第136話 悪い噂の出ている店に関して話し合いました



「それじゃな。……間違っても薬草を持ち逃げしたりするなよ?」

「そんな事絶対にしませんよ! アニキの怖さは身に染みています! それに公爵家に逆らうなんて自殺するようなもんでさぁ!」


 貴族様だからな……下手に逆らうと、打ち首のような罰が待っているかもしれない。

 というか、ニックの言う怖さって……主にレオの事じゃないのか?

 ニックの言葉を信じて、玄関ホールで送り出す。

 もし変な動きをしたら、レオかセバスチャンさんが気付くから大丈夫だろう。


「タクミさん、昼食を食べましょう!」

「ティルラちゃん。もうそんな時間かい?」

「ワフワフ」

「キャゥー」


 ニックを送り出した後、裏庭に戻って鍛錬の続きをしよう考えていると、向かっている途中でティルラちゃんと会う。

 どうやら薬草を栽培してる間に、昼食の時間になったようだ。

 お腹を空かせてるティルラちゃんと、食欲旺盛なレオやシェリーと一緒に食堂へ向かう事にした。


「クレアお嬢様、タクミ様。例の店の事なのですが、ある程度情報が揃いましたのでご報告致します」


 昼食を食べ終わった頃、セバスチャンさんが食堂へ来て悪質な店に関する話になった。


「俺も聞いていて良いんですか?」

「薬草に関わる事ですからね。タクミ様には聞いてもらった方が良いでしょう。もしかすると、タクミ様の出番もあるかもしれません」


 公爵家に関わる事だから、部外者である俺が聞いても良いのかと思ったが、どうやら良いらしい、クレアさんも頷いている。

 でも、俺に出番があるかもって一体何だろう?

 俺が出来る事って、『雑草栽培』を使う事くらいだなんだが。


「タクミ様の作る、ラモギの用意が必要かもしれませんからね」

「ラモギがですか?」


 疫病が思ったよりも広がっているという事だろうか?


「粗悪な薬を売る店が出て来た時と、疫病が広がり始めたタイミングが近い事ですが……どうやらこの店、疫病の事を知っているようなのです」

「それは何故ですか?」

「本日の報告で確認が取れましたが、ラクトスの街で各店を周って薬草や薬を買い占めているのは、この店である事が判明致しました。そして、真っ先に買い占めたのがラモギなのです」

「ラモギを真っ先に……」

「ラモギは孤児院で見た通り、今回広がった疫病に効くという事は間違いありません。そして、この店は真っ先にラモギを買い占めています。その事から、疫病の広がりとそれを治すための物を知っていたと推測致します」


 疫病の広がりと、店の開始のタイミングがほぼ同じで、真っ先にラモギを買い占める。

 疫病の事を知っているから、出来た事だという事か。


「しかし、疫病が広まり始めた時、街の住民達はラモギ以外の薬を求めました。これは、疫病に関する知識が住民達に無かったためと思われます」

「確かに、孤児院のアンナさんとかは病気に効く薬が何なのか、知らなかった様子ですね」


 どの薬が病気に効くのかわからなかったが、店に誘導されて、効果の薄い薬を買わされたという事だった。

 アンナさんからしてみれば、安く薬が手に入るという事で信用したんだろうが、店側は薄めた薬で元手を少なくして、利益を生み出しているんだろう。


「この事から、この店は他の薬、薬草の買い占めも始めます。そして、ラモギに固執することなくそれらの薬を販売し始めました。おそらく、住民が疫病の知識が無い事を逆手に取ることにしたのでしょう。それからは色々な物の効果を薄めた物を販売して利益を得ているようです」

「……そうですか」

「民を欺く商売……許せないですね」


 住民は、疫病の知識が無いからどの薬が効くのかわからない。

 だから複数種類の薬を買い占め、効果を薄めて販売する事で、どの薬も売れるようにするって事か。

 多分、店の店員による誘導もしてるんだろうな……この薬が効きますよとか言って、全然関係ない薬を売りつけたり……アンナさんのように。


「詐欺ですね」

「はい。しかし続いての報告なのですが……これが判明した事で、公爵家ですぐに対処出来なくなっております」

「対処出来ないのですか?」

「出来ないわけでは無いのですが、ややこしい事情がありまして……」

「……他の貴族ね、セバスチャン」


 あぁ、そう言えば、貴族との関りがあるとかなんとかって話があったっけか。


「そうです。つい先程の報告で判明したのですが……隣の貴族……伯爵家が関わっているようなのです」

「伯爵?」

「バースラー家ね」

「はい。バースラー伯爵が関わっているとの事です」


 公爵家の隣の領地は、バースラー伯爵という人の領地らしい。

 クレアさんやエッケンハルトさんを見ていると、貴族はこういった人を騙す商売をし無さそうに見えるが、人それぞれ、貴族によっては汚い事をするのもいるんだろうと思う。


「そのバースラー伯爵と言うのは?」

「この公爵家、リーベルト家の領地の隣に領地を持つ貴族ですな。貴族が関わっている事で、公爵家の力だけで、すぐに店を取り潰す事が出来なくなっております」


 それはどうしてだろう?

 公爵の方が伯爵よりも、貴族としての位は高いはずだ。

 あーでも、こういった上流階級には面倒なしがらみがあるから、そのせいかもしれないな……。


「お察しの通り、貴族としての関りがあるため、私達ですぐに対処出来ない事態となっております」


 ……セバスチャンさん、俺の表情を見ただけで何を考えているか当てないで下さいよ。

 でも、考えた通り面倒な事が多くあるようだ。


「でも、証拠はあるんですよね? ここまでわかってるんだし……それならその証拠を突き付けて……という事は出来ないんですか?」

「それが、これらは状況証拠を集め、推測も交えた事なのです。決定的な証拠には繋がっていません。薬は効果を薄めてあるので、どこの店で販売されていた物かを特定出来ません。買い占めを行った者は、既に街から出ているので捕まえる事も出来ないのです」

「今までの情報は、どうやって入手したんですか?」

「ラクトスの街に古くからいる情報屋が主ですね。住民への聞き取りも行っています。街の店で買い占めを行った者が、店に出入りしていたのを見ていた者もいたのですが……」

「その人が何か?」

「行方をくらませています。出入りしていた者と買い占めを行った者が同じという事は、目撃した者から聞いたという人物……つまり又聞きとなるので、証拠としては使えません」


 行方をくらませた人がどうなったのかはわからない……まぁ、ろくなことにはなってないと思うが。

 セバスチャンさんの言う通り、住民が他の住民に聞いた又聞きだと証拠と言うには弱いよなぁ……。



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