第332話 人を雇うのはほぼ決定事項になりました



「となると、だ。セバスチャン、クレア。タクミ殿の薬草栽培……考える事が多くなりそうだな」

「はい。あのように増える事を考えると……もしかしたら、予定よりも多くの数を用意出来るかもしれません」

「そうですね、お父様。領内だけではなく、領外にまで出せそうです」

「そこはまだ、これからの経過を見る必要があるだろう。今回だけ特別に増えたのか、何か条件があるのかを調べねばな」

「はい。……タクミ様」

「はい、何でしょうか?」


 簡易薬草畑の様子を見ていたエッケンハルトさんが、セバスチャンさんとクレアさんに声をかけ、ランジ村で行おうとしている、薬草栽培の見直しを考え始める。

 俺も、さすがに作った薬草はその後、普通の植物と同じように成長して行くと考えていたから、すぐに大量の薬草を用意できるとは考えてなかった。

 クレアさんの考えてるように、今見ている簡易薬草畑みたいに増えるのであれば、領内どころか領外に出しても数が不足する事はなさそうに見える。

 

「タクミ様にお願いする薬草畑ですが……考えていたよりも、大規模になるかもしれません」

「えぇと、確かにそうなる可能性はありますか……ですけど、俺にそれが管理できるかどうか……」

「そこは、私達が何とかしよう。収入に関する事も含めて、執事を用意するつもりだったが……タクミ殿の下で働く人員も必要だな」

「そうですね。タクミさん一人で、増えた薬草を採取するのは大変でしょう。管理できる者も含めて、私達が考えるべき事です」


 セバスチャンさんから告げられるのは、畑が大規模になるという事。

 それは俺一人で薬草を見て、採取したり街へ向けて出荷する数が増える事だ……とてもじゃないが、俺一人でなんとかなる事じゃない。

 俺が躊躇っていると、エッケンハルトさんとクレアさんに、改めて提案される。

 執事の話は聞いていたが、新しく雇う人かぁ……管理できる人がいてくれると、確かに助かるが……その人達をさらに、俺が管理できるかという問題が……。


「人を雇っても、大丈夫でしょうか?」

「なぁに、タクミ殿ならあまり心配はしておらん。これまで接してきて、それができる人物だと見ているからな」

「そうです。タクミさんならできると、私も思います」

「はぁ……」

「タクミ様の優しさに付け込んで、おかしな事を企む者がいるか、という方が心配ですな」


 人を雇う事に不安がる俺に対し、エッケンハルトさん達はうんうん頷いて、大丈夫だと言ってくれる。

 離れた所で、ライラさんも頷いてるような気がするな。

 信用してくれるのはありがたいが、今まで部下なんて持った事がないからな……やっぱり不安だ。

 そんな俺の不安を膨らませるかのように、セバスチャンさんが付け加える。


 そういえば、ライラさんにも以前言われてたっけ。

 真面目に働かないだけならまだしも、金銭を狙ったり、俺自身を狙って雇われたと装う人間もいるとか。

 ……増々、俺が人を雇っても大丈夫か不安になって来た。


「ワフ!」

「そうですね、レオ様がいるので、タクミさんに近付こうとする怪しい人は、すぐに弾かれますね、ふふ」

「……大丈夫なのか、レオ?」

「ワフ、ワフ」


 俺の不安を感じ取ったのか、レオが一歩出て主張する。

 それにクレアさんが頷き、レオがいるから安心と……。

 俺がレオに聞くと、自信満々に頷いた。

 いやまぁ、レオは俺よりも色々敏感だから、怪しい人を見分ける事ができるかもしれないし、ワインでは実際、病に罹るような物を選別する事ができたけどな?

 怪しい人間は、怪しまれないよう隠すはずだから、それをレオが見分ける事が本当にできるのかどうか……。


「そこに関しては、ある程度は安心していいぞ、タクミ殿」

「どうしてですか?」

「後々は違うだろうが、最初に雇う者は、公爵家の方で調べさせてもらう」

「そうですな、それがいいでしょう。これは、公爵家にも関わる事なので、タクミ様が雇う者を私達が調べ、怪しい者や裏のある者を弾く事もできるでしょう」

「……そう、ですか」


 公爵家が、雇う人の保証をしてくれる、という事だろうか。

 それなら多少は安心……かな?

 でも、俺が雇った人達をちゃんと管理できるかの不安は、まだ解消されてないが。


「ともあれ、ひとまずはこの件、セバスチャンやクレアと話す必要はありそうだな」

「そうですな。この調子で増えるのなら、土地も多く必要でしょう。……タクミ様の住まう場所も、確保しないといけませんし」

「俺、薬草畑に住むんですか?」

「薬草畑ではありませんが……近くにタクミ様が住んで管理できるよう、住居を作るつもりでした。この屋敷にいては、薬草畑を管理できませんからな」

「そうですか……」


 一瞬、屋敷から追い出されると考えてしまったが、そうではないようだ。

 確かに、薬草畑はランジ村の近くで作るんだから、この屋敷にいては管理できないだろう。

 レオに乗れば、頑張っても往復に1日以上かかってしまう。

 そんな事では、薬草畑を管理する事はままならない。


 人を雇って、代わりに管理してくれる人がいればいいが、しばらくは無理だろうしな。

 ……そもそも、俺が人に管理を任せたり、そこまで雇った人がやってくれるようになるかの不安もある。


「この際だ、ランジ村の村長にも言って、特大の土地を用意してもらおうか」

「いやあの、大き過ぎると大変なので……程々でお願いします……」

「はっはっは、まぁその辺りは、まず私達の方で話し合ってからだな。タクミ殿には、ある程度決まって来たら、相談させてもらおう」

「はい、お願いします」


 土地に関わる事だから、先にエッケンハルトさんの方である程度考える必要があるのだろう。

 俺が最初から話に加わっても、何か言えるわけでもないしな……任せる事にする。

 クレアさんやセバスチャンさんがいるから、無理な事にはならないだろうし。

 若干、不安なのは……エッケンハルトさんが豪快さを発揮してしまう事だけか……。


「それでは、あちらの薬草は、しばらく経過を観察させて頂きます。何か、タクミ様の方で考えはありますか?」

「そうですね……見る限り、日の当たり方はあまり関係していないようですが、一応、成長の速度を知りたいかなと。あと、水を与えた時と、与えない時で違いが出るかどうか……ですかね?」

「畏まりました。他の者に言って、それぞれの半分に水をやり、水を与えなかった時との違いを観察致しましょう」

「はい、お願いします」



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