第333話 ライラさんとゆっくり話しました



 セバスチャンさんに聞かれて、観察する状況を、それぞれの薬草で変える事を提案した。

 細かい事を言えば、肥料だとか土の質だとか色々あるが……とりあえずは、水を与えるかどうかくらいでいいだろう。

 他の事は、また次の機会に試したらいいしな。

 いっぺんに全部やっても、見てくれる人が大変だろうし。

 セバスチャンさんは、屋敷にいる他の使用人さん達に言って、交代で薬草に張り付いて観察するつもりのようだ。


 ライラさんを呼んで、そういった指示を出すその表情には、朝から昼過ぎまで、放っておいたために増えるまでの過程がわからなかった事を、悔しく思っているように思えた。

 全部、説明する事ができなかったからかな? それとも、知識として知りたかったのかもしれない。

 でも、セバスチャンさんが悔しく思う必要はないと思うんだよなぁ。

 誰だって、数時間で植物が成長し、大量に増殖するなんて考えないだろうからな。



「あはは、早い早いー!」

「レオ様凄いですー!」

「キャゥ!」

「ワフワフ」

「楽しそうだな」


 皆で簡易薬草畑を見た後、話す事があると屋敷の中に入って行った、エッケンハルトさんやクレアさんとセバスチャンさん。

 その三人を見送った後、レオと遊びたそうにしながら、既に背中に乗っているティルラちゃんとリーザ。

 仕方ないので、レオに裏庭を走りまわってもらう事にして、手持無沙汰になりながら、その様子を見守る俺と、ライラさん。

 その場にはいつの間にかテーブルが用意され、ライラさんがお茶を淹れてくれている。

 以前話したように、ライラさんも椅子を持って来て座り、一緒にお茶を飲んでる。

 一人で座って飲むより、誰かと一緒の方が楽しいからな。


 しかし、ティルラちゃんの魔法講義はいいのだろうかと、疑問に思わざるを得ない。

 エッケンハルトさん達は大事な話のため、屋敷に戻ったから仕方ないのだろうが……。

 盗み見た限りでは、エッケンハルトさんとティルラちゃんは遊んでたようにしか見えないから、ちゃんと魔法が教えられたのかどうか。

 まぁ、ティルラちゃんは魔法よりも剣の方に興味があるから、仕方ないか。

 自分の身を守る、という意味なら剣を鍛える方が、優先順位は高いだろうしな。


「しかし、タクミ様。以前申し上げた事が、こんなに早く実現する事になりましたね」

「以前……あぁ、人を雇う事ですか?」

「はい。あの時、私が不相応にタクミ様へ申してしまいましたが……」

「ははは、助言はありがたかったですよ。おかげで、人を雇う事に慎重になりますし、考える事もできます」


 あの時ライラさんに、人を雇う事の注意点を簡単に教えてもらってなければ、もっと簡単に考えてたかもしれない。

 実際、ニックの時は簡単に考え過ぎてた部分もあるからな。

 ニックが反省し、真面目に働いてくれてる事で、悪い判断じゃなかったと思う事ができるけども。


「それにしても、タクミ様の能力は素晴らしいものですね。薬草としての効果はもちろん、それだけの物を簡単に増やしてしまうなんて」

「まぁ、ここまでとは、俺も思っていませんでしたけどね。ただ、植物を能力で栽培する事ができるだけかと……すぐに増えるなんて、考えていませんでした」

「ギフトというのは、それだけ凄い能力なのでしょうね。持たない私共には、想像もつきません」

「ライラさん、俺もそうですよ。ここに来るまで、ギフトなんて持っていませんでしたから。こちらに来て、驚いてばかりですから」


 お茶を飲みながら、ライラさんが視界の隅で薬草を見ながら呟く。

 確かに、あんなにすぐ増殖するものとは思ってなかったからなぁ……驚くのも無理はない。

 植物が数時間で倍以上に増えるなんて、『雑草栽培』の力が働いたとしか考えられないしな。

 ライラさんは、ギフトを持っていないから、どういう物なのか確かに想像できないのかもしれない、俺自身もこの世界に来るまで、そんな能力は持ってなかったからな。


 日本で同じ能力があったら、何かに活用できただろうか?

 ……止めよう……能力の限界、俺が気絶する寸前まで、ひたすら植物を生やす作業をさせられる想像しかできない。

 これも、ブラックな仕事で過労寸前まで働いてた弊害か……。


「どうしました、顔色がすぐれませんが?」

「あぁ、いえ。なんでもありません。大丈夫です」


 以前の事を考えて、暗い顔になってしまった事をすぐ、ライラさんに見抜かれる。

 今はメイドさんと一緒にお茶、という楽しい時間だからな。

 勝手に以前の事を思い出して、暗い顔をさせてたら申し訳ない。

 せっかくのんびりできる時間なんだから、今はこのお茶会を楽しもう。


「あ、そういえば。ミリナちゃんは今どうしてますか?」

「ミリナですか? 確か今は、ゲルダと一緒に使用人としての勉強をしているはずですが……」

「ゲルダさんもですか?」

「はい。ミリナもそうですが、ゲルダもこの屋敷で働くようになって、まだ長くありません。新人という程ではありませんが……まだ未熟な部分が多く、勉強する事が必要なのです」

「そうですか。それなら、邪魔したらいけないですね」


 ミリナちゃんも呼んで、薬の調合をしてくれた事を労ったり、リーザ達と一緒に遊んだら……と思ったんだが、勉強をしてるのなら、連れて来るのは気が引ける。

 簡易薬草畑も、見せてみたかったんだけどな。


「いえ、タクミ様の御用であれば、ミリナにとって邪魔にはならないかと。それに、ミリナは本来タクミ様と薬の知識を、というのが目的ですから」

「そうですか……でしたら、ミリナちゃんを連れて来てもいいですかね? あの薬草を見せておきたいので」

「薬草を……そうですね、タクミ様の能力と薬草の事は、ミリナも知っておくべきでしょう。わかりました、呼んで来ます」

「あぁ、居場所を言ってくれれば、俺が行きますよ」

「いいえ、お世話係の私が、タクミ様のお手を煩わせる事はできません。私が行きますので、タクミ様はここでゆっくりしていらして下さい」

「……わかりました。あ、もし勉強の邪魔になるようでしたら、無理にとは言いませんので」

「畏まりました」


 椅子から立ち上がり、俺に一礼して屋敷へと入って行くライラさん。

 俺に行かせず、ライラさんが行くというのは、使用人というか、メイドさんとしての矜持か何かだろうけど、そんなに肩肘張らなくてもなぁ……。

 せっかく、ライラさんとの楽しいお茶会だったのに、一人になってしまった。

 まぁ、自分が言い出した事が原因なんだけどな。


 俺が行っても、ライラさんを一人残す事になってただろうし……。

 仕方ない、楽しそうなリーザやティルラちゃんを見て、和む事にしよう。



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