第228話 カレスさんの店で打ち合わせをしました



「これはこれは、エッケンハルト様。わざわざお越し頂き、我ら一同恐悦至極にございます」

「うむ。賑わっているようだな」

「はい。タクミ様の薬草のおかげですな。ラモギ価格の話は?」

「セバスチャンとタクミ殿から聞いたぞ」

「そうですか。そのおかげもありまして、連日お客様で大盛況でございます。店の者は皆、対応に追われていますが……嬉しい悲鳴、というやつです」


 カレスさんの店に到着すると、店の前にはお客さんと見られる人達が並んでいた。

 以前来た時はこんな事は無かったんだが、これもラモギを値下げした効果なのかな?

 お客さんを整列させていた店員が、俺達に気付き、店の中にいるカレスさんを連れて来て、挨拶を交わす。


「こんな所で話すのもいけませんな。狭いですが、店の中へどうぞ」

「うむ」


 カレスさんに連れられて、皆で店の中へ。

 ……レオだけは、入れないので外で待機だ。

 お客さんの中に子供達もいたので、またその子供達と遊んで待っていてもらう事にした。

 今回は、外で対応している店員さんも以前の混雑を見て学んだのか、スムーズに子供達を並ばせていた。


「こちらです」


 カレスさんに通されたのは、以前と同じ店の中では無く、建物の2階部分。

 1階はお客さんでいっぱいなので、落ち着く事ができないだろうからという配慮だ。

 まぁ、椅子を置いて座る場所もなさそうだったからなぁ。

 事務所的なスペースになっている2階で、護衛さん達とセバスチャンさん以外がテーブルにつく。


「ではまず、これからタクミ様と共に例の店へ行って参ります」

「頼んだぞ」

「はい。タクミ様、例の店に着いてからの事ですが……」

「はい……」


 セバスチャンさんから、一緒に例の店に行ってからの事に関して打ち合わせをする。

 まぁ、俺はほとんどセバスチャンさんが言う事に合わせて、頷いたりするくらいだ。

 セバスチャンさんだけで、俺が行く必要はなさそうにも思えるが、薬を鑑定して仕入れをする商人、という役目らしく、俺が必要だそうだ。

 セバスチャンさんは公爵家の執事として顔が知られているし、クレアさんは当然、フィリップさん達も護衛として知られてるうえ、格好が商人とは見えない。

 エッケンハルトさんの護衛さん達は、もしもの時のため、ここから離れられない。

 ……レオがいるからもしもなんてないが、まぁ、職務だろうから仕方ないな。


「あ、アニキじゃないっすか! 今日はどうしたんです? 薬草を取りにいかなくても良いとは言われてましたけど」

「あぁ、ニックか」


 セバスチャンさんの説明も終わり、いざ例の店へ……という所でニックが2階に上がって来た。

 今まで1階でお客さんの対応をしていたらしく、休憩にでも入ったんだろう。


「ほう、その者がニックか……セバスチャンから聞いているぞ」

「……誰っすか? このオッサン」

「おい、やめろニック。この人は……」

「はっはっは! 私を見てこの反応……顔を知らないのは仕方ないが、久しぶりで面白いな!」 

「急に笑い始めたんですけど……」


 エッケンハルトさんは事前に話をセバスチャンさんに聞いていたようだ。

 まぁ、報告するのは当然だな……ここは公爵家の店だし。

 そのニックが失礼な事をエッケンハルトさんに言う。

 俺が焦って説明しようとしたら、豪快に笑い始めたエッケンハルトさん。

 いやあの……テーブルまでバンバン叩いて……そんなに面白かったんですか?


「お父様は、いつも誰かに傅かれてばかりだから……こういう反応は珍しくて面白かったのでしょうね」

「そういうものですか……」

「あ、クレア様。お久しぶりでっす!」

「久しぶりね、ニック。……この方は私のお父様よ?」

「え……お父様……と言う事は、もしかして……」

「公爵様だ」


 クレアさんはエッケンハルトさんが笑ってるのを、困った顔をして見ている。

 ニックはクレアさんを見て元気に挨拶だ……屋敷に出入りしてるから、さすがにクレアさんの事は知っていて当然か。

 クレアさんがエッケンハルトさんを紹介し、戸惑うニックに、俺が止めを刺す。

 ……こういうのは、雇い主の仕事だな。


「……こ、こ、こ、こここここ」

「コケコッコ?」

「ここここ、公爵ひゃま!?」

「ははははは! そうだ、私が公爵ひゃまの、エッケンハルト・リーベルトだ」

「し、失礼しました! 公爵様とは知らず、失礼な事を! 打ち首だけは! 打ち首だけはご勘弁を!」


 鶏の鳴き声のように「こ」を連呼した後、ようやく公爵と言えたニックだが……様を噛んでしまった。

 それだけ驚いて緊張しているという事なんだろう。

 エッケンハルトさんも、悪乗りして公爵ひゃまとか言ってるし……楽しそうだなぁ。


「打ち首になどせん。楽しそうな者を雇ったな、タクミ殿」

「はぁ……」

「タクミ殿が例の店に行っている間、この者で楽しませてもらおう」

「ははははははい! わ、わ、私でよろしければば!」

「……頼んだぞ、ニック……」


 何やらニックを気に入ってしまった様子のエッケンハルトさん。

 俺とセバスチャンさんが一緒にカレスさんの店を出るが、ニックは2階に残されたままだ。

 その時の捨てられる子犬のような、助けを求めるニックの目は……忘れよう、うん。

 エッケンハルトさん、楽しむのは良いんですが、遊び過ぎないで下さいよ?

 などと心の中だけで考え、セバスチャンさんと二人、例の店へと向かった。


 ちなみに、レオも来たそうにしていたが、さすがに連れて行くと警戒されそうだという事と、子供達の相手が忙しそうなので置いて来た。

 まぁ、街中だから、滅多な事はないだろうし、一応フィリップさんとヨハンナさんが距離を離して、尾行するように付いて来てくれているからな。


「あ、そうだ。セバスチャンさん」

「どうかされましたか?」


 セバスチャンさんと二人、例の店へと向かいながら話す。


「念のため、これを……」

「これは確か、身体強化と感覚強化の薬草……でしたか?」

「はい。もしもの時に備えて、ですね」


 道すがら、持っていた鞄の中から薬草を取り出してセバスチャンさんに渡す。

 それは、森の中で使った、感覚を強化する薬草と、最初に偶然できてしまった身体能力を強化する薬草だ。

 昨日のうちに、カレスさんへ卸す薬草と一緒に少しだけ作っておいた。



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