第150話 初心者用魔法を使えるようになりました



「それだけで、簡単に隙を突いて逃げる事が出来るのです。後は、逃げ方次第で生き延びる事が出来るでしょう」

「ありがとうございます。逃げる事を考えていなかった俺に、その事を教えてくれて」

「タクミ様は剣を習い始めましたからね。剣で相手を倒そうとすると、逃げる事を考えていてはいけません。特に最初のうちは誰でもそうでしょう。ですので、今回が良い機会だと思いました」


 セバスチャンの言う通り、剣を構えてるのに逃げ腰だと当たる物も当たらない。

 だから、剣を使って相手に勝とうとすると、逃げる事じゃなく相手を圧倒する気迫を持たなきゃいけない。

 逃げる事を考えて腰が引けてる剣なんて、誰も怖く無いからな。


「では、逃げる事も戦ううえで重要な事だとわかったところで、魔法を使ってみましょう。簡単な魔法なので、すぐに出来ますよ。まずは同じように唱えてみて下さい。……ライトエレメンタル・シャイン」

「わかりました。……ライトエレメンタル・シャイン」


 これは俺が逃げる事を知るための講義じゃなくて、魔法の講義だからな。

 ようやく魔法を使う事が出来るという、ワクワクを抑えながらセバスチャンさんの言う通り、光の魔法の呪文を唱えてみる。


「出来ませんね……」


 しかし、俺の手には光の球が出て来ない。

 セバスチャンさんの方には、先程とは違う光の球が出ているのに……。


「今のタクミ様は、ただ呪文を唱えただけですので当然ですな。この呪文に魔力を乗せる事で魔法に変換され、発動するのです」

「魔力……」


 俺には魔力が備わってる事がわかっているが、それを使うと言われてもどうしたら良いのかわからない。

 今まで生きて来て、魔法の無い生活をしてたから当然なのかもしれないけど。


「魔力は、人間に備わっている能力の一つですが……魔法を使った事の無い人は、この魔力の使い方がよくわかりません」

「そうですね」

「まずは魔力の使い方を知る事が重要です。魔力消費も少なく、簡単な明かりの魔法はこの練習にうってつけですな」


 明かりを出すだけなのだから、セバスチャンさんの教えようとしている魔法は、簡単なのだろう。

 初心者用の魔法、と言ったところかな。


「そうですな……まずは目を閉じてみて下さい。そして、自分の呼吸に意識をむけて……」

「はい……」


 セバスチャンさんに言われた通りにして、目を閉じて呼吸をする。


「その状態で、自分の体に意識を移して行きます。そうすると、何か暖かみを感じるような部分がありませんか? 頭や心臓のあたりなど……」

「温度……そうですね……体のあちこちから、仄かな暖かみを感じます」

「それが、タクミ様の体内にある魔力の一部です。魔力は体内を循環しているので、それを感じる事が第一段階です」

「……はい」


 セバスチャンさんの言うように、体に意識を向けてみるとあちこちから……頭や心臓を始め、手や足、肩にも暖かいものを感じる。

 これは、以前の世界では感じた事の無いものだと思う。

 体温とは違う仄かな暖かみは、どこか安心する感じがする。

 自分の魔力だからなのかな?


「その魔力を感じる感覚を忘れないようにして下さい。そこから、絞り出すようにその暖かみを、魔法の発動させる場所へと移動させるように意識してみて下さい。……これは人によって意識の仕方が違うとは思いますが」

「……やってみます」


 えーと、今回の魔法は光を灯す魔法だから、右手の平だな。

 そこに、一番わかりやすい位置にある魔力を移動させるように……お、何か移動して来た気がする。

 仄かに暖かった部分が、少しづつ移動して右手のひらへと向かう……何か、体内の血管を血が巡ってるイメージだな。

 実際に血が巡ってる感覚は無いが、何となく頭の中で意識しやすいのはそんな感じだ。


「手に魔力が……集まって来たと思います」

「意識を掴むのが早いですな……素質のある証拠です。では、その魔力を外に放出するイメージをしながら、呪文を唱えてみて下さい」

「はい……ライトエレメンタル・シャイン」


 セバスチャンさんの言葉に従い、呪文を唱える。

 すると、魔力によって暖かった手のひらが、少しだけ温度が上がったと感じた瞬間、そこに光の球が現れた。


「おぉ……出来ました……!」

「お見事です。予想より、早く習得出来ましたな。これでタクミ様も魔法が使えるようになりました」


 俺の手のひらに乗ってる光の球は、眩しい光を放っているが、それも気にならない程の感動がある。

 セバスチャンさんの教え方が良かったのかもしれないな。

 今、自分で魔法を使ってる事実に、セバスチャンさんの手を取って喜びたい気分だ。

 ……さすがにそんな事はしないけどな。


「今回はあまり時間が無いので、簡単な魔法ですが……これを基礎に色々な呪文を覚える事で、様々な魔法が使えるようになるはずです」

「様々な魔法……」


 これ以外にどんな魔法が使えるのだろう……?

 焚き火に火を付ける時、レオが使った火の魔法?

 それとも、飲み水にはあまり適していないが、食器を洗うために使っていた水の魔法?

 どんな魔法が使えるのか、どんな魔法を使いたいか、考えれば止まらなくなりそうだ。


「俺にも色んな魔法が使えるんですね」

「もちろんです。タクミ様には相当な魔力があるようですからな。努力次第ではありますが、色々な魔法が使えるようになるでしょう」


 確か、ラクトスの街で調べてもらった時は、結構魔力があるみたいな事を言われた気がする。

 それなら、戦闘にも役に立つ魔法も使えるようになるんだろうか……?

 ……無詠唱の修練とやらもしないといけないみたいだから、すぐには出来ないだろうけど。


「魔法は、呪文を理解しないといけなかったり、魔力を多く使うものがあったりと様々です。なので、呪文の勉強や、魔力の使用方法を確かなものにしないと、使えない魔法は数多くありますよ?」

「それでも、魔法が使えた事は嬉しいですね……」


 魔力を多く使う魔法は、今回のように手から発動するとした場合、手に集める魔力量が多くなるから練習が必要なんだろう。

 呪文の理解については、勉強しないといけないのは当然だな。

 見本を見せてくれたセバスチャンさんのおかげで、明かりの魔法は簡単に理解出来たから使えたんだろう。

 初心者用の魔法、という事もあるのかもしれないとも思った。


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