第111話 少女には殺意がよく似合う その2


 宙を舞うアリス。 


 その大きな翼―――― 


 何かが光った。


 反射的に体が回避運動を行う。


 その直後―――背中に衝撃が襲う。一瞬の浮遊感。


 背後を確認すると……爆発が起きていた。


 アリスの攻撃。


 クリムの能力を受け継いでいるのなら、おそらくは火炎系の魔法。


 でも、この威力はオリジナルであるクリムを遥かに超えている。


 不可視の速度。爆破のような破壊力。


 たぶん、対クリム戦の時みたいに炎による防御は使えない。


 そんな事を考えていると……


 アリスの背後が再び光る。



 攻撃


 それを理解すると、僕は駆け出していた。


 通路は1つ。アリスの正面に向かう道だけ。


 けど―――


 背後から爆風を受けると同時にジャンプ。


 着地地点は長椅子、正確には、椅子の背もたれ。


 さらに、次の背もたれに向けて、足を前に出す。


 その繰り返し。


 背もたれの僅かなスペースを駆け抜ける。


 転倒したら即死亡。


 全速力の綱渡り状態。 綱より狭い足場だが、幸いにも走る部分は縦ではなく横。


 ……幸いか?


 そんな事を考えている間もアリスの爆撃はおさまらない。


 教会という狭い空間。逃げているだけじゃいつかは捕まる。


 ……じゃ、どうするか? 


 こうする!


 体を十分に加速させ、横にある壁に向かって飛び上がる。


 壁に向かって片足を着けると、そのまま壁走り。


 上へ……上へ……

 重力に負けて落下するまで残り3歩。 2歩 ……1歩。



 ここだッ!?


 壁を蹴り、宙に浮かぶアリスへ向かって飛び上がる。


 予想外の接近にアリスは意表を突かれたのか、無防備な状態。


 (届く!)  


 拳を固めて、アリスに向かって――――


 いや、ダメだ! アリスは翼をマントのように変化させて、全身を覆い隠した。


 当然ながら空中で体を止める事はできない。


 炎の塊に、僕は勢いよく激突した。 そのまま、僕は落下。


 「がっ!?」と口から空気が漏れる。 


 だが、背中のバックパックが衝撃を吸収してくれた。 予想よりはダメージは低い。


 それに僕の衣服は探索者用だ。耐火、耐熱性能もそれなりに高い。


 燃えてる箇所は…… よし!ない。


 立ち上がると目の前にアリスがいた。


 空気を切り裂く音。


 目前にアリスの手が通過していく。炎が模られた凶悪な腕。


 まだ使いこなせず空振りしたのか、それともワザと恐怖心を煽るために外したのか。


 後者ならば、目的通りの効果を果たしている。


 僕は慌てて、後方へジャンプして逃げる。


 対峙する形になった僕とアリス。 反射的に背中の短剣に手を伸ばすが――――


 「どうして反撃しないのですか?」


 圧倒する者の余裕からか?


 アリスは攻撃を止めて、聞いてきた。


 「僕は、君を傷つけるつもりはない」


 それは、本心だった。そして、それが伝わったのだろう。 


 アリスはポカーンとした表情を見せ、次の瞬間には身を捩って笑い始めた。 


 「それが、私をこうさせたのですよ」


 「……こう?」


 「サクラ様の武器、たしか『龍の足枷』だったかしら? 初めて私がソレを見たのは、サクラ様がダンジョンで行方不明になった翌日……夜の校庭でした」


 「……」


 やっぱり、あの日。


 初めて、『龍の足枷』を自分で出現させた日に見られていたのか。


 「ソレを始めてみた時、私の感情は揺さぶられました。私は、サクラ様から―――― 貴方から取り残されたのだと思いました」


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