第325話 リーザにデザートが出されました



「では、リーザちゃんが獣人の掟を知っているかも含めて、タクミさんの方から、聞いて頂けないでしょうか?」

「はい。どれだけの事が聞けるはわかりませんが、わかる範囲で聞いてみます」

「お願いします。リーザちゃんが気分を害するような事は、考えていませんので、辛そうであれば……」

「えぇ、リーザが辛くなるような事は、できるだけ思い出さないようにして、聞きたいと思います」


 とは言え、どう聞くべきか。

 スラムでの生活についても、聞いておいた方がいいだろうし、絶対辛い事を思い出させてしまう。

 リーザを拾って育てたお爺さんの事も、聞いておきたいが……まぁ、リーザの様子を見てからだろう。

 救いなのは、俺やレオに懐いてるせいなのか、リーザ自身が明るい事か。


 俺が離れようとすると不安そうな顔をするのは、お爺さんとの別れを経験したからかもしれないな。

 人といて、何かが原因で別れる事になるのは、辛い。

 まだ7歳くらいの子供には、慣れるだけの経験もないだろうしなぁ。


「失礼します。クレアお嬢様、昼食の支度が整いました」


 リーザの事を考えていると、入り口をノックして、メイドさんの一人が入って来た。

 その人は、昼食ができたと報せに来てくれたみたいだ。


「えぇ、わかったわ。それじゃタクミさん、お話はここまでにして、食堂に行きましょうか」

「はい。……あ、俺は客間にリーザを呼びに行ってから、食堂に行きますよ」

「そうですか、わかりました」

「タクミ様、客間には別の者が報せに行きましたので、リーザ様はレオ様と食堂に行かれるかと思います」

「あぁ、そうだったんですね。ありがとうございます」

「いえ」


 お昼になったと、リーザへ伝えに行こうとしたら、メイドさんから別の人が報せに行ったとの事。

 客間には、ライラさんやゲルダさんもいるはずだから、食堂にリーザを連れて来てくれるだろう。

 それに、メイドさんの言う通り、レオもいるからな。

 あいつが、昼食と聞いて動かないわけがないしな。


「では、食堂へ参りましょうか」

「はい、そうですね」


 クレアさんがセバスチャンさんを連れ、俺と一緒に3人でその場を移動、食堂へ向かう。

 そういえば、途中から調合はミリナちゃんに任せっぱなしだったなぁ。



「パパ!」

「おっと。リーザ、いい子にしてたかい?」


 食堂に入ると、先に来ていたリーザが俺を見つけ、体を使って全力で抱き着いて来る。

 俺が離れてから、ミリナちゃんと一緒に薬の調合をしてたはずなのに、元気だな。

 疲れ知らず?


「うん。ママ達と一緒に、薬を作ってた!」

「そうかそうか。……ライラさん、薬の方は?」

「用意された薬草は、リーザ様とミリナが全て調合し、ヘレーナへと渡してあります」

「ありがとうございます」


 リーザを受け止めながら、小声で扉の横に立っていたライラさんに、薬の調合がどうなったかを聞いた。

 薬は全て調合し、ヘレーナさんの所へ行ったのか……結構な量の薬草を用意したと思ったが、ミリナちゃんが頑張ってくれたんだな。

 リーザもな。


「ふふふ、タクミさんによく懐いていますね」

「嬉しい限りですよ」


 俺に抱き着いたリーザを見ながら、微笑むクレアさんに俺も笑いながら返して、リーザを抱き上げて移動。

 そのまま、椅子にリーザを降ろし、俺も椅子に座る。

 向かいにはクレアさんが座った。

 いつもの配置だな。


 エッケンハルトさんと、ティルラちゃんやアンネさんは、既に椅子に座って待っていた。

 リーザが俺に抱き着いた時から、それを笑って見ていたようだ。

 レオは、既にお座りしており、尻尾を振りながら早く料理が来ないかと待っているようだ。

 皆が集まったところで、使用人さん達がテーブルに昼食の配膳を始める。


 ほどなくして、全員分の配膳が終わる。

 レオの前にだけソーセージが大量にある事以外は、皆同じ料理だ。

 今日の昼食は、俺がこの屋敷に来てすぐ、ヘレーナさんが作ってくれたヨークプディンだった。

 時折出て来るが、リーザが来たからと、ヘレーナさんが頑張ってくれたんだろう。

 この分なら、デザートもありそうだ。


「今日も、ヘレーナが頑張っているようだな。頂こうか」

「はい」

「頂きますわ」

「はい!」

「ワフ」

「キャゥ」

「頂きます」

「……頂きます」


 エッケンハルトさんが、配膳された料理を見渡して、皆へ合図。

 クレアさんやアンネさん、ティルラちゃんが返事をして食べ始め、レオやシェリーもそれに続く。

 俺も手を合わせて、初めて見る料理に目を輝かせていたリーザも、真似をして手を合わせた。

 まだ慣れないフォークを使い、俺達に倣って料理を口に入れるリーザ。


 すぐに目を見開き、驚きと喜びがない交ぜになった表情だ。

 ヘレーナさんの料理は美味しいからな、驚くのも無理はない。


「美味しい!」


 満面の笑みで食べるリーザを、他の皆で微笑ましく見ながら、和やかに昼食は進んだ。

 レオとシェリーだけは、自分の前にある物を食べるのに必死だったが……。

 そんなにお腹が空いてたのか?

 いや、いつもの通りか。



「初めて食べる味……」

「それは、甘いって言うんだよ?」

「甘い……甘い! 甘い、美味しい!」


 昼食を頂いた後、すぐに用意されたデザート。

 それを食べたリーザは、再び驚きと喜びが混ざった表情になる。

 甘いという言葉を、知らなかったみたいだな。

 というより、初めての味か……スラムには、甘味とかなさそうだからなぁ、仕方ないか。


「甘い物が初めて、か。確かに少々値が張るか……贅沢品になるのだろうな」

「そうですね。甘い物はやはり、他の物と比べると、費用が高くなってしまいます」

「うむ。街や村でも、多少は食べられているようだが、さすがにスラムではな」

「そうですね……」


 リーザの様子を見ながら、エッケンハルトさんとクレアさんが話している。

 アンネさんは……リーザが物を食べて何か反応するたびに、尻尾や耳が動くから、それを目で追ってるようだ。

 楽しいのかな、それ……いや、アンネさんは楽しそうだから、置いておこう。

 レオとシェリーは、満腹になって満足そうで、ティルラちゃんと一緒に、一つの団子状態になってるな……ほとんどレオに皆が包まれてる感じだが。

 リーザは、朝の事を考えると、レオに包まれるのも好きそうだが、今は初めて感じた甘みという物に感動して、それどころではないようだ。


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