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第128話 ラクトスの孤児院へ行きました
第128話 ラクトスの孤児院へ行きました
「わかりました。それじゃあ、昼食後は孤児院に行きましょう」
「ありがとうございます。ティルラ、また皆に会えるわよ?」
「ほんとですか!? 久しぶりです!」
孤児院に行く事を決めると、俺にお礼を言ったクレアさんはそのまま、串焼きを頬張っているティルラちゃんに声を掛ける。
喜ぶティルラちゃんを見る限り、孤児院に行った事があるようだ。
「それではカレスさん、これからも薬草販売よろしくお願いします。……ニック、真面目に働けよ」
「はい、畏まりました」
「わかってますよ、アニキ!」
昼食後、カレスさんとニックに声を掛けて店を離れる。
……ニックが真面目に働くか心配ではあるが、セバスチャンさんが監視する者を用意する、と言っていたので大丈夫だろう。
魔法も掛かってるしな。
「それにしても孤児院ですか……クレアさんはよく行くんですか?」
「そうですね……月に1度程度は訪問するようにしています」
道すがら、クレアさんに孤児院の事を聞いた。
何でも、孤児院運営は貴族義務の一つとされていて、公爵家も大きな街では必ず孤児院を設立しているらしい。
貴族の税収を使って運営される孤児院は、場所によって大きく貧富の差があるらしいが、公爵家が管理している孤児院は贅沢とは言わなくとも、まともな生活が出来ているとの事だ。
「それでも、一般家庭よりは貧しい生活なのですが……」
税収を使うとの事だが、公爵家は商売が成功しているために領内の税は低くしている。
だから孤児院に割り振る資金が少ないのだが、ある程度は私財で賄っているらしい。
それに加えて、孤児院で育った人達を公爵家の使用人や兵士で採用していて、出身の人達が育ててもらった恩返しに孤児院を支援する……という循環が生まれてるみたいだな。
ちなみに、ライラさんを始め、ゲルダさんやヨハンナさん、ニコラさんやフィリップさんまでもが孤児院の出身らしい。
……屋敷にいる使用人は6割から7割がそうらしい。
下手な人間を採用するより忠誠心に優れた者が多い、というのはセバスチャンさんの弁だ。
「ここが孤児院です、タクミさん」
「ここですかぁ」
街の端の方、俺達が来た場所とは反対の東側にその孤児院はあった。
建物は小綺麗で、十分に整備されてる様子が垣間見える。
というかこれって、教会?
十字架に鐘を吊り下げた鐘楼といい……大きな正面扉からは今にも、結婚した夫婦が出て来そうな雰囲気だ。
さすがにステンドグラスは無かったが、石造りの景観はまさしく教会と言っていい建物だった。
「院長はいますか?」
「……クレア……お嬢様?……はっ、これは失礼しました。今すぐ院長を呼んで来ます!」
俺が孤児院の建物を見て感心している間に、クレアさんは建物前で箒を使って掃除をしていた女性に声を掛けた。
あれが孤児院の人か。
「……ちょっと雰囲気が重い気がします」
「そうなんですか?」
クレアさんは神妙な面持ちで、院長を呼びに駆け足で建物に入って行った女性を見ながら呟く。
俺はここに来るのが初めてだから、いつもの雰囲気がわからず比べる事は出来ない。
だけど、さっきの女性は俯き加減でなにやら思い悩んでいる様子だったのは確かだ。
まぁ、俯いてたせいでクレアさんに気付くのが遅れてたくらいだ。
「クレアお嬢様、ティルラお嬢様! ようこそお越し下さいました!」
「アンナ、久しぶりね」
「久しぶりです!」
建物からさっきの女性を伴って、細身の中年女性が駆けて来た。
この人が院長かな……さっきの女性もそうだったが、服装が完全に以前の世界で言うシスターの恰好だ。
修道服のように見えるそれは、頭から足元まで黒い布で覆われている……日差しの強い日は暑そうだなぁ。
「クレアお嬢様とティルラお嬢様の訪問、大変嬉しく思うのですが……今は……」
「何かあったの?」
クレアさんの前に来た院長のアンナさんは、申し訳なさそうにしている。
さっきの女性も俯いてるが、何か問題があるんだろうか?
「いえ……その……孤児院にいるほとんどの人が疫病に罹っているのです。そんな場所にクレアお嬢様達を案内する事は出来ません。もしクレア様まで疫病に罹られたら……」
「成る程……そういう事なのね。病に効く薬はどうしてるの?」
どうやら疫病は、この孤児院で蔓延してるようだ。
どんな病気かはわからないが、そんな場所に公爵家のご令嬢を入れて、病気がうつってしまったらいけないとの考えなんだろうな。
「薬は……安く譲って頂いた物を飲ませましたが……ほとんど効果が見られませんでした」
「薬の効果が見られない……セバスチャン」
「はい。アンナさん、もしかしてその薬を買った店は、貴族との関りがあるとの触れ込みがありませんでしたか?」
もしかすると、アンナさんが買った薬は悪質な業者による物なのかもしれない、とクレアさんとセバスチャンさんは考えたようだ。
混ぜ物でかさ増しをして、効果を薄めてるようだから、そんな薬を使っても病気が良くならないのは当然だろう。
「え? はい。確かにその店は、貴族様が運営する店と言われています。ですので私達も安心して薬を買ったのですが……」
「やはりそうでしたか……」
「貴族とは、クレアお嬢様達の事では無かったのですか?」
アンナさんは、その店と関わりのある貴族が公爵家だ考えていたようだ。
何も知らない住民からしたら、貴族と聞いて最初に思い浮かべるのは領主になるのが普通なのかもしれないな
「いいえ、私達はその店に関与していないわ。それにそのお店は粗悪な物を売る所なのよ。……セバスチャン、これは……」
「早急に対処する必要がありますね。放っておけば、公爵家の評判も落としかねません。……ニコラを先に動かしておいて正解でした」
「……クレアお嬢様との関りは無かったのですね……私達はてっきり……」
「アンナ、孤児院の皆はまだその疫病で苦しんでいるのね?」
「はい……病が回復する事も無く、ほとんどが床に臥せっています。新しい薬を買う余裕も無く……申し訳ありません、クレアお嬢様」
「貴方が謝る必要は無いわよ。悪いのは、悪質な薬を売っている店なのだから」
孤児院の人達は、粗悪な薬を掴まされたせいでまだ病に苦しんでるんだな……。
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