第43話 ラストエピローグ 


 「やはり犯人が実在するのか……」


 僕の言葉に対して、ドラゴンは肯定するように頷いた。


 オーク王を人が集まっていた場所へ誘導する。


 可能性としては考えられ、多くの人間が調査している。


 そうは聞いていたが、半信半疑だった。


 本当に、人間がそんな事を行うのか? ……何のために?


 「そうだ! なんのために?なんのためにオーク王を……やっぱり、王族暗殺が目的だったのか?」


 目的。


 あの場所には、第三王位継承権所持者であるコロロアコロさまがいた。


 もしも、あの、自らをコロちゃん様と呼ばす、あの少年が死んでいたら……


 王子には、次の王さまへと後押しいている勢力が存在している。


 権謀術数が渦巻く中、暗殺という強硬手段に及ぶのはあり得る事だ。


 いや、それだけではない。 


 団体の主義主張を広めるための圧力としての暗殺――――つまりはテロリズム。


 いや、考え始めればきりがない。


 しかし――――


 「ちがいます」


 そうドラゴンは断言した。


 そして―――― 


 「目的は、貴方にあったのです」


 ドラゴンは僕に向けて指を指した。


 「……」


 「……」


 互いに無言で見つめ合う。


 僕はドラゴンの言葉の意味がわからなかったのだ。


 目的が僕?  心当たりもない。


 「私はダンジョンの大まかな出来事を把握できると言いましたが、敵である探索者たち―――― ダンジョン内に入った人間達の感情が把握できる能力と言った方が正確ですね」


 「……感情が把握できる?」


 「もちろん、ヒヨコの雄雌おすめすを区別する職人さんみたいに、あの場にいた有象無象の感情を1人1人の感情を区別するできませんが、知り合いであるサクラさんと、サクラさんに向けられた感情を―――― あの単純な悪意を把握するなら朝メシ前ですよ」


 僕は把握できなかった。 ドラゴンの言葉の意味を……


 あの出来事が僕に―――― 


 僕1人に向けられた悪意によって―――――


 あの惨劇が起きた。


 意味はわかる。しかし、理解はできない。


 「一体、何の目的で僕を?」


 「おそらくは見られたのでしょう」


 「見られた? 何を?」


 ドラゴンを僕の腕を指して言った。


 「龍の足枷ですよ」


 「――――ッッ!?」


 「私はダンジョンの外、サクラさんの日常生活をうかがい知る事はできませんが、オーク王との一戦で想像する事は容易くできます」


 「―――――何を?」


 「おそらくは、深夜。誰もいない校庭でサクラさんは、鍛錬に励んでいた。もちろん、龍の足枷を操るための鍛錬ですね」


 僕は頷く。


 「しかし、それだけではない。使えないはずの武器を使うための試行錯誤を行っていましたね」


 僕は頷く。


 「いい着眼点です。例えばテーブルの上にあるナイフとフォークは言うまでもなく、コップだって皿だって武器としての使い方を瞬時に5、6個は思いつくものです。ならば、武器として使えない武器を武器として使う方法も、また――――すでに5、6個は思いついているんじゃないですか?」


 僕は頷いた。


 「しかし、それを見られていた。そして、それを、龍の足枷を欲した人物がいる。そいつが犯人ですよ」


 「それは?だれだ! ……いや 」


 心当たりが生まれる。 龍の足枷を欲した人物がいるじゃないか。


 「……第三王位継承権所持者 コロロアコロ本人か?」


 アリスの贈り物。 それを僕が貰った事―――― それでは示しがつかないとか――――


 持ち物の全てを賭けた戦い。 本命は、こっち?


 しかし、ドラゴンは――――


 「犯人が誰かなんて、私にはわかりませんよ。ほら、私はドラゴンなんで、人間を正確に区別する事はできませんので」


 そう言った。 いつの間にか、あんなにも沢山、運ばれていた食事は片づけられ、食後のデザートすら終わり、ドラゴンはコーヒーに口をつけている。


 「――――30分」


 「え?」


 「サクラさんが友達とお約束した30分がそろそろですね」


 僕は時計を見る。 


 もうそんなに経過したのか。


 「では、サクラさん。私はこの店が気に入りました。週に2、3度の外出時は、必ずこの店に立ち寄る事にするので、また何か用件があれば……いつでも会えますよ」


 そう言って、ドラゴンは娘を連れ、店の外へ。 それから「そうそう、言い忘れてました」とドラゴンは帰ってきた。


 「オーク王を10層へ誘導した道具は、世界樹の枝と言われる物で、70層で取れる物であって、誰もが気楽に使える道具ではありません。 それに誘導と言うなら……誰が誰を誘導したのでしょか? それが私からの最後のヒントです」


 では、また。 どこかでお会いしましょう。


 そう付け加えて、彼女は――――ドラゴンは店を後にして行った。


 最後の最後までよくわからない奴だったなぁ。


 さて、僕もアリス達の元へ。


 「あっ、そう言えば……僕にかかっている未知の状態異常バットステータスってなにか聞き忘れていた」

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