第63話 クレアさんが森に来たかった理由を聞きました



「その後、私は成長していくのですが……その成長途中でも、初代当主様の絵のままの姿で成長して行ったんです」

「初代当主様の生き写し……と?」

「はい。なので私は、リーベルト家に仕える使用人達からは期待されて育てられました。初代当主様の生まれ変わり、リーベルト家の繁栄を約束するものだと……」

「その……使用人達以外の……父親とかはどうだったんですか?」

「……お父様は、私が初代当主様に似ているから生まれ変わりだというのは信じていませんでした。お父様は私に、お前が初代当主様の生まれ変わりなどという話を信じて真似をしようとするな。お前は私のかわいい娘なのだ。同じ事をしようとはせず、お前はお前の考えで生きて行けば良い、と言ってくれました」

「……良いお父様ですね」

「はい……私もティルラもお父様には随分可愛がって育てられました。……お見合いの話を持って来る事を除いて……ですが……」

「ははは……そこは何か考えがあるのかもしれませんよ?」

「お父様の考えを慮る前に、あのお見合い話の数に押し潰されそうでした!」


 随分とクレアさんの父親は、娘たちにお見合いをさせたいようだなぁ。

 父親が年頃の娘に対してお見合い話を持って来るって、クレアさんの父親の気持ちは俺にはわかりそうにない。

 子供がいるわけでもないしな。


「……話が逸れましたが……お父様のお言葉のおかげで私は、初代当主様の生まれ変わりという話しを、気にせずに育つことが出来ました。ですが……」

「ですが?」

「シルバーフェンリルの話を、初代当主様の伝説やそれ以外から聞くと、何故か胸が躍るような気持ちになるのです」

「胸が……」


 思わずクレアさんのふくよかなお胸様に目が行きそうになるが、意志の力を総動員して止めた。

 真面目な話をしている最中に、さすがに失礼だろ俺……。


「レオ様を見ていてもそうなのですが、どうしてもシルバーフェンリルに関する事になると、何か湧き上がる物があるのです」

「ふむ……」

「理由もわからないそれを確かめるには、初代当主様がシルバーフェンリルと出会ったという、この森に来るしかないと考えたのです」

「ですが……本当にレオ以外のシルバーフェンリルがいるとは限りませんよ? それに、実際シルバーフェンリルならレオと会ってるのでは?」

「森を探索して会えないのなら仕方ありません。その時は諦めようと思います。レオ様に関しては、何故なのかはわかりませんが、湧き上がる物があるとは言え、レオ様以外のシルバーフェンリルの話を聞いた時程では無いのです」

「レオとは別のシルバーフェンリルを求めてる……という事ですか?」

「多分……そうなのだと思います。ですがもし、明日以降の探索でシルバーフェンリルや、その手掛かりが見つかる事が無ければ、諦める事が出来る気もしています」

「諦めるんですか?」

「そうです。この森に来るだけでもタクミさんを始めとして、セバスチャンやライラ……様々な人に迷惑を掛けてしまいました。」

「……」

「これ以上、シルバーフェンリルを求めて何があるのか……そんな事も考えています。なので、今回この森を探索したいと言い出したのは、本当にシルバーフェンリルがいるかどうか、それを確かめる事も含め、何も見付からなかった場合は気持ちを入れ替える……というきっかけにしようと考えています」

「成る程……」

「……こんな事……セバスチャン達には言えませんからね」

「それはどうしてですか? セバスチャンさんも、理由を話してくれればわかってくれるかもしれませんよ?」

「……最初に言ったように、私が初代当主様の生まれ変わりだという噂が使用人達の間で立ったものだからです。その噂で私が悩んでいるとセバスチャンは考えて、責任を感じるかもしれません」

「それは……確かに」


 原因とまでは言わないが、クレアさんが初代当主様の事、シルバーフェンリルの事を考えるようになったきっかけは、使用人達の噂なのかもしれない。

 セバスチャンさんがそれを知ったらどうするか……責任を感じるのは間違いないな……セバスチャンさんの年齢は詳しく知らないが、見た感じ結構な年だ。

 クレアさんを心配する様子や、お互い信頼している様子を見る限り、もしかすると産まれた時既にリーベルト家の執事だったかのもしれない。

 つまり、セバスチャンさんもその使用人達の噂の中にいたかもしれない、という事だな。


「すみません、タクミさん。こんな私情に巻き込んでしまって……他の人からするとこんな事で、と思われるかもしれませんが……」

「いえ、良いんですよ。それに、クレアさんが悩んでる事を知る事が出来て良かったと思っています」

「タクミさんは優しいですね……あ……」

「どうしました?」

「いえ……その……ここまでの話は、セバスチャン達には内緒にしていて下さいね?」

「ははは、わかりました。今ここで話した内容は、俺とレオ以外、誰にも言わないと誓います。な、レオ?」

「ワフ!」

「ありがとうございます。タクミさん、レオ様」


 最初の硬かった雰囲気はもうどこにも無く、俺とクレアさん、それとレオはそれからしばらく和やかに過ごした。

 さっきクレアさんが言っていたシルバーフェンリルや、初代当主様に興味がある理由の補足なんかも話してくれた。

 まぁ、どんな感じで興味が湧き上がるのかとか、初代当主様の生まれ変わりかどうかに関してだが、そこはまた、話す機会があればその時に……。

 クレアさんの恥ずかしそうな表情や、照れてる表情を見れて俺はお腹いっぱいだからな。

 しばらくして、そろそろ交代の時間かなという頃、男性用テントの方から声を掛けられた。


「やぁ、タクミ様、クレアお嬢様。見張りお疲れ様です。中々楽しい見張りだったようですね?」

「フィリップさん」


 次の見張りをするフィリップさんが起きて来た。

 何故かフィリップさんは、笑みを堪えるようにしながら俺とクレアさんの所まで歩いて来る。

 しかしフィリップさんって、こんな喋り方だったっけ?

 昼はもっと、きっちりした感じで喋ってたと思うけど……。


「フィリップ、セバスチャンがいないからでしょう、いつもの性格が出てるわよ?」

「おっと……こりゃ失敬。ま、今は見張りを見張るセバスチャンさんがいない分、楽にしようかなってね」

「……フィリップさん、それが素だったんですね」


 なんとも軽い喋り方だ。

 まぁでも、いつもの硬い喋り方よりもこっちの方が親しみやすくて良い……のかな?



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