第146話 子供はレオに懐くのが早いようでした


「ワフワフ?」

「ん? あぁちょっと待ってくれ。……ロザリーちゃん……だったよね?」

「はい! ロザリーです!」


 レオに声を掛けられて、俺がロザリーちゃんに声を掛ける。

 シルバーフェンリルを連れた俺に呼びかけられて、緊張した様子で返事をするロザリーちゃん。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。レオは子供が好きなんだ。一緒に遊んでくれるかい?」

「……食べられませんか?」

「レオは人を食べたりはしないよ。大丈夫だから……ほら」

「……フカフカです」

「ワフッワフッ」


 最初は食べられるかと恐怖していたロザリーちゃんに、レオが大丈夫な事を伝えて手を取る。

 レオの体に触れさせて、フワフワな毛を触るとその感触に顔がほころび始めた。

 レオの方も、楽しそうに鳴いている。


「こんな感じで、レオは子供が好きで誰かを襲う事はありませんよ」

「……まさか、あのシルバーフェンリルがこんなにおとなしいなんて……」


 ハンネスさんは、信じられ無いものを見るように、レオと触れ合っているロザリーちゃんを見ている。

 シルバーフェンリルの事を知っていれば、こういった触れ合いは信じられ無いものなのかもしえないが、レオはおとなしくて優しいからな。


「ワフーワフー」

「きゃ、はははレオ様すごーい」


 レオは楽しそうに鳴き、ロザリーちゃんを背中に乗せたりして遊んでる。

 子供は適応が早いな。


「まぁ、こんな風に……今ロザリーちゃんが乗っているように、俺がレオに乗って先に出発したハンネスさんを追い掛けます」

「……人を乗せて走るのですね」

「ええ。レオは馬よりも大分早いので、通常3日程かかるランジ村まで1日くらいで行けると思いまよ」


 正確にはどれだけかかるかはわからないが、馬より大分早いレオならそれくらいで到着できるだろうとの予測だ。

 今までレオが全力で走った事は無さそうだから、全力を出せばもっと早いかもしれない。

 ……さすがに振り落とされそうだから、スピードは制限してもらうけどな。


「成る程……そういう事ならわかりました。シルバーフェンリルを従えている貴方様の事……その言葉は信用できると思います」

「信じてくれたなら何よりですよ」

「話はまとまりましたね。それでは……ライラ」

「はい」


 ハンネスさんは信用してくれたようだ。

 シルバーフェンリルを知っている人程、レオがおとなしい状況を見る事で俺の信頼感が増すらしい。

 俺個人への信頼じゃない事が少しだけ寂しいが、それはこれから築いて行けば良い事だな。

 相棒が頼もしい事の方が、喜ぶべき事だと考えよう。

 クレアさんがライラさんに声をかけ、控えていたライラさんがハンネスさんに近付く。


「移動で疲れた事でしょう。本日はこの屋敷でゆっくりとお休み下さいませ」

「……ありがたい事なのですが……一刻も早く村に戻らなければ」

「逸る気持ちもわかりますが、今日のところは休んで下さい。薬を準備する時間もありますから」

「……わかりました」


 ライラさんの説得で、今日のところは休む事に決めたハンネスさん。

 結構なお年のようだから、遠くから移動して来てかなり疲れてるだろう……無理はさせたくないな。

 ライラさんが俺を見て、目礼をした。

 ……成る程……そういう事ね。


「では、俺は薬の用意をします。少々時間はかかりますが……」

「はい、お願いします」

「お願いします、タクミ様」

「お願いします!」

「ワフ!」

「あぁ、レオはそのまま、ロザリーちゃんと遊んでて良いぞ」

「ワフー」


 クレアさん達に薬の用意をすると言って、客間を出る。

 ついて来ようとしたレオには、ロザリーちゃんと一緒に遊んでいてもらおう。

 そうした方が、ロザリーちゃんも楽しそうだし、村が助かるかどうかの不安も取り除けるだろう。

 近くにいる事で、ハンネスさんもレオに慣れてくれるかもしれないしな。


「それはそうと、ライラさんも中々やるなぁ」


 俺に目礼して合図を送って来たライラさん。

 ラモギを用意するのは『雑草栽培』を使うから、あまり時間が掛からない。

 でも、薬を用意する時間を理由にハンネスさんを休ませる説得をした、という事だな。


「それじゃ、ライラさんの言うようにゆっくり用意するかな」


 呟きながら、心持ちゆっくりと裏庭へ向かった。

 裏庭では、ティルラちゃんとミリナちゃん、それとシェリーが相変わらず楽しそうに走っていた。


「タクミさん、お帰りなさい。鍛錬を一緒にしますか?」

「ティルラちゃん、ちょっとやる事が出来たから鍛錬は出来そうに無いよ」


 ランジ村のためのラモギを作らないといけない。

 けど、ラクトスの街に卸す薬草も、減らさないようにしないといけないからな。

 それなら鍛錬を減らして、筋肉疲労の回復のために作ってる薬草の栽培をラモギに充てようと思う。

 限界まではまだ余裕があるかもしれないが、念のためだな。


「そうなんですか。わかりました、頑張って下さい!」

「ありがとう。ティルラちゃんも鍛錬頑張って。それと……ちゃんと勉強もしないと駄目だよ?」

「う……わかりました」


 勉強と聞いて、少し嫌そうな顔をしながらティルラちゃんは鍛錬に戻った。


「師匠、鍛錬を休むなんて……何かあったんですか?」

「あぁ、ちょっとラモギを多めに用意しなきゃいけなくなってね」


 俺は、さっき客間で会ったハンネスさん達の事をミリナちゃんにも伝える。


「そういう事なら、私も協力します。多少は薬の扱いも勉強しましたからね」

「助かるよ」


 そう言って、俺はティルラちゃんが鍛錬に打ち込む姿を横目に、『雑草栽培』でラモギの栽培を始める。

 採取はミリナちゃんに任せた。

 まだまだ覚束ない感じだが、少しづつ覚えて慣れて行けば良い。

 俺も最初は同じだったしな……最近は色々栽培してるから採取には慣れて来た。


「相変わらず師匠の能力は凄いですね」

「まぁ、限界はあるんだけどな」


 ミリナちゃんと会話をしながら、ラモギの薬を作る作業。

 採取したラモギは、俺の手で乾燥して使える状態にして、ミリナちゃんが幾つかにまとめて布で包む。

 しばらくその作業を続けて、大量の薬を作成。

 作った量は、孤児院の時よりもかなり多い。


「……一応、このくらいにしておこうか」

「お疲れ様です!」


 ミリナちゃんに労われるが、言われる程疲れてもいない。

 ギフトは体力を使わないみたいだから、疲労とは無関係だしな。

 気絶をするような兆候も無く、多少の余裕はありそうだが無理は良くない。

 明日、ハンネスさん達が出発する前にまた、作業をすればとりあえずの数は用意出来ると思う。



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