第126話 悪い噂を聞きました
「タクミ様、用意して頂いた薬草は完売致しました」
外に出た俺達にカレスさんが近づいて来て、そう告げられた。
薬草が完売した事で、設置されてるテーブルの周りにはもうお客さんの姿は無く、レオの周りに数人の子供とその親が残ってるだけだ。
あっちはレオが楽しそうだから良いか。
しかしまだ昼前なのに、もう全部売れたのか……。
売れ行きが良いのは喜ぶべき事なのだろうが、そんなに皆薬草が不足していたのか?
「カレス、薬草を必要とする人が増えているようでしたが?」
「それはですね、最近どうやら悪質な薬師が街に入り込んで商売をしているみたいで……」
セバスチャンさんが、カレスさんに問いかける。
確かに薬草を求める人が多かったように思う。
まぁ、カレスさんの読み通り、レオを見に来た人も多かったと思うが、それでもこんなに早く売り切れになるという事は、薬草を欲しいと思う人が多いという事なんだろう。
……けど、カレスさんの言う悪質な薬師ってどんな人なんだろうか?
「状態の悪い薬草や、乾燥させた薬に他の物を混ぜて効果を薄めた物を、通常の値段で販売している薬師がいるのです」
「ほぉ……そんな者がいるのですね……」
粗悪な薬草を販売する薬師……か。
前の世界でもそういう人間がいたが、こっちにも同じような事をする人がいるんだな。
しかしセバスチャンさん、目が怪しく光ってますが……ちょっと怖いですよ?
「公爵家の領内でそんな商売をする者が出ようとは……中々楽しい事になりそうですな」
「セバスチャンは、卑怯な手段を用いる者を潰すのが好きなのです。……趣味と言っても良いのかもしれません」
「クレアお嬢様、そんな事はありませんよ? 私は真っ当な商売をしない者が許せないだけですから。……ふふふ、帰ったら早速旦那様に報告せねば……」
クレアさんが、セバスチャンさんの雰囲気に引いてる俺に説明してくれるが、当の本人はそれを否定した。
けど、その後の言葉や雰囲気は、クレアさんの言う事が正しいと思わせるものがある。
「それはともかく、タクミ様。今後の薬草の事なのですが……」
「はい」
セバスチャンさんを置いておいて、カレスさんが俺に話しかけて来る。
今後の薬草か……これだけ売れるのなら、栽培数を増やした方が良いのかな?
「数に関しては、今回と同じか少し増やして欲しいと思います。それとは別に、ラモギの数を増やして欲しいのです」
「ラモギをですか? そんなに不足しているんですか?」
ラモギなら何度も栽培しているから、難しい事じゃない。
まぁ、倒れないように気を付けないといけないから、何も考えず大量に作る事は出来ないだろうけどな。
「はい。最近、近くの村やこの街で疫病が流行っているのです。その疫病はラモギで治るのですが、いかんせん病に罹る人が多過ぎて数が足りない状況が続いているのです。それに、先程話した粗悪な薬草を売る者もいて、病に罹った人に行き渡らない状況なのです」
「成る程……疫病ですか……」
「幸い、我が店は公爵家の運営する店。タクミ様が作る薬草の品質は私も確認致しました。ここでラモギの販売に力を入れて疫病が鎮まれば、評判は広がって行く事と思います」
混ぜ物をした薬草とは違って、俺の作る薬草は効能がしっかりした物だ。
『雑草栽培』で薬草の状態も、一番効果を発揮する状態に出来るしな。
ここでラモギを使って、評判の良い薬草を売り出せば公爵家としても、店としても薬草販売を安定させる事が出来るかもしれないと言う事なんだろう。
……上手くすれば、ほんとにエッケンハルトさんが本邸に戻るまでに、評判が広まって行きそうだな。
「タクミ様が作る薬草につきましては、私が打ち合わせをしておきましょう」
「セバスチャンさん……お願いします」
さっきまで楽しそうに、粗悪品を売る薬師をどうするか考えていたセバスチャンさんが、いつの間にか正気に戻って、カレスさんと話し合い始めた。
まぁ、こっちはセバスチャンさんに任せておけば大丈夫だろう。
後で、作る薬草や個数を教えてくれれば良いだけだしな。
「レオ、楽しんでるな」
「ワフ」
「ふふふ、レオ様はこの街の子供達に気に入られたようですね」
「レオ様は可愛くて優しいですからね! 当然です!」
話し合うカレスさんとセバスチャンさんから離れ、残った3人の子供達とじゃれてるレオの方に来た。
レオは楽しそうに尻尾を振りながら子供達の相手をしている。
クレアさんはその光景を見て微笑む。
ティルラちゃんは何故か自慢気だが……多分、自分が懐いてる相手が皆に気に入られた事が嬉しいんだろうな。
背中に乗ったり、レオの毛に包まれたりしてる子供達と一緒に、俺もレオを撫でておく。
今回は大活躍だったからな…ニックの事、客寄せや子供達の相手と、レオがいてくれたおかげで助かってる部分が大きい。
「アニキ……邪魔してすみませんが、ちょっと話しておきたい事があって……」
「どうしたんだ、ニック?」
レオを撫でていると、店の中から出て来たニックが俺に話しかけて来た。
しかし……年上っぽいニックからアニキと呼ばれるのはどうなんだ……と今更考えるが、些細な事かと気にしないようにする。
俺はレオを撫でるのを止め、そこから少し離れてニックの話を聞く事にした。
「アニキ、さっきカレスの旦那と粗悪品を売る奴の話をしていましたよね?」
「ああ、そんな話をしたな」
「そいつ……他の街から流れて来た奴なんですがね、どこぞの貴族様とつながりがあるみたいな事を言ってたんでさぁ」
「どこぞの貴族……? というかニック、そいつと会った事があるのか?」
どこぞの貴族と言うのは、公爵家では無いんだろう。
セバスチャンさんやクレアさんが、そんな事をするとは思えないしな。
「いやぁ、以前アニキ達に会う前に一度だけ、そいつの店で暴れた事がありやしてね……」
「ニック……」
照れ臭そうにそう言うニックだが、そこは照れる所じゃない、反省する所だろ。
これからはそういう事をしないよう、見張る必要があるかもしれないな……。
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