第145話 村にラモギを届ける方法を考えました



「どうしたら良いでしょうか……薬草はタクミさんにお願いすれば出来るとはわかっていますが……」

「俺が数をどれだけ用意出来るかが問題ですよね……」

「タクミさんに無理をして欲しくないのです。……ですが……」


 クレアさんは、ハンネスさんとロザリーちゃんに協力したいと考えてるようだ。

 もちろん、俺もそう思う。

 そのランジ村が、ここからどれだけ離れてるのか知らないが、そこからわざわざここまで来てくれたんだしな。

 

「カレスの店に卸す量を抑えますか?」

「それだと、ラクトスの住民に薬が行き渡るのが遅くなります」


 それは避けたい。

 例の店があるから、出来るだけちゃんとした薬草を減らすのはしたくない。


「だとしたらどうすれば……」

「んー……ハンネスさん」

「はい?」

「ここからハンネスさん達の村まで、馬でどれくらいかかりますか?」

「……ラクトスの街を抜けて行かなければなりませんから……3日程、でしょうか」

「そうですか……わかりました、ありがとうございます」


 ハンネスさんに聞いて、俺はまた考える。

 俺がどんな人間なのか知らないため、ハンネスさんは不思議顔だが、今はそれに構っていられない。

 ……そう言えば、ハンネスさんに俺が誰だか教えて無かったっけ……そりゃ不思議顔もするよなぁ、我が物顔でクレアさんの隣で意見してるんだから。


「クレアさん、馬で3日という事は、レオに乗ると……?」

「恐らく……1日かかるかどうか……でしょうか……?」

「成る程……それなら、こういうのはどうでしょうか?」


 クレアさんに、俺が考えた内容を伝える。

 要は、1日で大量に『雑草栽培』を使い過ぎなければ良いんだ。

 1日で用意できないなら、数日掛ければ良い。

 幸い、俺にはレオという頼りになる相棒がいるからな。


「わかりました、タクミさんの案で行きましょう。それなら無理をしないので、セバスチャンも反対しないでしょうからね」

「そうだと良いですね」


 そう言えば、ここにセバスチャンさんがいなかった。

 色んな事を考えてくれるセバスチャンさんだから、俺の考えた事を支持してくれるかどうか、ちょっと不安だ……。


「ハンネス、私達は貴方達に協力します」

「本当ですか!?」


 クレアさんが結論を出し、ハンネスさんに伝える。

 ハンネスさんとロザリーちゃんは嬉しそうだ。


「こちらのタクミさん……我が屋敷の薬師が、何とかしてくれますから」

「貴方が……」

「えーと、タクミです。自己紹介が遅れてしまって申し訳ありません。俺が、ハンネスさん達の村分の薬草を用意します」

「ありがとうございます、ありがとうございます」


 感謝で涙を流しながら、俺とクレアさんに頭を下げるハンネスさん。

 村の皆が病に罹ってるから、不安だったんだろうな……街に行っても薬草は無かったというのもあるし。


「ハンネスさんは、先に村に帰って頂けますか?」

「村へ帰るのは良いのですが……肝心の薬の方は……?」

「それは用意します。数は少ないですが」

「村の者達全員には行き渡らないのですね……」


 ハンネスさんは、期待していた表情を曇らせた。

 まぁ、これだけの説明ならそう考えるか。


「いえ、村に住む人達……病に罹っている人達全員に薬は行き渡るようにしますよ」

「ですが……」

「ただ、少しだけ時期をずらすだけです」

「時期を……?」

「はい。まずハンネスさんに先に村へと馬で出発してもらい、村へ着く数日の間に俺が薬の数を揃える作業をします」

「ですがそれでは、村の者達全てに行き渡るのが遅くなるのでは……?」


 ハンネスさんが考えてるのは、俺か誰かが薬を持って後発で村に向かう事だろう。

 それだと最終的に村へ薬が行き渡るとしても、数日は薬が足らないという状況になる。

 病の重い人から順に薬を使って行けばとも思うが、薬を欲しがる人達に優劣をつけるのは村長として避けたい事のはずだ。


「いえ、途中で……ハンネスさんが村に着く頃だと思いますが、その頃に俺も十分な数の薬を持って村に到着するようにします」

「……そんな事が出来るのですか? 数日早く出発してる私に追いつくなんて……」


 俺もハンネスさんと同じように、馬で出発したらそんな事は不可能だろう。

 休まず移動すれば、多少は距離を縮める事が出来るかもしれないが……そもそも俺は馬に乗れないしな。


「まぁ、俺には馬に追いつける移動手段があるんですよ」

「……そう、なのですか?」

「馬より速いのですか?」


 ハンネスさんとロザリーちゃんは半信半疑だ。

 馬以上に早い乗り物なんて、レオ以外に存在するかどうかはともかく、普通の村人の二人には想像できない事だろうから、仕方ないな。


「えーと、少し待っていて下さいね」

「……はぁ」

「ちょっとレオを呼んで来ます」

「はい。わかりました」


 クレアさんに断って、ハンネスさん達を残して俺はレオがいる食堂へ。


「レオ様なら、裏庭にティルラお嬢様と一緒にいらっしゃいます」

「ありがとうございます」


 食堂に行くと、片付けや掃除をしていたメイドさんだけだった。

 どうやら、俺達の帰りを待つのに飽きたんだろう。


「レオ、ちょっと来てくれー」

「ワフ?」


 裏庭に出て、シェリーを乗せてティルラちゃんとランニングをしているレオを呼ぶ。

 鍛錬中に悪いが、レオを呼んで客間まで一緒に来てもらう。

 ……シェリーは降ろしておこうな。


「戻りました」

「お帰りなさい、タクミさん」

「ワフ」

「ひぃ!」

「フェ……フェンリル……?」


 クレアさんに挨拶をしながら、レオと一緒に客間へ入る。

 レオが一鳴きすると、その大きな姿を見たハンネスさんとロザリーちゃんは、顔を引き攣らせた。


「大丈夫ですよ。こいつはレオ。人を襲う事は無いので安心して下さい」

「……大丈夫……なんですか……?」

「はい。レオはシルバーフェンリルですが、俺の言う事を聞いておとなしいので怖がることはありませんよ。な、レオ」

「ワフー」

「……シルバーフェンリル」


 俺が言葉を掛ける事で、ハンネスさんは何とか落ち着いたようだが、それでもまだレオを怖がってる雰囲気だ。

 シルバーフェンリルと教えると、また顔が引き攣った……まぁ、仕方ないか。


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