三歩目 前を向いて歩こう、鬼と湿地帯

到着、湿地帯

「おとさーん、はやくはやくー」

「エルは元気だな……っと、見えてきたか」

「あれが鬼人族の湿地帯?」

「そうだ、あれからもう数十年か……」


 ヤミーの街を出立して早1週間、いくつかの村を超え乗合馬車時には徒歩を駆使し

ようやく到着、エルは徒歩になっても泣き言は何も言わず、むしろ楽しそうに歩いてくれる、植物や動物を見てはあれは何かと聞かれるので参ったというものだ。

そして小高い丘を登るとこの旅路のひとまずの終着点である湿地帯が見え始めるのであった。


「あの白い線なんだろ?」

「前に来たときは見たことないな、あれを目指すか」

「うん! でもエルお腹すいたー」

「ちょっと早いかもしれんが、昼飯にしようか」

「はーい」


 という訳で小高い丘の上でレジャーシートを敷いてお昼ご飯。

最後の村を出てからはしばらく野宿と保存食続きだ。

まあ、従軍時代の保存食とは比べ物にならんくらいの上等な物だが。

エルも特に文句を言わず食べてくれる。

ジャムと乾パン、缶詰の肉と結構豊富、うん、悪くないな。

エルも食べ終わったようだし早速出発だ


「うん? もしや人間か、ちょっと待ってもらえるか」


 エルが気になった白い線を目指して湿地帯へ目指し歩いていき到着したらば

そこには緑鬼種が立っていた、自衛隊のような軍服を身に着け、手にはかつて小倉が装備していた銃を装備する小柄な背をした緑肌に額から角が生えている奴だ。

エルも初めて見る緑鬼種を興味深い目で見ているな。

 そして俺達が白い線だと思っていたのはどうやら湿原に作られた木道のようだ。

緑鬼種は少し待ってろと俺達を止めると一緒に併設されている小屋の中へ入っていき、しばらく待っていれば一冊の本を持ってきて戻ってくる。


「人間が来るのは初めてでな、この本に手順がある確認しながら処理させてもらう」

「そうか」

「まずは名前を教えてくれ」

「清孝魔央、こっちは娘のエル」

「次に領域に入る理由を教えてくれ」

「観光と友人を訪ねてだ」

「ふむふむ……次はこちらから言う事がある、この冊子を」


 名前と理由を聞かれた後、一冊の冊子を渡される、湿地帯に入る際の禁止事項か。

えっと、なになに…………ふむふむ。


・正当な理由なく鬼人族へ危害を加える事

・許可の無い湿地帯の動植物の狩猟、採取等

・湿原地帯の木道以外への立ち入り

・領域を出る際に湿地帯の動植物を生死に関係なく持ち出す事


「これらに反した場合は?」

「その場で捕縛され領域の外へ追放、以後領域へ入ることを禁じられるぞ」

「了解だ、女神に誓ってこれらを順守することを約束しよう」

「うん、悪い事しません!」

「わかった、それとお前らは帝国人で間違いないか?」

「その通りだな」

「なら、ジルをこの先の村の為替所で銀銭に換えるのをお勧めするぞ」

「銀銭?」

「鬼人族の貨幣だ、こういうの」


 冊子はリュックに仕舞わせて貰い、そろそろ通れるかと思いきや。

帝国人か問われるので素直に答えればジルが使えないと言われてしまう。

代わりに銀銭というものが鬼人族の間では使われてるようで見せてくれる。

 見た感じ四角形の板で厚さは向こうの世界の硬貨くらいはあり500と書いてある。もしや銀なのか?

親切な緑鬼のアドバイスに覚えておくと言えば、後はもう特に言う事は無いと道を開けてくれる。さてと木道を渡って出発かな


「まずは木道をこのまま進んで行けばさっきも言った通り村がある」

「そこでは鬼人の行商が外に出る時にだけ開く宿がある、頼めば泊めてくれるだろう」

「助言ありがとう、お勤めご苦労さん」

「ああ、鬼人族の領域は良い所だ、お前もそう感じてくれたら嬉しいぞ」

「しゅっぱーつ!」

「おいエル、走ると足を滑らせるぞ」

「だいじょうぶぅー、っうわっとっとっと、セーフ!」


 緑鬼は更に俺に助言を与えてくれるので礼を言えば鬼人族の領域を是非とも楽しんで欲しいと敬礼をして見送ってくれる、エルは木道を俺よりも先に駆け走っていこうとすれば、足を滑らせてしまうもなんとか体制を整えて転ばずに済む。

追いつき、注意してから手を繋ぎ歩くことに


 木道をゆっくり進んでいれば様々な生き物が見つかる、シカや水牛、キツネも見かけた。鳥もかなり飛んでいたり虫か何かを啄む姿も見かけた、木道に急にカエルが跳んできてエルが驚いてしがみついてきたり、大きな鳥が横切って思わず俺も声を出して驚いたのをエルに笑われたりと道中、豊かな生物達に楽しませてもらった。


 日が暮れ始める頃にようやく木道が終わりをつげ、村へと到着する。

まずは為替所でジルを換金してやらんとな。場所は村に入ったすぐそこにあるようで分かりやすかった、早速ジルを銀銭に換えてやる、この時期は行商に行く鬼人はいないらしく、為替所は銀銭が多く、ジルが少なかったようで、安く換えられた。

とりあえず2週間くらいはこの湿地帯で暮らせる程度を揃えておく。

ただ、物を買えるのはもっと大きな村か河川の船場周りに市場が形成されており

そこに色々売っていると聞かされた、食事はまだしばらく保存食かな。


 さて、次は宿屋だが、こちらもすぐに分かった、ここら辺の家は小さい。

緑鬼はその体躯は小柄なので家も小さいみたいだが、一つだけ大きな家が併設された家を見つける、おそらく別の集落から来る赤鬼、青鬼も宿泊するからだろう。

早速、明かりがついているのでノックをしてみれば、一人の老婆が対応してくれた。

 服装は俺達が来ている洋服や領域に入る時に見た自衛隊ルックの者とも違う。

確か貫頭衣という単純な作りの衣服を着ていた。


「あらこんばんはもしかして人間さん?」

「ご婦人、夜も更ける頃に失礼、一晩宿を借りたいのですが」

「あらまぁ、ええ、ええ構いませんよ」

「ありがとう、おばあちゃん!」

「いえいえ、お夕飯はどうされるので? よかったら食べていかれませんか?」

「よいのですか?」


 ご婦人は朗らかに笑いながら宿を貸してくれるどころか食事まで誘ってくれた。

何でも、行商が来る時期にはよく行商人を食事に誘い外の話を聞かせてもらったりしてるようだ、エルはご馳走になろうとすっかりその気になってしまったのでありがたく頂く事になった。


 部屋に入るドアだがこちらは緑鬼の為に誂えたもののようで俺の大きさだとしゃがんで入らなければいけなかった、入ってみれば中は案外と広く、座る椅子もサイズが合わないという事はなく問題なく座れた、今から作るのでそれまで待っていてくださいと言われたので座らせていただく事に。

しばらくすると、かつて嗅いだことのある匂いがする、この匂い、もしや……


「お待たせしましたね、どうぞ人間さんのお口に合うといいのだけど」

「おー、なんだこれー、茶色いのとー、平べったいパン!」

「こいつは、それにこの匂い……カレーか、それとナン」

「あら、ご存じでして?」

「ええ、それでは頂きます」


 俺達の前に食事が置かれる、それは向こうの世界で良く食べていた、カレーである

平べったいパンはナンと来たか、ただ、日本のカレーとは全く違うな。

サラサラしてるなインドカレーって奴かね、さてお味は……悪くない、いや美味い。


「むあー、旨味が……旨味が凄い……こう、どどどどーって来る」

「なるほどわからん、いやしかし美味いですねこれ」

「ありがとう、それで、湿地帯にはどうして来られたのかしら」

「えっとねー、おとさんのお友達探し、それと色々見て回ってるの!」

「まぁ、どんなものを見てきたのかしら?」

「えっとね、えっとね!」


 しばし、カレーとナンの味に俺が酔いしれている間に老婆はエルの今までの旅の話を大層楽しそうに笑顔で聞いていた。そうした賑やかな会話の中で夜は更けていき


「色んな人に会ってきたのねぇ、エルちゃんは」

「うん! ここでもおばちゃんに会えたよ!」

「嬉しい言葉ねぇ、あら、もうこんな時間ね、お話をしてるとすぐだわ」

「ご婦人、そろそろ部屋に案内してもらえるだろうか?」

「ええ、貴方は大きいから赤鬼さんの部屋をお貸しするわね」

「お気遣い、痛み入ります」


 そろそろ明日も小倉探しをする為に早く起きる事になるので寝ることに。

まずは河川にある市場の方へと向かってみるとしようか。

人がいれば情報も集まるはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る