第168話 ドラゴンVSクリム


 次の戦いは―――


 ドラゴンVSクリム戦


 しかし————


 「おい? どうした、ドラゴン?」


 ドラゴンは通路から動かなかった。


 それどころ、蹲うずくまり、泣き続けるキララの前に立った。


 「キララさん、この戦いをよく見ておいてください」


 「え?」とキララは顔を上げる。


 「腕力差や体力差。……男女の性別差。でも、彼女は……私がこれから戦う相手はある種の人間の完成形です。そして貴方が目指すべきスタイルの持ち主かもしれまん」


 まぁ、それでも勝つのは私なんですけどね。そう付け加え、ドラゴンは飛んだ。


 魔力的な力ではなく、ただのジャンプ。


 ほとんど、ノーモーションで10メートルの距離を飛び―――クリムの目前に到着した。


 「派手な登場だね……あれ? 入場だったかな? まぁいいや。知ってるよ。自信がない人が不安を消すために派手な事するんでしょ?」


 「あれ? クリムちゃん? それもしかして、挑発のつもり? 大好きなサクラさんと敵対している立場なんだから、その媚びた口調は止めたら? 恥ずかしいよ」


 「————ッ! 殺す!?」


 「あはっ……シンプルで良い言葉のチョイスですね。気に入りましたよ。……そうだ。1つ賭けをしませんか?」


 「賭け?」


 「この試合、私が勝ったら、私の事を『お母さん』と言いなさい」


 「————そんな事……」とクリムに明らかな動揺が見て取れた。


 「できないですか? そうですよね……この道中、貴方から私に話しかけてくるシチュエーションは限られた回数だけでしたよね。貴方は、今まで私をいないものとして扱ってきました。その事で、私が傷ついていないとでも?」


 「でも、それは、貴方が……敵だから…人間じゃないから……でも良い。その賭けにのる」


 「素晴らしい! それでは敗戦後に傷ついた貴方をお母さんが可愛がって————」


 「その代わり、私が勝ったら、貴方はお父さんと離婚ね」


 「なぬ! なんですとぉぉぉ!?」とドラゴンの絶叫が会場に響いた。


 「ちょっと、その条件だと私の失う物が大きすぎるんですが!」


 しかし、ドラゴンの抗議は虚しく、クリムは無言で距離を取る。


 それを試合開始の成立と受け取ったららしく審判役が宣言をした。


 「まずは先手必勝」とクリムが動く。


 肉体変化。彼女の腕から剣が形成される。


 もちろん、ただの剣ではない。あれこそがクリムの本体である『魔剣 ロウ・クリム』だ。


 炎の魔剣を片手にドラゴンと対峙する赤き少女。 しかし、彼女の肉体変化には続きがあった。


 「————あれは! アリスの時の!」


 驚いた。クリムの体に起きた変化。


 それは背中から生えた赤い羽根。炎で作られた翼。


 「————でも、遅いですね」


 そう言うのは、ドラゴンだ。


 彼女は、クリムの背後に移動。 そのままクリムの首すじに手刀を振りかざす。


 クリムは前に飛ぶ事でギリギリで手刀を避けた。

 だが————


 「やはり、遅いですよ」


 今度はクリムの前方にドラゴンが移動していた。


 クリムは魔力を指に込める。


 炎の弾丸だ。


 機関銃のように速射される殺傷力の高い対人魔法。


 それをドラゴンは素手で弾く。


 2人の距離が近づく。


 クリムは魔剣を振り上げる。


 ドラゴンは拳を構えて、それを迎え撃とうする。


 そして、両者が————

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