第334話 ミリナちゃんに簡易薬草畑を見せました



「師匠、来ました……けど、何をしてるので?」

「お待たせしました、タクミ様」

「ありがとうございます、ライラさん。……いや、レオとティルラちゃんから、一緒に遊ぼうって誘われてね。リーザもいるし、断れなくて……よっと!」

「ワフ!」

「あはははは!」

「早いですー!」


 ライラさんがミリナちゃんを連れて来てくれた頃、俺はレオとティルラちゃんに誘われて一緒に遊んでた。

 枝を持ち、それを投げてレオに取って来させるという、最初にこの屋敷でやった遊びだな。

 さすがに最初の頃のように、複数を別の方向へ投げたりはせず、真っ直ぐ枝を投げるだけにしておいた。

 リーザもいるし、レオが急な動きをして落ちたりないよう、気を付けないとな。

 ……レオなら、それくらい気を使って簡単にこなせそうだが。


 連れて来られて早々、俺が枝を持って振り被ってる事に、首を傾げたミリナちゃんに答えながら、真っ直ぐ枝を投げた。

 さすがに慣れてるな、レオ。

 すぐに走り出したレオは、まだ空中の高い所にある枝を口でキャッチ。

 落とさないように気を付けながらも、素早い動きを見せたレオに、リーザもティルラちゃんも喜んでる。

 リーザは、ティルラちゃんと一緒で、体を動かしたり、外で遊ぶ方が好きなのかもな。


「はぁ……まぁ、レオ様達が喜んでるようなので、いいと思います。私が呼ばれたのは何故でしょう? レオ様達と一緒に遊ぶためですか? あっ! それとも、私が調合した薬に何か、問題が!?」

「いやいや、そんな事はないから、安心して。えぇと……ちょっと待っててね。レオ、ミリナちゃんが来たから、これでお終いな。後は、リーザとティルラちゃんとで遊んでてくれ」

「ワフ!」

「わかりましたー」

「……パパ、行っちゃうの?」

「大丈夫だよ、リーザ。近くにはいるからね。安心してレオと遊んでおいで?」

「うん、わかった!」

「キャゥ!」


 戻って来たレオから、咥えていた枝を受け取りつつ、遊びはお終いだと伝える。

 レオとティルラちゃんは素直に頷いてくれたが、リーザはまだ、俺が離れると考えると少し不安になるようで、目を伏せていた。

 安心させるようにリーザに言い聞かせ、元気のいい返事をして、レオの毛に抱き着く。

 うんうん、リーザもレオにしっかり懐いてるようだな……それに、気持ちの良い毛の感触も気に入ってるようだ。

 何故かシェリーがリーザとほぼ同時に頷いて鳴いたが、お前に言ったわけじゃないんだけどな?

 まぁ、シェリーも楽しそうでいい事だとは思うが。


 また裏庭を、自由に走り始めたレオ達を見ながら、ミリナちゃんへと体を向ける。

 簡易薬草畑の方を見せないとな。

 しかしミリナちゃん……薬に問題があったとかで呼び出されたと思ったのか……俺、そんなに厳しそうに見えるのか?

 とりあえず、問題があったとかではなかった事にホッとした様子を見せた後、ちょっと羨ましそうな視線をレオ達の方へ向けてるミリナちゃん。

 簡易薬草畑を見せた後、時間があるなら、レオ達とあそんでもらおうかな……リーザも俺達以外に慣れて欲しいし。


「さて、ミリナちゃん」

「はい、師匠!」

「ちょっと、見て欲しいものがあるんだ」

「見て欲しい、ですか。師匠が私に?」

「うん。まぁ、説明するよりも、見た方が早いかな。こっちに来て」

「はい、わかりました」


 ミリナちゃんを連れて、その場を離れ、簡易薬草畑の方へ向かう。

 ライラさんは、そのままレオ達を見守る事にしたようだ。

 簡易薬草畑が見える所までくると、セバスチャンさんが指示したであろう執事さんが二人いた。

 多分、薬草の成長を見張って、その過程を記録してくれてるんだろうな、小さなテーブルを置いて、髪に何か書いてるし……ありがたい。

 その二人に会釈しながら、簡易薬草畑の所へ。


「え? 師匠、これは……単なる草ではないですよね? 薬草、ですか?」

「うん。『雑草栽培』で作った薬草だね。その薬草が、摘み取らずにそのままにしても、根付いて数が増やせるか試したんだけど……朝生やしたばかりだったんだけどね……」

「朝……でも、もうこんなに増えてます!」

「そうなんだよねぇ……」


 簡易薬草畑を見たミリナちゃんは、やっぱり驚いたようだ。

 それにしても、さっきエッケンハルトさん達と見た時から、1時間経ってるかどうかくらいなはずなんだが……どう見てもさっきより成長してる。


「すみません、さっきより成長してるように見えるんですが?」

「はい、指示を受けて私共が来た時から、さらに成長しております。これ程の速度で成長する植物は見た事がなく……私共も驚いております」

「そうですか、ありがとうございます」


 観察しながら、メモを取っている執事さんの一人に聞くと、やっぱりあれからも、成長を続けてたみたいだ。

 『雑草栽培』の影響なのは間違いないだろうが、それでもこの速度は驚きだな。


「師匠、さらに成長してるんですか?」

「うん。さっき見た時より、明らかに成長してるね」


 さっきまでは、増えた薬草が芽を出したばかりで、どれがどの薬草かの見分けが難しいくらいだった。

 それが今では、葉っぱの形もはっきりしてきて、なんとなくどれがどの薬草かわかるくらいだ。

 若干、わかりづらい物もあるが、それはこれから成長したらわかるようになるだろう。


「朝からこれまでで、こんなに成長するなんて……これも、師匠の能力なのですか?」

「多分ね。これだけの事が起こるのは、『雑草栽培』……ギフトが原因と考えないと、説明できないと思う」

「師匠の『雑草栽培』……やっぱり凄いですね! 驚く事ばかりです!」

「まぁ、確かにね。色々やってみると新しい発見があって、俺自身も驚いてるよ」


 尊敬するような目で、俺を見るミリナちゃん。

 知らぬうちに備わったギフトという能力だから、俺自身が凄いとは自分では思わないが、ミリナちゃんにとっては、能力と合わせての俺だから、尊敬に値するらしい。

 ともあれ、驚いてばかりじゃなくて、しっかりミリナちゃんと話をしないと。

 孤児院にいた時と違って、今のミリナちゃんは、ちゃんとやりたい事があるのだからな。

 俺は簡易薬草畑を見ながら、これからの事をミリナちゃんに話す事にした。



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