待ち人来たる

 数日前に我が家へと帰って来た俺は日がな、ラジオを聞くか日課のトレーニングをする日々を過ごしていた、そんな日々の中ようやくというかとうとうというべきか。


「おとさーん、おぐらおにーさんが来たー」

「よう……やく……か、よっと、家に入れてやれ」


 腕立て伏せをしていると、玄関からインターホンの音が聞こえた。

エルに見て来るように言いながら、俺はどかしているちゃぶ台と座布団を用意。

やって来たのは俺の友人の一人小倉であった、約束通り夏の終わりにやって来てくれたのである。


「約束通り会いに来れてよかったよ、よっこいしょ、いい座布団使ってるね」

「約束通りで何よりだ、まぁこっちが遅れそうでつい先日まで冷や冷やしてたが」

「エスパドルとアマノ間の線路の落石事故だよね、大丈夫だった?」

「アマノが気を利かせてくれてな、この通りお前らより先に帝都さ、で、その後ろのは小倉の護衛か何かかな?」


 俺の座る対面に置いてある座布団に座りまずはお互いの近況から軽く話し合う。

まぁ、それより気になったのはアマノの隣に立っている青肌に額に立派な一本の角を持つモデルも真っ青なグラマラス体系の女性だ。よもや小倉の愛人の類ではあるまいな、旅にかこつけて嫁に隠れて不倫だなんて知りたくないからな俺は。

 

「彼女はこの件に深く関わるだろうから連れて来たんだ、青鬼族のサラワティさん」

「初めまして、お噂はかねがね、サラワティと申します」

「ああ、貿易関係は青鬼主体で行われる予定か」


 サラワティと呼ばれ紹介された女性が俺に深々と頭を下げる、所作一つをとっても綺麗なお人で、彼女は青鬼族を纏めるリーダーの一人で今後貿易が軌道に乗ってからの中心人物になりうる人材であるため、融資をする俺と顔合わせをさせたかったと。

ちなみに小倉の息子のハギとボタンの魔法の師匠でもある、そちらの腕も一流だとか


「とりあえず僕もサラワティさんも帝都にはついたばかりでね銀行で話を詰めるのは明日でいいかい、休みたいんだ」

「わかった、宿は取っているのか?」

「今から探すところだよ」


 銀行での話はまた明日という事で今日はお開き、まだ宿を取っておらず挨拶だけでも先にと俺の家を訪ねて来たそうだ、どこで俺の家があるかを聞いたら門衛に聞いたとか、ああ、そういえば小倉の名前を伝えてそれが来たら俺の住所を教えてもいいと連絡しておいたな、そうじゃなくても割と多くの人が俺の家を知ってるのか、たまに変な奴も来る、自作の魔法道具だとか魔法書を売りに来る奴とかな。


「それじゃお暇しますよ、また明日」

「ああ、また明日」


 そんなわけで小倉とサラワティは宿を探すべく俺の家を出ていったわけだが。


「…………なんで、また来てんの小倉」

「こんばんはー、おぐらおにーさん」

「ごめん、清孝君、一晩でいいから部屋を貸してくれ」


 何故か夕方、夕飯を作っている所に困り顔の小倉が立っていた、というのも宿屋を見つける事は出来たのだが、部屋を二つ取る事が出来ず、サラワティさんだけでもと泊めさせ自分は別の宿屋と思ったが、何処を探しても見つからずじまい。

これではいけないと俺に助けを求めたと。


「悠長に挨拶に来てるからだよ、この時期は込むに決まってる」

「なんか帝都であるの?」

「ヘルパッカ領で競馬の時期だからな、帝都に泊って列車で見に行くって人が帝都のホテルに泊まる事が多いんだ」

「そんなのやってるんだ、湿地帯以外、この国の事はさっぱりなもので」

「そうか、まぁ帝都に居る間は泊っていくといい、夕飯も食っていけ」

「助かる、身の回りのものは自分で用意してるから大丈夫、夕飯はありがたく頂くとするよ」


 帝都は帝国のどの方面にも列車を走らせているため、帝都に宿泊して列車で現地の領に行くと言う旅行客や観光客は結構の数がいたりする、秋になると先ほども言った通り秋季の競馬を身に来た競馬好きの奴らが安宿から普通の宿まで泊り込み、どの馬が当たりか外れかの情報交換などをして賭ける馬を決める訳だ。


 そして運が悪いと小倉の用に宿無しで仕方なく食事は宿で取り、馬車や宿屋の軒下を借り一晩明かすやら、24時間営業の飯屋に入り浸ったり、徹夜で飲み屋をはしごする等の客が帝都には一定数いたりする。土地が余ってる訳でないのでホテルを増やしたくても増やせないというのが行政の頭を悩ませる。


「帝都もあんまり不便って感じじゃないね、やっぱり僕には田舎暮らしが似合いだ」

「俺も放蕩暮らしの方が性に合ってるよ、転戦時代が染みついてるのかね」

「エルはていとすきだよー、色んな人がいて色んな食べ物があって、楽しいもん」


 出来立てのスープを三人で囲みすすりながら、各々の帝都に対する感想を答える。

小倉はイルマさんのスープが恋しいと愚痴を零しながらしっかりすすりながら鬼人族の暮らしが板についたのか帝都は息苦しさを感じるそうだ。

 かくいう俺も従軍時代、様々な場所を転戦してきたせいか、一所に留まるのに強い違和感を感じてしまっている、勿論落ち着くのが悪い訳ではないが、心のどこかで次は何処に向かおうかを考えてしまうのだ。

 そしてエルは帝都が楽しいそうだ、最近は下の店の女性店員のリンに色んな場所に連れられて遊び歩いているそうだ、帰って来れば今日はどこそこに言っただとか

あれそれを食べただとか、何某とお話しただとか、お土産話を聞かされる毎日だ。


「帝都の話は置いといて、鬼人族はどうなんだ? 港の建造とかよ」

「ああ、それなんだけど、このまえ天野君の部下が来てさ……」


 話は変わって帝都から鬼人族の話を小倉から聞かせて貰う。おおむね順調だそうで

ここ一番で変わったと言えば、アマノ領から天野の部下が来て俺の名前を出して港を見に来たらしい、そしてこちらから船で港まで来るので食料を買わせて欲しいと打診も受けたらしい。


「ほう、よかったじゃないか勿論受けたんだろう」

「ああ、翌週大きな貨物船が来たって青鬼族が大慌てしてたよ収穫期に取れた作物の一部とジルを交換、帝国と鬼人族が貿易をした瞬間さ」

「おお~れきしてきじけんってやつだね!」

「事件と言うと、何か犯罪みたいだな、ここは出来事とかに言いなおさないか」

「どっちでもいいさ、とにもこれで鬼人族も帝国との友好関係を強めれそうだ、最近だと獣人族の一部も交易をする事で帝国に歩み寄ってるらしいね、旅道中で聞いた」

「ああ、歴史は今大きく動いている、ワクワクしないか? 俺達は今その只中に存在しているんだ、お前の顔がこの世界の学校の教科書に載るかもしれんぞ、鬼人族達の文化発展に貢献した立派な指導者としてな」


 俺は自分でも分かるように口角を持ち上げていた、向こうの世界で生きていれば俺達はきっと十把一絡げのどこにでもいる一般人にしかなれなかった事だろう。

だが、この世界であれば、クラスメイトも小倉も後世まで名を残す事になるだろう。


「なら君もまた、かのハンス・ウルリッヒ・ルーデルか舩坂弘のように、伝説の軍人と後世語られるかもねぇ」

「おいおい、俺はそんな大物と比べたらちっぽけな男だよ」

「僕はそうは思わないよ、絶対無敵の守護英雄、帝国最強の軍人殿」

「ほめちぎっても、スープのお代わりしか増えないぜ、それと軍人な」

「あははっ、さしあたってはそれだけでいいさ」

「おとさんと小倉おにーさん、によによしてへんな顔」


 小倉は俺もまた後世に名を残す人間の一人になるだろうと言ってくれる。

俺は別に自らの名を残すつもり等無いのだが、まぁ残るのだろうな。

俺はそんなの別にいいんだがな、俺のしたい事、それはこの平穏な時代を皆の躍進を見ながら静かに生きていたい、それだけだ。エルに変な顔とか言われながらな。

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