第307話 リーザの可愛さは屋敷で大人気の予感がしました



「……ありがとう……ございます……?」

「い、いえ……良いのよ、気にしないで。貴女はここで楽しく過ごしてくれれば、ね?」

「「「……! ……!」」」


 客間へ執事さんが入って来て、夕食ができたとのお報せ。

 クレアさんと話しているのを聞くと、ヘレーナさんがすぐにリーザの分の食事も用意してくれたみたいだ。

 配慮をしてくれたクレアさんに感謝をし、ヘレーナさんには後でしっかりお礼を伝えよう、ブドウジュースの事もあるし。

 リーザにも、クレアさんにお礼を言うように促すと、今までの話で頭がパンク状態のリーザが、戸惑いながらもたどたどしくお礼を言う。

 最後に、頭を下げて視線を上目遣い、さらに首を傾げて尻尾も連動というコンビネーションを見せた。


 それを見たクレアさんは、少しだけ顔を紅潮させながらも、優しくリーザへ語り掛ける。

 ライラさんとゲルダさんは、手を握りしめて何かを堪えるようにして、明後日の方を向いた。

 ちなみにクレアさんも、右手を抑えるように左手で掴んでいる。

 ……確かに今のは、尻尾を触ったり、撫でたりしたい可愛さがあるよなぁ。


 そう思いながら、エッケンハルトさんを見ると苦笑していて、セバスチャンさんは朗らかにその様子を見ていた。

 リーザは問題なく、この屋敷の人達に受け入れられそうだな……。


 

「リーザちゃんって言うんですね!?」

「そうよ。この子はリーザ。獣人の子だけど、他の人達と変わらないように接するのよ?」

「わかりました! リーザちゃん、私はティルラです!」

「ティルラ……お姉ちゃん?」

「お姉ちゃん……初めて呼ばれました!」


 皆で食堂に移動し、配膳されるのを待っているうちに、ティルラちゃんが鍛錬を終えて来たので、リーザを紹介。

 予想通り、ティルラちゃんは好奇心に満ちた目で、リーザの耳や尻尾をみながらも、近い年頃の女の子が来たと喜んでいる様子だ。

 さらに、リーザがティルラをお姉ちゃんと呼んだ事で、感激している。

 ティルラちゃんは末っ子だから、お姉ちゃんなんて呼ばれる事はなかっただろうしな。


「仲良くするのよ?」

「はい、わかりました! リーザちゃん、よろしくです!」

「……よろしくお願い……します。……ティルラお姉ちゃん」

「はい!」


 お姉ちゃんと呼ばれるのがそんなに嬉しいのか、ティルラちゃんは満面の笑みだ。

 あまり心配はしてなかったが、これならティルラちゃんはリーザと仲良くなってくれそうだな。

 リーザの可愛さと、耳と尻尾で、この屋敷の皆はすぐに受け入れてくれそうだな。

 後は……アンネさんか……。


 ちなみにエッケンハルトさんは、食堂へ来る前にセバスチャンさんを連れて行き、すぐに帰って来た。

 帰って来た時には、無精髭が剃られており、髪もある程度整えられていた。

 それを見たクレアさんが、エッケンハルトさんがいきなりおかしな事を始めて何かの事件か!? とか取り乱したけど、すぐにリーザに怯えられないためと説明されて落ち着いた。

 ……しかし、本当にエッケンハルトさんが髭を剃って、髪を整えると美形が際立つな……彫りの深さも相俟って、美中年と言って差支えが無い……童顔の俺から見ると羨ましい限りで……卑怯だ。


「失礼しますわ」


 考えがアンネさんに及んだ時、ちょうどその本人が食堂へと入って来た。

 二日酔いがまだ続いているのか、昨日までより少し顔色が悪いように見える。

 朝よりは大分良くなってるのかもしれないが……そんなにまで、昨日のお酒は辛かったのか。

 ロゼワインも、度数は高い方みたいだからなぁ。


「……? その子は? 獣人ですの?」

「ええ、そうよ。差別意識からイジメられていたところを、タクミさんとレオ様が保護したの」


 食堂に入って来たアンネさんは、少し鈍い動きながらもテーブルにつき、そのあたりでリーザの事に気付く。

 リーザはまだ小さいから、椅子に座ると顔だけがテーブルの上に来るようになってるからな。

 すぐに目に入らなくても仕方ない。


 ちなみに、席順はお誕生日席にエッケンハルトさん。

 エッケンハルトさんから見て、右側に俺が座り、その隣にリーザ、レオの順だ。

 リーザが、俺とレオに挟まれて座りたがったからだな。

 その向かいには、クレアさん、ティルラちゃん、シェリー、アンネさんの順番だ。

 リーザ以外は、いつもこんな感じで座ってるな。


「獣人……」

「……パパ……」

「ん、どうしたリーザ?」


 獣人が珍しいのか、マジマジとアンネさんがリーザを見ると、椅子に座っていたリーザが俺に縋りついて来た。

 アンネさんが怖いのかな? それとも、あんまり見られるのに慣れていないのか?


「あの人……怖い……」

「なっ!?」

「よしよし、大丈夫だからな。怖い事はないよ?」

「アンネ……貴女何をしたの?」

「何を言っていますの? 私はただ見ていただけで……何もしていませんわよ!?」


 俺に縋りつきながら、アンネさんが怖いというリーザ。

 少し震えてるようだが……アンネさんに見られただけで、何でそこまで?

 何かリーザを怯えさせるようなものが、アンネさんにあるんだろうか?


「どうしたんだい? どうして、あの人が怖いと思うのかな?」


 縋りつくリーザに目線を合わせて、ゆっくりと聞く。

 こういう時、叱りつけたり、我慢しなさいというのは子供にとって苦痛になるだろうからな。

 できるだけ、リーザにはそういう思いはして欲しくない。

 レオも、心配そうにこっちを見てるしな。


「あの人の髪の毛……刺さりそう……」

「髪……?」

「私のこの素晴らしい髪ですの?」


 小さく漏らしたリーザの声に、皆の視線が向かうのは、アンネさんの金髪が見事にカールして作られた縦ロール。

 心なしか、二日酔いの影響で少し元気が無いようにも見えるが、その縦ロールは、先が尖っていて確かに刺さりそうだ。

 いや、髪の毛だから実際に刺さったりはしなさそうだし、手入れはちゃんとしてるのか、柔らかそうだが……あれが金属になったら間違いなく刺さりそうだ……と思えるほど、先端は尖っていた。

 元気がないせいなのかはわからないが、先の方数センチがロールしておらず、レイピアとか刺突武器の先っぽのように見えなくもない……金色だけどな。



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