第142話 2日目


 村の出入口は平凡なものだった。


 バリケードもない。それどころか遠くにグールの姿が見えるのに、こちらに向かってこない。


 「これは、確かに結界が張ってあるのかもしれないな」


 「だろ?」とカツシ少年は自信満々で笑みを向けてる。


 しかし、どんなタイプの結界だ?


 村全体に魔力であふれているのは、元からそういう場所にできた村なのか?


 それとも何者かの手によって魔力が放出されているのか?


 そもそも、考えるべきは敵の存在だ。間違いなく敵は存在している。

 この周囲にグールを解き放った存在がいるのだ。


 それは何者か? 普通に考えれば―――吸血種。


 アンデッドの王、吸血鬼がいる? それは、厄介な相手だ。


 しかし、だとすれば……違和感がある。


 吸血鬼が相手なら、こんな大規模な結界は不要だ。


 村の出入口に十字架でも置いとけばいいのだ。


 古来より吸血鬼の強さは知られている。その脅威が有名ならば、もちろん弱点も有名だ。


 ニンニクも有効だし……


 心臓に杭を打ち込めば……吸血鬼じゃなくても、大抵の魔物は殺せるわけで……


 「で、どうなんだ?」 


 「どう?」


 「結界はあるんだろう?どうすんの?本当に解除するの?」


 少年の顔は不安そうだった。


 「そうだな……」と村の外に一歩、踏み出そうとしたら―――


 パッーンと弾かれた。


 衝撃で体は吹き飛ばされる。


 唐突な浮遊感。空中で体の体勢を整え、足から着地する。 


 これは……内側からも外に出れない?


 魔物の侵入を防ぐと同時に僕等も完全に閉じ込められているのか?



 「サクラお兄ちゃん!大丈夫?」


 「あぁ怪我はない。大丈夫だ」


 「お兄ちゃん、なんで笑っているの?」


 「それは、面白くなってきたからさ!」



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 とは言うものの……事態は良くない。


 そのまま、村を歩き回ってみたが収穫は0だった。


 カツシ少年と再開の約束を交わし別れ、村長の家に帰った。


 村長に調査の結果を伝え、今後の方針を話し合った。


 結界の正体はわからない。


 村長が言うように結界を発動させているアイテムは本当あるのか?


 さらにグールが発生している理由。発生させた人物。


 わからないことだらけだ。


 必要なのは手がかりだが、この村で友好関係を結べているのは村長とカツシ少年だけ。


 ここまで村民が非協力的な理由はなにか?


 そこに問題解決の突破口があるのではないか?


 僕はそんな事を考えながら、布団の中に潜り込んだ。


 こうして1日目を終える。



 ―――2日目―――


 さて、今日はどうするか?


 村長と朝の挨拶を交わした後、行動に移る。


 村長の家から出ると―――


 「よう、サクラ兄ちゃん!おはよ!」とカツシ少年が迎えてくれた。


 確かに昨日、再開の約束はしたが、今日の朝から待ってるとは思ってもみなかった。


 「あれ?そういえば学校は?」


 「学校?学校なんてないよ、そんなの」


 「あー確かに、外に出れないと通えないのか」


 「いや、この辺りに学校そのものがないんだよ」


 「え?じゃ、勉強はどこでやるの?」


 「普通は教会とか、村長が子供を集めて教えたりはするよ」


 「寺子屋方式ってやつかな。それにしても村長がね。最近だと、いつ頃に教えられたんだい?」


 「最近は……」とカツシ少年は考え始めたが答えは出てこなかった。


 このままだとカツシ少年は、ずっと考え込みそうだったから「どうやら、ずいぶんとご無沙汰みたいだね」と僕は冗談めかして言った。


 しかし、それにしても、情報が全く集まらない。


 村の子供であるカツシ少年と一緒に聞き込みをすれば、村人の反応も軟化すると思ったが、昨日と同じだった。


 基本は「知らぬ」「存ぜぬ」「別に……」の三連発。


 死んだ魚のような目でコミュニケーションを拒否してくるのだ。


 ここまでくると、何か隠してるような気もする。


 カツシ少年曰く―――


 「この村の連中は、こんなもんだよ。村長は他の村から来た『よそ者』だからサクラお兄ちゃんと普通に接してるけど、他の連中は違うのさ」


 「よそ者?村長なのに?」


 「村長は婿養子なのさ。村と村が争わないように、せーりゃく結婚っての?まぁ、人質だよね?」


 「そうなのか。まぁ人質に最高権力を与えるのは本末転倒だけどね」


 僕がそう答えるとカツシ少年は「ほーんもつてんとー」と疑問符を浮かべていた。


 その後、聞き込みは無駄だと切り上げ、村の出入口を再び調査する。


 調査と言っても、衝撃を与えれば跳ね返ってくるので、本格的な捜査はできず、地味な事をコツコツと調べてみた。地味過ぎて飽きたのだろう。カツシ少年は途中で帰って行った。


 そのまま、収穫はないまま、2日目を終えた。



 そして7日目……

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