観光、美食の街②

 目が覚める、カーテンから朝日が眩しいほど輝いている。

幾分か寝苦しい感じがする、暑いな……エルが腰にしがみついていた。


「エル、朝だぞ、起きてくれ」

「ハッチおにーさん、クーマおにーさん、まだ食べられるよぉ」

「ベタな寝言を、ほれ朝だぞ起きなさい」

「それ、エルのホットドッグー!」

「はいおはよう、いい夢だったようで」

「あ、おとさん、おはよー」


 ベタな寝言を言うエルに二度声をかければこれまたベタな寝起きの一言と共に起き上がる、ようやくこれで着替えられるな。

いつものシャツとズボンよしと、髭は……洗面所借りれるだろうか。


「エル、おとさん洗面所借りてくるから、それまでに着替えてるんだぞ」

「わかったー」


 エルにそういいつけてから部屋の外に出る、うーん廊下が広い。

忙しそうに家政婦さんと思わしき人が掃除をしている。

仕事の途中にすまないがと尋ねれば嫌な顔を一つもせずに洗面所がどこかを教えてくれる。昨日のうちにハッチのお父さんとお姉さんから話は聞いているそうだ。

洗い物があったら、部屋にある籠の中に入れておけばしておくとも言ってくれる。

後で出しておくとしよう。洗面所で髭を剃り、今日もばっちりと。


「おはようございます」

「おっはー!」

「おはようございます守護英雄様とその娘様、息子が昨日は世話になったとお聞きしております」

「いえ、道案内してもらったのはこちらのほうです」

「ハッチおにーさん色んなお店しってたー」

「そうでしたか息子が役に立ったなら何よりです、ささ英雄様お席をどうぞ、朝ご飯ですが、うちのメイドのハムエッグはお店の物にも劣りませんよ」

「ありがとうございます、それと俺の事は清孝で構わないので」


 洗面所で髭を剃った後、エルの身支度も済ませた頃にお手伝いさんの一人が一つの部屋へと案内してくれる、そこにはハッチと同じ金髪をした女性が既に座っていた。

ハッチのお母上だそうで一緒に食事をしようという事らしい。

ありがたくエルと共にご相伴に預かることに


「ハッチはどこにいったので? よもや寝坊でも?」

「ああ、ハッチなら夫と娘の手伝いにいかせましたよ」

「うん? 今日も道案内を頼もうと思ったのですが」

「ハッチから聞いております、お昼、麺屋細川にでしたね?」

「ええ、その通りです」

「お昼には仕事を切り上げて休憩するように言いつけてます、ですのでそれまでは」

「わかりました、それまでは適当に街を回ることにします」

「えー、ハッチおにーさんと会えないの?」

「家業を手伝ってるんだ、それは立派な事、応援してやらんと」

「よろしければ、メイドを一人つけますが?」

「いえ、他にもいるので大丈夫です、昼にはまたこちらに戻ります」

「いってきまーす」


 ハッチはどうやら今日は仕事を手伝っているようなので。昼まではクーマとエルだけでぶらつくとするか。


「あ、どうも清孝さん、おはようございます」

「クーマじゃないか、待っててくれたのか?」

「いや、俺もハッチの家の手伝いするんで、その連絡を」

「そうか、クーマもか」

「昼には必ず仕事切り上げるんで、それまでは……こいつをどうぞ」

「これは?」

「中央公園への地図です、あと、その近くで食える軽食をいくつか」

「助かる、中央公園でゆっくりしてるとするよ」

「すんません、案内するっていった後にこんな事で」

「なに、仕事頑張れよ」

「はい、ありがとうございます!」

「クーマ、次の荷物配達いくっすよ、俺は東、お前西な!」

「おまっ、西っていったら雷爺のとこじゃん、俺嫌だぜ!」

「早い者勝ちっす、ほんじゃーなー!」

「あっ、待て、ちんちきしょぉ! あんちくしょぉ!」


 屋敷を出るとそこにはクーマがおり、地図とメモを渡してくる。

どうやらクーマもハッチの手伝いをするそうで、同行できないそうだ。

これならメイドに道案内を頼んでもよかったかもしれんな。

俺達が話してるとハッチが荷車を引きながら戻って来てクーマに仕事を言い渡す。

クーマが行く方向には何かあるのだろう、嫌な顔をしていた。

逃げ去るハッチに悪態をつきながらも仕事へといってしまう、愉快な奴らだ。


「エル、朝の散歩に中央公園まで行こうか」

「うん、何があるかな?」

「さぁなぁ」


 地図に沿って歩いていけば芝生が広がる公園に出る、まだ10かそこらの少年少女が思い思いに遊ぶ姿が見受けられる、元気なのは良い事だ。


「エルも混じって来てもいいんだぞ」

「おとさんと一緒にいる」

「そうか……さて、ほぅあれは」


 エルを子供たちと遊ぶように行ってみるが、俺からは離れることは無かった。

何かないものかと公園を見渡していれば興味深いものが公園の中に入ってきた


「初めて見るなぁ紙芝居、エル見てみないか?」

「紙芝居?」

「きっと面白いぞ、店主、飴を二つ」

「これは、守護英雄様じゃありませんか、毎度あり、集まるまでしばしお待ちを」


 向こうの世界でも俺が子供の頃に紙芝居屋なんてものを見たことはなかった。

つまるところ俺は紙芝居屋を32年生きてきてこの世界で初めて見るのであった。

少し待っていれば紙芝居屋の周りに子供達がぞろぞろと集まってくる。


 俺を見て守護英雄だと騒ぎ立てるが、紙芝居が始まるぞと言えば、離れていく。

そして静かに座り飴玉を口の中で転がし始める。

俺もエルと二人分の飴を買わせてもらい、それを口の中で転がしながら見させて戴く事にした。


 内容は森の奥で暮らしていた臆病者で優しいドラゴンが友達を作ろうと村に行くという物最初は村人も怯えてしまうが、村の勇敢な少年が意を決して話始める。


 そうすればとても優しいドラゴンだと分かった少年はドラゴンとすぐに仲良くなり

一緒に日が暮れるまで遊び、また今度も遊ぶ約束をして、それから何年にも渡り遊び一緒に過ごすが。少年はどんどん老いて、最後にはドラゴンを置いて死んでしまう。


 ドラゴンは悲しみ泣くが優しいドラゴンと知っている村人と一人の子供が慰める。

子供は少年の孫でありかつての少年と同じようにドラゴンと友達になる。


 そしてドラゴンは泣き止み、それからもドラゴンは末永く村の皆と幸せに暮らし続けましたとさ、というストーリー。中々面白かったな、お爺さんの演技もなかなか。


「しかし、ドラゴンって本当にいるのかね」

「おとさん見たことないの?」

「ないな、トカゲっぽい魔獣は見た事あるが、あの絵みたいなのは見たことない」

「そっかー、旅をしてたら見れるかな?」

「うーん、もう純粋なドラゴンは滅びたというのが通説だが」


 物語で語られるようなドラゴンはかつて何千年も昔には確かに居たと言われている

その名残としてドラゴンと交わって生まれたドラゴンの特徴を持つ竜人族という他種族の国があると聞く。そんな紙芝居が終わると子供達はその場からぞろぞろと去っていく。

去っていく間にも何人かに声をかけられ、握手などを求められる。

有名人とはこういう感じなのかね。


「あーっ! また終わっちゃってるわ」

「残念でしたねお嬢様」

「今日こそはドラゴンさんのお話見たかったのにぃ」


 紙芝居屋が終わった頃に見たかったのだろう、悔しそうな姿をする少女とメイド服の女性の二人組が公園の入り口の前に立っていた。素朴だが小綺麗なドレスからしてどこかいい所のお嬢様と言った所か……


「おねーさん、残念そうだね」

「そうだな、だがそんな日もある」

「はぁ、どうしようかしら……貴方もしかして守護英雄様ではございませんか」


 少女がきょろきょろと公園を見渡すと俺の姿を見つけたのかそう声を掛けられる。

違うという理由も必要もないのでそうだと肯定すれば、恭しく礼をして挨拶をする。


「こんなところでお会い出来るだなんて光栄です、私、パトリシア・ヤミーと申します、こちらはメイドのメリー」

「ヤミー……領主の娘か、英雄ではなく清孝で読んでくれ」

「はい、清孝様」

「おねえさん、紙芝居見たかったの?」

「ええ、私色んなドラゴンさんのお話が好きなの」

「そーなんだー、あ、私エルっていうのー」

「そう、よろしくね」


 しばしエルとパトリシアは話をする、パトリシアはドラゴンの話が好きという事は本当の様でエルにドラゴンとは何かを話し続ける。エルもドラゴンに興味津々と言った様子でその話を聞き続けていた。


「申し訳ございません、娘様のお時間を拝借してしまって」

「気にしなくていい、エルには丁度いい刺激になるさ」

「おとさーん、そろそろお昼だってー」

「ああ、もうそんな時間か、すまない約束があるので失礼する」

「そうでしたか、また、お嬢様とお話していただければ」

「ばいばーい、ぱてぃおねえちゃーん」

「ええ、またね」


 公園のベンチで二人の話す姿を眺めていれば、どうやら昼になっていたようだ。

ハッチとクーマとの約束を果たすために二人とはここで分かれる。

エルはこの短時間でパトリシアを愛称で呼ぶくらいに仲が良くなったみたいでなによりである。

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