第84話 とんでもない豚狩り
雄たけびを上げる僕らに気づいたのだろう。ビックピッグはギロリと凶悪な視線を向ける。
はっきり言ってビックピックは強い。だが、上質な肉を前にした僕らに恐怖はない。
それに攻略法なら把握している。
後衛のケンシが前に出る。 前衛の僕が後ろに下がる。
ビックピックの攻撃はパワフル&シンプル。 その巨体を武器に体当たり。
だから、攻撃は読みやすい!
加速したビックピックをケンシを横に飛んで避けた。
そのまま、駆けていく。その巨体ゆえ小回りが利かないのだ。
徐々に減速して停止。体を回して、ゆっくりケンシと対峙していく。
後ろ足で1回、2回と地面と蹴って、再びケンシに突っ込もうとする。
しかし、そうはさせない。
「そこだ!ヒャッハー」
ケンシの後ろで待機してたのは、このためだ。
ビックピッグの体当たりが止まる位置。
そこで僕がビックピッグの背中に飛び乗った。
そのまま、短剣を勢いをつけて突き刺す。だが―――
ぷる~ん
凄まじい肉の弾力。突き刺したつもりの短剣が跳ね返される。
跡を見れば、背中に僅かな傷がついてるだけ。
「凄い肉質。これは本物だ!……ってうわわぁ!」
肉への感想も束の間。浮遊感が襲い掛かってきた。
まるでロデオ。 ビックピックは激しい上下運動で僕を振り下ろそうとしてくる。
(コイツ!予想より生きが良い!)
想定外のパワー。このままじゃ……
破裂音。
ケンシの火炎魔法がビックピッグの顔面にヒットしたのだ。
ビックピッグの動きが急停止する。
「よし!これなら!」
再び、短剣を構え直す。
角度をつけて…… 皮を切るように……
突き立てる!
今度は確かな手ごたえがあり、短剣が入って行く。
しかし、ダメージを受けたビックピッグが今まで以上に――――
激しく暴れ始める。
左右上下前後。 地面はどこか? 天井はどこか?
痛みが走り、初めて地面に叩きつかれた事に気づく。
体を起こすと目の前に巨体が見える。
まるで蔑むように「ぶひぃぃ」と笑っているように見える。けど―――
勘違いしている。笑いたいのは僕の方だ!
「やれ!ケンシ!」
「あいよ!」
魔力を練る時間は十分に稼げたはず。
ケンシの周りには黄色い閃光が走り続けている。
ビックピッグの背中に残っている僕の短剣。それに向けて、魔力で具現化させたイナズマを――――
ケンシは放った。
――― 31層 ―――
「こいつはたまげた。グレートってやつだな」
僕らを出迎えたオントは、本気で絶賛していた(言葉使いはアレだけど)。
でも、僕らは……
「しょ、正直、欲張り過ぎた」と僕。
「あぁ、その場で解体して、不要な部位は捨ててくればよかった」とケンシ。
僕らは仕留めたビックピッグを持ち上げたまま、ダンジョンの1層分を突破。
通常の豚でも100キロくらいの重さだ。ビックピッグはその10倍はある。
ケンシの支援魔法があったにしても、とんでもない重労働になった。
豚だけに…… とんでも……
極度の疲労状態から思考能力も低下しているのだろう。
口に出すと空気を凍らせかねないフレーズが頭に浮かぶ。
しかし、1000キロクラスか。 1トンだな。
豚だけに…… 1トン……
あぁ、僕とケンシは、その場で寝転び休息を取る。
オントはビックピッグの血抜きの準備を始めた。
31層は、魔物が現れない
10層の人工的な安全地帯ではなく、元から魔物を寄せ付けないナニカがあるらしい。 最も、100%安全とは言い切れない。
本来は下の階層に存在しているはずの魔物が別の階層に出現する場合があるのだから……
この階層を通り抜けて上の階層に向かう魔物もいるわけだ。
涼しげな水の音。体の熱を冷ましてくれる。
この階層、最大の特徴である回復の泉が近くにあるのだろう。
ちぇ、オントも飲み水として汲んでくれれば、僕らも動けるのに……
そんな事を考えているとオントが声をかけてきた。
「おい!豚の血はどうする?ソーセージでも作るか?」
「ソーセージ?あぁ、ブラッドソーセージか。血と混ぜる穀物は?」
「問題ない。穀物系は、たっぷり用意はしている」
「よし!やるか!腸を出せ!」
「待て待て、血抜きした肉の下処理が終わってない」
僕とオントが肉の解体を行っていると、ケンシも作業を開始していた。
先ほど捕まえたウッドスネーク。そう言えば、何でヘビ系の魔物を大量に集める事になった?
事前にオントが持ち込んでいた荷物。そこからケンシは瓶を取り出して――――
「おい!」と僕はケンシの頭は叩く。
叩かれたケンシは頭を押さえて「何するんだ!」と怒り出した。けど――――
「ウッドスネークを酒に漬けるつもりだろ!」
「あっ……バレた?」
「お前、それは洒落にならないぞ……」
「大丈夫、大丈夫、個人的に売るだけだから!」
それなら……大丈夫?なのかな?
そんなこんなで準備は済んだ。何の?
歓迎会の準備だよ。
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