第127話 ニックから話を聞きました



「もちろん、今では反省してますよ。まぁそこは置いておいて、そいつの店で暴れた時なんですが」

「はぁ、これからはそういう事は絶対にするなよ……それで?」

「へい、わかってます! ……それで、俺達を押さえるために店の奥から、鎧を来た兵士が出て来たんです。……ちょうどあんな感じの……」


 そう言ってニックが指を指して示したのはニコラさんだ。

 ニコラさんは鉄の鎧を着込み、剣を腰に下げ、頭にも兜を被っていて、どこから見ても兵士に見える装いだ。

 あの見た目と似たような恰好なら、兵士と見て間違いないかもな。


「兵士が出て来て、お前はどうしたんだ?」

「他にも仲間がいて、そいつらと一緒に戦おうとしたんですが、兵士と一緒に店主と見られる男が出て来まして……その男が言ったんです。私達はとある貴族様に認可を受けて商売をしている、だからここで暴れる事は貴族に逆らう事になるぞ……と」

「ふむ……つまりお前は、貴族に逆らう気かと脅されたわけだな?」

「はい。それを聞いた俺達は、捕まるとヤバいからとその場から逃げ出しました」


 成る程な、今回と似たような感じであちらでも貴族に逆らう云々で脅されたのか……。

 しかし、あっちは本当に貴族の認可を得ているのだろうか……?

 貴族があくどい商売をしないとは限らないから、俺には判断が付かないな。

 後で、セバスチャンさんにも伝えておこうと思う。


「教えてくれてありがとうな。それと、もう同じような事はするんじゃないぞ」

「もちろんしませんよ。アニキの役に立てるよう頑張ります!」


 完全にニックが舎弟のようになってしまったが、俺としては雇っている部下のようなものだ。

 これから、経過観察のような事はするべきだと思う。

 出来ればしっかり働いて欲しい。


「タクミさん、何を話してたんですか?」

「あぁ、クレアさん。実はですね、ニックが……」

「どうされましたかな?」


 ニックとの話を終え、レオの近くに戻って来るとクレアさんにどんな話をしていたのか聞かれ、それに答えようとすると、セバスチャンさんがカレスさんとの話し合いを終えてこちらに来た。

 ちょうど良い、今ニックから聞いた事をセバスチャンさんにも伝えておこう。


「うぅん……粗悪な薬草に関わる貴族……」

「むむぅ……これはややこしい事になるかもしれませんな……」


 今し方聞いた話をセバスチャンさんに伝えると、クレアさんと共に考えながら唸っている。

 他の貴族が本当に関わっているとなると、悪質な販売者を罰するというだけで終わる問題では無いのかもしれない。

 貴族の世界はよく知らないが、権力者同士の関係というのは総じてややこしい問題に発展する可能性があるからな。


「とにかく、この事は旦那様に報告しないといけませんな」

「そうね……セバスチャン、まだお父様は本邸についていない頃よね?」

「そうですな。屋敷と本邸の……半分程も進んでいないと思われます」

「使いの者を出して追い掛けさせれば、お父様に追いつけるかしら?」


 クレアさんの提案は、今すぐエッケンハルトさんに事の次第を伝える使いを出し、本邸へ帰ってる途中に追いつかせようという事みたいだ。


「……使いの者には無理をさせる事になりますが……仕方ありません。旦那様なら、事情を聞き次第対処法を考えて下さるでしょう」

「そうね。本邸に帰るまでに手を打つことも可能だと思うわ。場合によってはこちらに戻ってくる事も考えられるわね」

「確かに……いずれにせよ、事情を知らせるには早くした方が良さそうですな。ニコラさん?」

「はっ!」


 クレアさんと話し合って結論を出したセバスチャンさんは、ニコラさんを呼ぶ。


「今すぐに事実関係を確認して来て下さい。確認が終わったら、迅速に準備をして旦那様を追い掛けて下さい。もちろん、屋敷の方にも連絡の者を出す事を忘れずに」

「承知致しました」


 セバスチャンさんの指示を聞いて、すぐに動き出そうとするニコラさん。

 ニコラさんがエッケンハルトさんを追い掛ける事になるのか……馬で移動してる相手に追いつこうとするのだから、かなりの強行軍になりそうだ……そうだな……。


「ニコラさん、ちょっと待って下さい」

「タクミ様、どうなされたので?」


 ニコラさんを呼び留めて、持っていた鞄の中を漁る。

 お、あったあった、これだ。


「これを持って行って下さい。こちらが筋肉疲労を取る薬草で、こちらが疲労を回復させる薬草です」

「良いのですか?」

「ええ。かなり無理をする事になるかもしれませんからね」


 鞄の中から取り出した薬草を2種類、ニコラさんに渡す。

 俺の鍛錬用に作っていた薬草だが、こういう時には役に立ってくれるだろう……自分用だけしか無いから、数は少ないけどな。


「かたじけない……頂戴致します」

「はい。お気を付けて」


 薬草を受け取り、大事そうにしまったニコラさんは、セバスチャンさんに向かって一度頷いた後、走って街の中に消えて行った。

 大変だろうけど、頑張って下さいね。

 しかしニコラさんってたまに時代劇かと思うような言葉使いをするよなぁ……どこかで流行ってるんだろうか?


「クレアお嬢様、タクミ様。昼食の準備が出来ましたので、こちらへ」

「カレスさん、ありがとうございます」


 ニコラさんを見送った後、カレスさんが用意してくれた昼食を皆で食べる。

 店の中に入れないレオのため、ティルラちゃん主導で外で頂く事になった。

 セバスチャンさんやヨハンナさん、カレスさんも一緒だ。

 カレスさんの用意してくれた料理は、ヘレーナさんの料理には負けるものの、十分に美味しかった。

 どうやら、店員さん達が大通りの屋台で買って来た物らしい。

 いつか暇があったら、食べ歩きとかしてみるのも良いかもな。


「タクミさん、この後の時間なのですが」


 昼食もそろそろ終わ頃、クレアさんから昼食後の話を持ち掛けられた。


「タクミさんがよろしければ、私に付き合ってくれませんか?」

「それは良いんですけど、何処に行くんですか?」

「この街にある孤児院です。疫病という話と、粗悪な薬草という話が気にかかりまして……」


 孤児院か……日本にも似たような施設はあったが、幸い俺がお世話になる事は無かった施設だ。

 この世界の孤児院がどんなものか知らないが、クレアさんはそこにいる子供達の事が心配なようだ。

 特にこの後の予定は無いから、一度孤児院を見てみるのも良いかもしれないな。

 もし、粗悪な薬草で苦しめられてたら、その時こそ『雑草栽培』の出番だと考えてクレアさんに答えた。



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