第232話 男を問い詰め始めました
「ワインを飲んだ者が病に罹り、その者が別の者へ……そうしてどんどんと疫病が広がりを見せるのですが……どうもおかしいのですよ」
「……な、なにがですか?」
「いえね、この店が薬草を売り始めた時期と、疫病が広まった時期がほぼ同じなのです。偶然かもしれませんが……少々出来過ぎなのではありませんか?」
「そ、そんな事……私共は、苦しんでいる人たちを救えるのならば、と薬の販売を始めました。疫病の事など一切考えておりませんでた……」
「そうですか……それなら、それは単なる偶然の一致なのでしょう。ですが……」
「ま、まだ何か?」
一つずつ説明して行くセバスチャンさん。
男の方は、何とか言い逃れが出来ないかと、先程からずっと目が泳いでいる。
……そんな態度をしていると、感覚強化の薬草が無くてもわかりやすい反応なんだが……。
セバスチャンさんの方は、楽しくなって来ているのがはっきりわかる程、表情が輝いて見える。
説明と、嫌な相手を追い詰める、の二つだからだろうなぁ。
「このラクトスの街から近い村があります。実はこのワイン、そこの村で作られた物なのですけどね? 先日、その村を我が公爵家の者が調べている時、魔物に襲撃されました」
その調べていた者とは、俺の事だな。
公爵家の者となっているが、屋敷に住まわせてもらって、皆と親しくしているのだから、間違いじゃない。
「ま、魔物に……ですか。それは大変でしたね……」
「はい、大変でした。幸い、調べていた者の尽力により、事なきを得ましたが……実はその魔物の襲撃は、とある人によって引き起こされた事なのですよ」
「と、とある人ですか?」
「ええ。そのとある人は……」
商人達の説明をするセバスチャンさん。
商人達がワインを作るためのブドウを持って来たと偽装して、魔物を連れてきた事。
その商人達は魔法具を使って、ワインを病に感染させ、疫病を広げる事が目的だった事などだ。
「そして、その商人達が言ったのです。我々は伯爵様の命を実行した……と」
「は……」
伯爵という言葉が出た瞬間から、男は言葉を無くしている。
「この店も、伯爵様との繋がりがあるのでしたな? 評判は聞いておりますよ。薬や薬草を買い占め、混ぜ物をしてかさ増し、効果を薄めて販売していると……」
「そ、そんな……私共は……」
「言い逃れはできませんな。先程のワインの時の反応で十分です。ウードさん、貴方はワインが病の素になっている事を知っている……だから先程ワインを飲む事をためらったのでしょう?」
「……いえ、その……ただ私は、お酒が苦手で……」
「ほぉ?」
ワインを飲む事をためらっていた……というよりも、飲まないようにするにはどうしたら良いかを考えているようだったな。
しかし、さっきと同じい言い訳で、逃れようとする男。
その男に対し、セバスチャンさんは声を上げながらニヤリと笑った。
「数日前の事なのですが……貴方は街の酒場で、酷く酔っていたそうですね?」
「そ、それは……」
「聞いておりますよ? 数人を連れて、派手に飲み明かしたとか……そのような人が、お酒を苦手……と?」
この事は、俺も知らなかった。
数日前という事は、エッケンハルトさんが来る前で、俺が屋敷に戻った後だろう。
もしかすると、セバスチャンさんは今の話を掴むために、泳がせていたのかもしれない。
だとすると、ランジ村から戻ってすぐここへ来なかったのも、セバスチャンさんの計画のうちか……確実に相手を追い詰めるために……。
「本当はお酒を飲めるのに、ワインを飲むのは躊躇った……これは、このワインがどういう物かご存じだったからではありませんか?」
「……くっ……」
セバスチャンさんに詰められて、言い逃れが出来なくなった男。
もしあの時、ワインを素知らぬ顔で飲んでいれば、もう少し言い逃れできたんだろうにな……。
まぁ、どちらにせよ、エッケンハルトさんが後ろにいる限り、こちらが失敗する事はあり得ないんだろうけどな。
「……確かに、私はあのワインが疫病を広めている事を知っている。だが、それだけで私を捕らえる事が出来るとでも? 私はワインには何もしていないのに?」
「そうですな。確かに貴方達はワインに対しては、何もしておりません」
「そうだろう。ワインの事を知っていたからと言って、私を責める事はできないはずだ!」
逆上したのか、開きなおったのか……男は顔を真っ赤にして、出っ張っているお腹を揺らしながら叫ぶ。
言葉遣いも、本性を現したのか、丁寧な言葉遣いでは無くなっている。
確かに、ワインの事を知っているからと言って、捕まえる事はできないだろう。
偶然、もしくは伯爵から聞かされていただけ、という可能性もあるしな。
「ですが、貴方は公爵家の領内で、粗悪な薬を売るという事をしております。これは、重大な罪ですよ?」
「それこそ証拠がないだろう! 私が売っている薬草や薬は、効果のある物だ! 病に備えて独占的に売る事を考えてもおかしくないだろうが!」
「そうですね。病が広がる事を前もって知っていれば、それは商売をするうえで、大きな利益を導き出せるでしょう。ですが、貴方の売っている薬草や薬の効果は、ほとんどない事を確認しております」
「何を言っている。どうしてそんな事がわかる!」
男は、どうにかして自分の無実を証明したいらしいが、焦っているためか、深くは考えられないらしい。
薬の効果がどうか……なんて、ちゃんとした薬師がいればわかる事だろうに……。
「……貴方は先程、ラクトスで広まっている疫病を治す薬として、こちらを出しましたね?」
「……あぁ、そうだ」
セバスチャンさんが示したのは、男が棚から持って来た薄紫の液体が入った薬だ。
「残念ながら、こちらの薬では、疫病を治す事はできません」
「ど、どうしてそんな事がわかる!?」
「簡単ですよ。タクミ様、ラモギを出していただけますか?」
「はい」
セバスチャンさんに言われて、鞄の中からラモギの粉末を包んでいる紙を取り出す。
それをテーブルの上に置き、包みを解いて中を見せる。
「そ、それは……」
「さすがに、一応とは言え薬草や薬を扱っているだけあって、これが何かわかるようですな?」
「……っ」
「これはラモギの花弁を乾燥させ、すり潰して粉にしたものです」
正確には、俺がギフトを使ってこの状態にしたんだが、本来のラモギはそうやって薬にするんだろう。
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