第45話 レオの言いたい事が何となくわかりました (改)



 セバスチャンさん達の勢いに押されて諦めたのかな?

 ちなみに俺は傍観者のように見てるが、さっきまでのクレアさんとの話しでフェンリルの森、あの最初にいた森に興味を持ち始めていた。

 もしかしたら、俺がこの世界に来た理由がわかるかもしれない。

 まぁ、もし理由がわかったり前の世界に戻れるなんて事があっても、俺は戻る気とかは無いんだけどな。

 ここなら仕事に追われる事も無いし、存分にレオを構ってやれるからな。

 ともあれ、今はクレアさんの事。


「貴方達! 黙りなさい! 今は私とタクミさんが話しをしているのです!」

「……差し出がましい事を申してしまいました」

「申し訳ございません……」

「すみませんでした……」


 セバスチャンさん達の勢いに押されていたクレアさんは、大きく息を吸い込むと、怒声を響かせた。

 ……こんなに大きな声、出せたんだ……。

 今度は逆にクレアさんの怒声に押され、セバスチャンさん達が引いた。

 三人はそのまま後ろに下がる。

 クレアさんはそれを見届け、俺に向かい直して問いかけて来る。


「それで、タクミさん。どうですか? 私と一緒にあの森へ行ってくれませんか?」

「……」


 クレアさん、クレアさん、さっきセバスチャンさん達に怒って叫んだ時のまま怖い顔になってますよ!

 俺に向いた表情は凄く怖い。

 これ……断れる雰囲気じゃないよな……だってクレアさん怖いから……。

 クレアさんの表情と雰囲気に脅されてる気分だ……。

 どうしよう……個人的には森に行って見たいという興味はあるが、危険なのはわかるからそこまでして行きたいわけでもない。

 とは言え、雰囲気的に断りづらい……。

 俺はクレアさんの勢いから逃れる方法は無いかと視線を彷徨わせる。

 あ、レオと目が合った。

 クレアさんが恐いのか、ティルラちゃんはレオの後ろに隠れてる。


「……ちょっと……レオと相談しても……いいですか?」

「私ったらこんな大きな声を出してしまって……すみませんタクミさん。少し落ち着きますので、どうぞレオ様と相談なさって下さい」

「……はい」


 恐る恐る俺がレオと相談したいと言うと、少しだけ冷静になったのか、クレアさんが表情を和らげて謝る。

 ……クレアさんだけは怒らせないようにしておこう。

 レオや魔物といった怖さとは違う意味で怖いな……。

 クレアさんは俺に背を向け、深呼吸し始めた。

 ……とりあえず、レオと話してみようか。

 俺の言葉を理解してるのがこちらに来てわかったし、俺もレオが何を言いたいかなんとなくわかるようになって来た。

 レオに聞いてどうなるかはわからないが、前の世界から一緒にいた相棒だしな、こういった事は相談しておきたい。


「ティルラちゃん、ちょっとレオを借りるよ。……レオ、ちょっとこっちに……」

「はい」

「ワフ?」


 ティルラちゃんはおとなしくレオから離れ、客間の端に行った。

 クレアさんが恐いからだろう、いつもは笑顔で近くに行くティルラちゃんが出来るだけ離れようとしている。

 レオは、俺が呼ぶと首を傾げるような仕草をしながらこちらに来た。

 俺はレオを連れ、ティルラちゃんが移動した部屋の端とは逆側の端に行く。


「……レオ、クレアさんを連れて俺達が最初にいた森に行くって話なんだが、どう思う?」

「ワウ?……ウー……ワフワフ、ワウ?」


 レオは俺の言葉に少し考えるような仕草をして、行きたいなら行けば? という視線と声。


「でもなレオ。その森の奥にはもしかしたら、危険なフェンリルの群れがいるかもしれないんだ。それと、レオとは別のシルバーフェンリルも」

「ワウー、ワッフワッフ」


 レオの声と視線から察するに……フェンリルなんて雑魚……かな。

 さっきの話からフェンリルは、人間からするとかなりの強さを持つ魔物だと思ったけど、レオ的には雑魚なのか……。


「……フェンリルは何とかなってもシルバーフェンリルがもしいた場合……」

「ワフーワフワフ、ワウ!」


 えーっと……シルバーフェンリルがいても、それは仲間だから襲っては来ない?


「……本当か?」

「ワウーワフワフ、ワフワフワウーガァウガフーワウ!」


 今回は長いな……えっと……シルバーフェンリルは同族を絶対に襲わない。仲間として歓迎してくれるはず。それにフェンリルの方は何匹襲って来ても簡単に倒せる……だって?


「仲間として歓迎……。もしフェンリルが考えてる以上の数の群れだったらどうするんだ? それに、他にも魔物がいるかもしれないし……」

「ワフワフワフー!……ワウワウワーフワフーガウ……ガウガウ!」


 段々レオの言いたいことがはっきりわかるようになって来たぞ……フェンリルが何匹だろうと関係無い。簡単に倒せるし、そもそもシルバーフェンリルはフェンリルの上位だから、姿を見たらすぐに服従するはず。他の魔物なんてフェンリルよりも雑魚だから全部簡単に倒せる!……と言ってるかな。

 ……あれ? 何で俺、レオとしっかり会話してるんだろう……?

 以前から人間っぽい仕草で伝えようとしてた事はあるが、だからと言ってこんなにはっきりわかるのは不思議だ。

 ギフトは関係ないだろうし……。


「レオ……なんで俺、お前の言いたいことがわかるんだ?」


 レオが答えられるかわからないが、聞くだけ聞いてみた。


「……ワウ?」


 レオは首を傾げるだけだった。

 レオ自身にも理由はわからないようだ。

 シルバーフェンリルになって、体が大きくなったレオ。

 表情も仕草も以前の小さかった頃とは違ってわかりやすいからだろうと納得しておいた。



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