第316話 エッケンハルトさんはクレアさんにタジタジでした



「おはようございます、クレアさん、アンネさん。セバスチャンさんも」

「おはようございます、タクミさん」

「おはようですわ」

「タクミ様、おはようございます」


 朝の支度を整えた後、戻って来たリーザやティルラちゃんと一緒に、食堂へ移動した。

 先にテーブルについて待っていたクレアさんとアンネさん、後ろに控えているセバスチャンさんに朝の挨拶。


「ワフワフ」

「レオ様もおはようございます。リーザちゃんもね。おはよう」

「おはよう……ございます」

「まだ、タクミさんやレオ様以外の人には、慣れていないようですね」

「そうですね。あとは街で一緒にいた、エッケンハルトさんくらいですかね」


 俺に続き、レオも挨拶するように鳴き、それに返してくれるクレアさん。

 アンネさんは、まだレオが怖いのか、視線を逸らしている。

 クレアさんから挨拶されたリーザは、俺の後ろに体を半分隠しながら、たどたどしく挨拶を返す。

 やっぱり、まだ俺達以外の人にはちょっと気圧されてしまうのかもな。

 ティルラちゃんは、リーザと年が近いからか、大丈夫そうだったが。



 相変わらず、朝の弱いエッケンハルトさん抜きでの朝食を頂き、ティータイムの時間。

 ヘレーナさんが作ってくれた料理に、リーザは嬉しそうにしながらよく食べていた。

 途中、レオがソーセージをリーザに食べさせるようとするハプニングもあったが……。

 レオが好物をリーザにあげるとは……リーザは、あまり良い物を食べて来ていない、というのが見てわかる程痩せているから、それを気にしての事かもしれない。


 俺以外の皆はレオがソーセージをリーザの方へ差し出すのを、微笑ましそうに見ていたが、俺だけは驚いた。

 昔からだが、一度ソーセージをあげたら、絶対のもう誰にも譲らないくらいの勢いで食べてたレオがなぁ。

 それだけ、リーザの事を気にしてるんだろう。

 本当に娘のように感じてるのかな? 年上だが。


「おはよう! 良い朝だな!」 

「お父様、もう皆起きて朝食を頂きました。良い朝というのは、もう少し早く起きてから仰るものでは?」

「う、うむ。そうかもしれんな」


 まったりと、ライラさん達が淹れてくれたお茶を飲みながら過ごしていると、勢いよく食堂の入り口を開けて、エッケンハルトさんが入って来た。

 朝が弱いとは思えない程、元気な様子だ。

 クレアさんとセバスチャンさんからの説教は、程々で終わったのかもな。

 しかし、それでもまだクレアさんは、エッケンハルトさんに辛辣だ。

 時間が足りなくて、説教をし足りないのかな?


「どうぞ、旦那様」

「うむ」


 クレアさんにたじたじになりながらも、テーブルについたエッケンハルトさんの前に、セバスチャンさんティーカップを置き、お茶を淹れる。

 それを一口飲んで、俺達を見渡す。


「さて、タクミ殿。昨日話していた事は、既にセバスチャンやクレアには伝えてある。いつ頃から始める?」

「昨日……あぁ、あれですね。そうですね、色々見てみたいので……今日からでも良いですか?」

「うむ、セバスチャン」

「はい。こちらはいつでも、準備はできております」


 エッケンハルトさんはまず、俺に視線を向け、昨日話した事を……と言う。

 一瞬何のことかわからなかったが、すぐに思い出した。

 リーザの事があったから、あまり考えて無かった、危ない危ない。


 エッケンハルトさんが言葉を濁して言うのは、ここにリーザやアンネさんがいるからだろう。

 この二人は、まだ俺が『雑草栽培』というギフトを使えるってしらないからな。

 それにしては、アンネさんの前で薬草を作るとか、言ってしまってる気がすがるが……薬の調合もしているので、そちらの事だと言い訳もできる……多分。

 

「パパ、何かするの?」

「んーと、ちょっとした計画があってね。それの準備というか、研究をするんだよ」

「そうなんだぁ」


 リーザは、俺が何をするのか興味があるようだ。

 アンネさんがいるから、詳しく話す事はできないと思うから、とりあえずぼかして伝えておいた。

 ちなみに、クレアさんは知っているから頷いているが、アンネさんは首を傾げて何のことかわからない様子だった。



「あ、ミリナちゃん」

「師匠、おはようございます。えっと、その子が? ライラさんから聞いてはいますけど」

「おはよう。うん、この子がリーザだよ。ほらリーザ、挨拶をしよう?」

「えっと、初め……まして。リーザ……です」

「初めまして。ミリナです。よろしくお願いします。師匠の弟子をやってます!」

「うん、それじゃ、何も説明になってないよね?」


 ティータイムの後、食堂を出て廊下を歩き、ミリナちゃんを見つける。

 ティルラちゃんとシェリーは勉強で、クレアさんとアンネさんは、客間に移動して何か話しているようだ。

 とりあえず、色々と端折った自己紹介で、案の定首を傾げてるリーザにミリナちゃんの事を紹介する。

 ミリナちゃんは、一応成人していてティルラちゃんより年上だが、孤児院出身という事もあるから、クレアさん達よりも馴染みやすいかもしれないな。


「それで師匠、どうかしましたか?」

「あぁ、えっとね。調合した薬なんだけど、もっと必要になったんだ。しばらくあれを混ぜた物を、継続して飲んで効果を確かめようってなったからね」

「そうなんですね。わ、わかりました! 私に任せて下さい!」

「あぁ、うん。任せようとは思ってたんだけど……大丈夫?」

「簡単な作業ですから、大丈夫です。腕の痛みは……何とか我慢します!」

「そ、そう。辛かったら、無理しないで良いからね?」

「はい!」


 ワインに混ぜ、薬酒にするための薬は、乾燥するまで混ぜ続けなければいけない。

 ずっと手を動かすだけで、作業自体は簡単なんだが……単純作業は重労働、というのはこの世界でも変わらないのか?

 ともあれ、ミリナちゃんにお願いして、調合のための薬草を作りに裏庭へ。

 確か、エッケンハルトさんとセバスチャンさんが、先に行って待ってるって言ってたな。



「お待たせしました、エッケンハルトさん、セバスチャンさん」

「うむ」

「お待ちしておりました、タクミ様」


 レオとリーザを連れ、裏庭へ。

 言っていた通り、二人は先に待っていてくれたようだ。

 会釈するセバスチャンさんに返しながら、二人に近付いて行った。



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