第113話 少女には殺意がよく似合う その4


 数秒間に及ぶ絶叫を上げていたアリスは、決心したのか? 悲鳴を止めて、恐ろ恐ろと背後を振り向く。 


 自分の腕を掴んでいる存在を確認して、さらに驚きの表情をみせた。

 その人物は―――


 「どうして、お父さんをいじめるのかな?かな?」


 魔剣 ロウ・クリムだった。


 むしろ、彼女にしかアリスの魔法を封じる事はできないはずだ。


 魔法と言うのは、内側から発生させる魔力を根元をしている。


 しかし、アリスの場合は魔剣から注入した魔力を利用して強化していた。


 だからこそ、アリスを強化させている源、魔剣そのものであるクリムだからこそ、アリスの魔力を外部からコントロールできたのだ。


 「魔剣、ロウ・クリム? でも、だからと言って、なぜここへ? こんなにも都合よく?」


 狼狽するアリスに対してクリムは―――


 「? 最初からいたよ?」


 アリスは絶句した。


 どこにいたのか? さらに混乱したアリスだったが、やがて閃いたかのような顔をみせた。


 「あぁ、最初から……本当は……もう、私が送った短剣を持ちすらしてくれていなかったのですね」


 彼女の視線は、俺の短剣――――アリスとの攻防で弾き飛ばされたはずの場所へ。

 そこには、何もなかった。



 「……まさか、自分の短剣に変装させていたとは、誰も考えもしませんね」


 そう、俺は――――僕が、このシュット城へ出頭する前。


 クリムは、心配そうについていくと主張した。


 できるわけがないと言う僕にクリムは、変身して見せたのだ。


 僕の短剣、瓜二つに


 「そんな機能があったのか!」と驚く僕にクリムは、「これで見つからないよ」と屈託のない笑顔を浮かべていた。


 もしも―――


 「もしも、君が魔剣なんて使わず、真っ向勝負を仕掛けてきたら、もっと良い戦いになってかもしれない」


 アリスは「……御冗談を」と軽い笑みを浮かべるだけだった。


 でも、僕は本気だった。


 実力差と言うのならともかく、技術差と言うならば、僕とアリスに大きな開きはないはずだ。


 なんせ、学園で全く同じカリキュラムを受けているんだ。


 得意不得意はあれど、僕ができる事はアリスにもできる。


 違いがあるとしたら、カリキュラムを受けた年数にすぎない。


 しかし、だからと言っても―――


 戦いをやり直すわけにもいかない。


 つけなければいけない。……決着を



 間接的とは言え、彼女は人を殺めたのだ。


 さらに言えば、僕のため、僕1人のために魔物を操り、シュット学園を消滅手前まで追い込んだ。


 彼女とて、無傷で許されるとは思っていないだろう。


 ではどうする? だからと言って、僕に彼女を殺す権利なんてない。 


 そもそも、人を殺す権利ってなんだい?


 だから、彼女の罪に僕だけができる罰を与えたい。


 「できることなら、僕だけを恨んでほしい。君が死ぬまで自身を罪を忘れないように」


 俯いていた彼女は顔を上げる。


 この期に及んで、まだ期待を求める眼差しを僕に向ける。


 だから、僕は彼女の期待に応えよう。


 彼女の頬を軽く撫でる。


 可能な限り優しく、彼女のアゴを摘まみ――――


 口づけをした。


 やがて、どちらともなく口を放した後――――


 「これで、お別れだ。 これから僕の事だけを一生考えて……それから、死ね」


 そう言い放つと、アリスは目を見開いた。


 このタイミング。


 僕は掴んでいたアリスのアゴを揺さぶり、脳震盪を起こして失神させた。 

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