、今それをやると話が長くなりそうだ……そのうちでいいか。

 ランジ村で一緒に薬草を作るのなら、話す時間は多いだろうしな。


「じゃあ……まだ計画の段階で、本決まりではないけど……よろしく、でいいのかな?」

「はい、よろしくお願いします!」

「うん、頼りにしてるよ」


 ミリナちゃんは意欲もあるからか、物覚えも早いみたいだしな。

 薬の知識も覚えて来てるし、薬草の摘み方もすぐ覚えた。

 調合も簡単なものならできるし、うん、即戦力だな。


「では、師匠のお世話をするためにも、もっと使用人として学びます!」

「うん……え? 使用人?」


 やる気を漲らせ、拳を握りながら宣言するミリナちゃん。

 それはいいんだが、使用人として? 薬とか、薬草の知識を学ぶとかじゃないのか?


「はい! ランジ村に行けば、このお屋敷のように、使用人が沢山いるわけではありません! だから、私が師匠のお世話をして見せます!」

「あーうん、そう、なんだね……」


 確かにランジ村はメイドさんなんていない。

 執事さんは、雇う事に決まったみたいだが。

 ともかく、ミリナちゃんは俺の世話をする事に意欲を燃やしてるようだが……できればそれは、薬草や薬の知識に向けて欲しいんだがなぁ。

 でも、意気込んでるミリナちゃんを見て、水を差すのも悪いと、否定する事は言えなかった。

 ……意志弱いなぁ、俺。


「タクミ様、ミリナの指導はお任せ下さい。タクミ様がランジ村に赴くまでに、立派な使用人として育て上げて見せます!」

「お願いします、ライラさん!」

「えっと……はい、お願いします……でも、薬の調合もあるので、程々に……」

「もちろんです。ミリナがやらなければいけない事を、ないがしろにする事なく、教育して見せます」


 いつの間にか俺達の近く来て、話しを聞いていたライラさんが、意気込んでいた。

 ミリナちゃん、最初は薬の知識を学ぶために、この屋敷へ来たはずなんだけどなぁ……これでいいのかな?

 本人がライラさんに、勢いよく頭を下げてお願いしてるから、いいのか。

 本来の目的を、ミリナちゃんが見失わないといいなぁ、と思いながら、やる気を見せている二人を見ていた。



 ミリナちゃんの事をライラさんに任せた後、またレオやティルラちゃんに誘われて、裏庭で十分に遊んだ後、夕食の時間になり、呼びに来たゲルダさんと共に食堂へ。

 もちろん、汚れたレオの足を拭き取る事は忘れない。

 以前の様子を見て知っているゲルダさんが、濡れた雑巾を持って来てくれていた。

 ありがたく使わせてもらいながら、ゲルダさんに感謝しつつレオの足を拭く。


 リーザもやりたがったので、足の一つをお願いすると、手が小さいためか少し難しかったようだ。

 しかも、力が入ってないらしく、肉球をくすぐられた感じがしたレオがサッと足を上げたりもした。

 レオに嫌がられたと思ったリーザが、すぐに謝ると、レオが弁解するようにリーザに顔を寄せたりしてるのが少し面白かった。

 レオはくすぐったかっただけで、嫌がってたわけじゃないから、次は頑張ろうなリーザ。


 食堂に入ると、既にエッケンハルトさんとクレアさん、アンネさんやセバスチャンさんも揃っていた。

 アンネさんはともかく、クレアさん達の話は終わったんだろうか?


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