第215話 ミリナちゃんが頑張ってお茶を淹れてくれました



「皆様、どうぞ」

「ありがとう、ライラ、ゲルダ」

「レオ様も、シェリー様もどうぞ」

「ワフワフ」

「キャゥー」

「ありがとうございます。ミリナちゃんも、ありがとう」

「いえ、私はまだ見習いですから……上手く淹れられていると良いのですけど」


 セバスチャンさんが戻って来るのを待つ間、ライラさんが皆にお茶を淹れてくれた。

 レオとシェリーには牛乳をゲルダさんが用意してくれた、それに対してしっかりお礼を言うように鳴いている。

 俺の所のお茶は、ミリナちゃんが淹れてくれたようで、緊張した面持ちでいる。

 ライラさんに教えてもらったんだろう、初めて淹れたお茶がちゃんと美味しいのか心配してるようだ。


「……ん、美味しいよ、ミリナちゃん」

「本当ですか!? ……良かったです」


 ミリナちゃんが淹れてくれたお茶を一口飲む。

 ライラさんが淹れてくれたお茶にも劣らず、澄んだ香りと甘みも感じる良い味が出ているな。

 緊張した面持ちで、俺の様子を窺うミリナちゃんを安心させるように、美味しいと伝えると、ホッとした様子を見せるミリナちゃん。

 この味を出せるようになるまで、頑張って練習したんだろうな……。


「ミリナは頑張りましたからね。タクミ様に美味しいお茶を飲んでもらうんだと、ランジ村にタクミ様が行っている間、ずっと練習していました」

「そうなんですか。ミリナちゃんありがとう、美味しいよ」

「いえ、そんな……師匠はいつもお茶を飲んでのんびりされるのが好きなようでしたから……」


 俺がランジ村に行っている間に、やっぱり頑張って練習していたようだ。

 ミリナちゃんに改めて感謝をすると、恐縮しながら言うミリナちゃん。

 この屋敷で過ごしている時、特にのんびりして好きな時間が、ライラさん達に淹れてもらった美味しいお茶を飲みながらのんびりする事だ。

 きっとミリナちゃんは、俺の様子を見て何かできればと思ってくれたんだろう。


「お待たせしました」

「セバスチャン。お父様は何と?」


 ミリナちゃんの淹れてくれたお茶を飲みながら、のんびりと過ごしていると、10分も経たないうちにセバスチャンさんが戻って来た。

 クレアさんは自分の父親が関わっているからだろう、待ちきれない様子ですぐにセバスチャンさんに問いかけた。

 一緒にいるティルラちゃんも何があったのかと心配顔でセバスチャンさんを見ている。


「まさかとは思ったのですが……明日、旦那様がこの屋敷に来られます」

「お父様が!?」

「何かあったのですか!?」

「ワフ?」


 セバスチャンさんが、静かな声でエッケンハルトさんが再びこの屋敷に来るのだと伝える。

 それを聞いて、クレアさんとティルラちゃんが大きな声を出し、レオが牛乳を飲むのを止めて顔を上げた。

 ……レオはティルラちゃんの大きな声に反応しただけだな。


「セバスチャンさん、明日という事は……既にエッケンハルトさんは本邸を出てるんですか?」

「はい、そうなります。なんでも、私が以前に差し上げた報告……ランジ村に行く前の事ですな。その報告が届いた直後に本邸を出たらしいのです」


 セバスチャンさんの説明の通りなら、俺が屋敷に帰って来たあたりで、エッケンハルトさんは本邸を出発した事になる。

 という事は、ガラス球に関する確定した報告はどうなったんだろう?


「エッケンハルトさんは何故この屋敷に?」

「例の店と伯爵に対しての決着をつけるためとの事ですな。どうやら、最初の報告でガラス球が怪しいと書いていた事が決定的だったようです。まだその時はイザベルに依頼した直後だったので、詳しい事は判明していなったのですが……」

「そうですよね……」


 ガラス球が怪しいとか、病の原因になっているのでは……という事はレオが判別してくれたおかげでわかっていたが、イザベルさんによる鑑定はその後の話だ。

 まだガラス球とワインが怪しいというだけで、確定じゃなかったはずなのに、エッケンハルトさんはこの屋敷に来て例の店に対応するつもりだった、という事になるな。


「旦那様からの使いの者によると、レオ様とタクミ様が発見し、判別した事が決めてとなった……との事でございます。タクミ様とレオ様は旦那様より確かな信頼を得ているようですな」

「俺とレオが……」

「ワフ?」


 エッケンハルトさんとは、会って数日しか過ごしていない。

 剣を習ったりもしたが、それだけで公爵家当主が動くだけの信頼を得られたのかどうか、俺にはわからない。

 もしかしたら、公爵家だから……シルバーフェンリルに対して信頼を……という事なのかもしれないな。


「旦那様はこの屋敷へ向かう途中で、イザベルの鑑定結果も記した報告を受け取ったようですな。そこから折り返し、この屋敷に向かっているという使いの者を出して、本日その使いが到着した……という事のようです」

「成る程……」

「明日、お父様が来るのね」


 以前、エッケンハルトさんがこの屋敷に来た時、クレアさんが無事な事を改めて報せたのは、屋敷に来る途中で受け取ったと言っていた。

 今回も同じような事になったみたいだな。

 前回と違って、報せたが来たその日のうちにエッケンハルトさんが到着というわけではないから、使用人さん達の準備には余裕があるだろう。

 ……そう思って、食堂にいるライラさんやゲルダさんを窺って見ると、二人共緊張した様子で、いつも垣間見える余裕は微塵もなく見えた。

 ゲルダさんは、あまり余裕が無い様子が多いが、ライラさんが余裕を無くすのは珍しいな……結局準備は大変という事かもしれない。


「旦那様が来られたら……タクミ様、ランジ村での事を話す必要があるでしょう」

「はい。わかりました」


 尋問……とかそんな事ではないだろうが、詳しい事情を話す必要は当然あるだろう。

 それに、ランジ村で起こった事は俺が当事者に近いしな。


「私共はこれから、旦那様を迎える準備を致しますので」


 そう言って、セバスチャンさんとライラさん達使用人さんは、食堂を退室して行った。

 ミリナちゃんも一緒だったから、何か手伝うのだろう。

 それを見送って、皆は軽く息を吐きながら淹れてもらっていたお茶を一口飲んだ。


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