最終話 きみはかみさま

 母と僕は送り火を焚いた次の日ハワイに着いた。

 結婚式のためだ。


 空港に迎えに来てくれたリアムと合流し、ホテルに着いた。支配人がいつも通りの対応でホッとする。やはり少し緊張しているのだろうか。


 こちらは夕方の風が優しい。日本の異常な暑さを実感する。

 荷物を置いて、今からリアムの家で夕ご飯を頂くことになっている。


「遠くまで来て頂いてすいません。今から家にご案内します……明日の朝は早いので、今日は早く寝て下さいね」と彼は母に優しく説明している。


 父とナユに会ってからというもの、僕はなんだかヘンだ。ぼんやりしてる。

 ベランダに出てハワイの変わらぬ海を見て頭を冷やした。


 そっか、キャンプ場に行ってないからだ。

 バリ島への新婚旅行が終わったらすぐにバイトに入ろう。きっと頭の中がスッキリする。


 また電話がつながらないしリアムがねちゃうかもね、とクスクス笑っていると、


「そろそろ行こうよ、マナ。なに、いやらしい笑い方して!」とリアムがいつの間にか側にいて父と似た声で言った。


 いや、全然普通の笑い方だしね

 

 僕は声を小さくして、


「お父さんに会ってから…目を閉じるとぼんやり浮かぶんだ」と母に聞こえないように言った。


「へぇ…」


 なんだか面白くなさそうにリアムが言う。僕の父に嫉妬?まさかね…


「なんだか妬けちゃうな。だってマナのお父さんって俺より5歳上くらいで亡くなってるんだろ?」


 僕は呆れてしばらくものが言えなかったが、やっと、


「リアムって、本当にばっかじゃないの?」と言って笑うと、彼もさすがに笑った。




 次の日、爽やかな晴天の下、ランチビュッフェスタイルの結婚式が行われた。


『ややオールド』というドレスコードだったのだが、皆凝っていて面白い。こういう遊び心にハワイの豊かさを感じる。

 造園家のターシャテューダーや、映画の『風と共に去りぬ』の登場人物、初めて会った時のルリみたいな昔のハワイの民族衣装を着ている人もいる。

 ちなみに僕の母は黒留くろとめを着て異彩を放っている。御所車に青海波の柄。柴田さんに着方を教わってきて、今朝僕と二人で着付けた。確かに絵柄が古いが、ハワイの人には説明しないとどこがオールドなのかわかりにくそうだ。

 

 僕が皆を見て楽しんでいると、

 

「マナ…すごく素敵だ…」と急に耳元で言われたのでびくっとした。


「リアム!」


 古いレースのドレスを身に着けた僕を、後から来たリアムが側で眼を細めて見ていた。


「こんな綺麗な花嫁、見たことないや…」と言いながら、僕を引き寄せる。


 いや、それは言い過ぎだ。僕なんかより綺麗な人はここにもそこにもごろごろいる。恥ずかしいじゃないか。

 リアムは『風と共に去りぬ』でクラークゲーブルが着ていたようなクラシックな麻のベージュのスリーピースを着ていた。ベストが薄い茶のグラデーションでとても素敵だ。彼の茶色の瞳が栄える。


「リアムこそ…とても素敵」


 僕らがお互いを見つめて褒め合っていると、周りが笑う。だって、今初めて見たのだから仕方ないじゃないか。


 リアムの父は、泣いてる母の肩を柔らかく抱いている。彼が問題児なのでホッとしたのだろうか。

 ふんわりとしてクラシックなドレスを着たキアナとエマはまさに天使のようだった。彼女たちは僕らの結婚を祝福してくれた。

 エマは自分の家族を根気よく説得してると聞いた。この二人なら何とかしそうだと思う。時代は進み、僕らは変わらねばならないし変えていかねばならないのだ。



 僕らは集まってくれた皆に結婚しますと宣言した。一生を共に過ごす約束をし、指輪を交換して軽いキスをする。


「もう一回、して」とリアムがすぐさま本気で言ったので皆が笑い、イーサンが、仕方ないな、と言って前に出てリアムにキスしようとした。

 ちょっとどんなか見てみたかったが、リアムが嫌そうに彼を押しやったので、イーサンはくるりと振り返って僕の手の甲にキスした。

 計画的だ。

 歓声があがり、リアムが心底嫌そうなしかめっ面をした。彼は本当に愛されている。


 後はじっとしている日本の結婚式とは違って自由だ。

 僕はお腹が減ったので、あれこれつまみながらうろうろしていたら、いい匂いに引き寄せられてピザの屋台まできていた。これは聞いてなかったので嬉しい。


「わ、ピザだ!リアム、ピザ食べたい!」


「おめでとうございます、奥様。どのピザをお取りしましょうか?」


 僕の歓声を聞いて優しそうな丸顔の男性スタッフがにこやかに尋ねてくれた。奥様、っていうのに大いに照れる前にどこか違和感がある。


 …聞いたことがある声。でも思い出せない。記憶を手繰り寄せながら、


「えーっと、マルゲリータと、クリームチーズハニーでお願いします」と並んでいるピザを見てお願いした。


「旦那様も一緒でいいですか?」と明るい表情でリアムに聞いた。彼が作っていると思うと美味しそうに感じるような顔だ。


「いや、俺はマルゲリータとクアトロチーズで」


 甘いピザなんて論外だ、と言わんばかりに眉間に皺を寄せながらかぶせる勢いで答えるリアムが可愛い。


「少々お待ちください」


 彼は僕にウインクしてから、ピザ窯で焼き上げたばかりのピザを2切れずつ入れて僕に渡してくれた。わざとだろうか、身体のボリュームと動きが合わなくてコミカルで思わず口角が上がってしまう。


「美味しいよ」と言いながら皿を渡す彼の指に触れると、彼が目隠しされた僕と一緒に郊外の別荘に居た記憶が流れ込んできた。


 そうだ、思い出した。この声は僕を誘拐した男性だ。

 本当にピザ屋始めんだ…それも自力で夢を叶えたなんて。


 中を覗くと母親らしき女性が大きめの身体で狭そうにくるくると立ち働いている。試作品を作る為に食べ過ぎたのだろうか?それとも元々?


「お母様とですか?二人でお仕事なんて、とても素敵ですね」


 彼は一瞬ドキッとした顔をしたが、


「夢だったんで」とニコニコして言った。


「ありがとう、頂きます」


 僕がお礼を言って彼から離れると、リアムがむくれている。まただよ…大体何て言うかはわかっている。


「もう!マナのそういうとこが嫌だって言ってるでしょ。誰彼かまわずドキッとさせるようなことを言わないって、今ここで約束してっ…」


 でも僕が彼の口にピザを運ぶと黙った。


「美味しっ!」


 僕も食べてみる。


「うわっ、本当に美味しいよ」


 僕はそのピザに夢中だったが、今まで散々食べたのでもう入らない。無理に入れると今度はドレスが入らなくなりそうだ。

 泣く泣くおかわりは諦めたが、もう一度行って、どこの通りにいつも店を出しているかを聞いた。

 ぜひ買いに行かなければだ。特にクリームチーズハニーが絶品で、会場にいる女性にパンフレットとピザを一緒に配りまくった。


 そういえばロコモコ弁当屋さんの横が空き店舗になっていたのを思い出す。

 いい場所なのにもったいないと思っていたのだ。あそこにピザ屋を開けばいいじゃあないか、ちょうどいい。


「なにか悪い事企んでるでしょ…」とリアムが僕の顔を覗き込んだ。

 ペロリと僕の口の端についたハチミツを舐める。


「すごく甘い。あのピザ屋をすごく気に入ったんだね」


「わかる…?いつものロコモコ屋さんの隣にお店出してくれないかなって思ってる」


「あのスタッフを気に入ってるのはとても嫌だけど、マナが喜ぶなら相談に乗るよ」


「やったー!ありがとう、リアム本当に大好き!!」


 僕が珍しく飛び跳ねて抱き着いたので、リアムは、


「マナは色気より食い気だな。花より団子、ってやつ」と嬉しそうに文句を言った。


 家族や招待客の人たちとしゃべり過ぎて疲れたので、リアムに飲み物を頼んで、僕は食後のケーキとジェラートを選んでいた。

 するとイーサンとリアムの友人が僕をぐるりと囲んだ。向こうでリアムが僕を探しているから、意地悪で隠しているようだ。


 僕はいいことを思いついた。


 僕はたくさん皿に取ったケーキを、一人づつ口の中に、あーん、と言って口の中に放り込んだ。無くなったら次を容赦なく追加する。

 2巡ほどすると「だめっ…もう無理!俺甘いもの苦手なんだって!」と一人ずつ離脱した。ハワイのケーキは甘い。でもイーサンはしぶとく食べ続けた。根性がある。


「もう僕が疲れた、ギブアップだよ」と僕が手が疲れてきたので言うと、


「じゃあ俺にご褒美…踊ろう」と言ってイーサンが僕の手をとった。でもすぐにリアムに見つかって殴られている。


「いたた…」


「俺の妻にちょっかいださないでっ」と苦情を言ってる彼も可愛い。


「手をとっただけじゃないか。踊りがダメなら、デートはいい?」と性懲しょうこりもなくイーサンがリアムをからかうのでむっとしている。冗談が通じてない。


 僕が笑っていると、彼はじっと僕を見た。裏まで見えるっていうくらいじっと。


 なんだろう…もしや結婚を後悔してる?


 ドキッとして彼を見つめ返すと、


「もうダメっ、我慢できない!みんな、俺たちがいなくても最後まで楽しんでってね!ありがと~」と大声で皆に向かって言って僕を軽々と抱き上げ、爆笑の中退場した。



「あわわ、何してるの?」


 慌てる僕を建物の中の新郎の待合室のソファーにフワリと降ろした。


「キスとそのあと、しよ…」と言いながらぐいぐいせまってきて、何度もキスする。唇がだんだん下に向かって這っていく。


「こっ、こんなとこでダメだよ、終わってからでいいじゃない。みんなせっかく来てくれてる…んっ、もうっ、わがままなんだからっ!」


 僕が文句を言うと、リアムは真剣な顔で僕を見つめて言った。


「マナ、君は俺の神様なのかもしれない」


「なんで?」


 彼が唐突に言ったので僕はびっくりした。神様とは穏やかじゃない。


「だって、俺はマナがいたら悪いこと出来ないだろ?マナって怒るとすごく怖いんだもの」


 怖いって失礼な!それに、悪い事、してるじゃないか…


 リアムは僕のうなじを甘く噛みながらドレスのホックを外し、肩から滑り落した。でも下から出てきたウエディングドレス用のボディスーツにドギモを抜かれた。


「なにこれ、戦闘服?壊しちゃいそうだから、脱いで、マナ」


「ん…」


 これは前面にホックが5ミリくらいずつたくさんついているで、着るのも大変だったが、脱ぐのも大変そうだ。でもこれを着ていると、胸が大きく見えるので嬉しいでもある。


 外そうとホックに手を伸ばしてふと気が付いた。 


 あれ、そういえば、携帯をケーキのとこに置いてきてしまった


「ごめん、携帯を会場に置きっぱだから取ってくるっ」


 僕はまたドレスを着せてもらって立ち上がった。


 二人で行くとまた目立って捕まるので、僕だけこっそりと会場に潜入する。

 パーティは僕らがいなくても盛り上がっていて安心した。

 デザートコーナーで自分の携帯を手にし、ふと、端っこでこそこそとイーサンたちリアムの友人軍団が何かを見てにやにやしながら盛り上がってる。


「なーに、それ?」


 僕が覗き込むとイーサンが携帯を隠そうとしたので、どっさに奪い取った。Hな写真?


「ふふん、僕の反射神経の勝利」


 そう得意気に言って、携帯の画面を見た。


 裸で寝ているリアムにセクシーな裸の女性たちがキスしてる画像だ。


「ほう…」


 自分の携帯をぶち壊されそうな僕の迫力にビビったイーサンが、


「待て、おまえは気が短すぎ!こ、これは俺らの独身最後のお遊びだって…リアムは酒で潰れて寝てただけで悪くないからって、おい、待てってば!」と言い訳した。


 僕は携帯を彼に投げ捨てるように返し、必死の表情のイーサンを振り切ってタクシー乗り場に向かった。

 ムカついたので一発お腹に前蹴りを入れてやろうかと思ったけど、止めて良かった。パンプスだとお腹に穴が空くかもしれない。


 しかし長くないドレスで丁度良かった。タクシーにも乗れるし、飛行機にも乗れそうだ。



 僕はホテルに戻り、携帯とパスポートとカバンだけ持った。おろおろする支配人にお願いして、手配してもらった一番早い飛行機ですぐに日本に帰ることにした。もちろん携帯の電源はオフだ。


 なんなんだろう、あの男は…

 僕にあれこれ言うわりにはワキが甘いじゃないか!


 もちろん彼が浮気をしていないと知っているが、全くもって僕は面白くない。



 7時間もあの狭い機内でドレスでいるのか…考えるだけでうんざりだ。着替えを持ってこれば良かったのだが全然思い付かなかった。免税店で服を買った方がいいのかもしれない。

 ウエディングドレスで飛行機に乗る人は珍しいらしく、空港ですれ違う人は必ず振りかえった。支配人は隣で笑いをこらえて歩いているのがわかる。もちろん彼はなので笑ったりしない。


 そりゃあ珍しいだろう!僕だってこんな人空港で見たことないからねっ!


 一度は子供に写真を一緒に撮って欲しいと頼まれて支配人にお願いした。仲のいい家族は嬉しそうにお礼を言って去って行ったが、僕の事なんだと思っているのだろう?


 今なにか言われたら爆発しそうだ。支配人も触らぬ神に祟りなし、という具合でチェックインまでしたらそつなく挨拶して帰って行った。今頃誰もいない場所で大笑いしてるかもしれない。


 僕がイライラしながら出国ゲートに並んでいると、背後でザワつく気配がした。この感じ。


 あーあ、腹が立つけど、来ちゃったら仕方ないな


 後ろを振り向くと、少しの時間しか離れてないのにもう懐かしい人が花婿の衣装のままでこちらに向かって歩いている。

 彼はニヤニヤしながら2,3歩離れた場所で立ち止まって、手を広げた。

 僕が彼の胸に飛び込んで行くと思う、その自信はどこからくるんだろう?とても不思議だ。


「おこりんぼな俺のカミサマ、お迎えに来ました。さ、おいで」


「いっつも言うけど、僕怒ってないし」 


「マナ、知ってる?リアムって名前には『自分を力強く守る者』とか『願いを叶える強さを持つ戦士』という意味があるんだ。俺のただ一つの願いは君といることで、その願いを叶える強さを俺は一生持ち続けると誓うよ。マナを愛してるんだ」


 そしてたくさんの人に囲まれ、祝福されながら、僕らはぎゅっと強く抱き合った。





 夏休みが終わり、大学は新学期が始まった。


「ホントに結婚したんだねー」


 久しぶりのゼミで皆に結婚式の写真を見せながらバリ島のお土産を配る。

 僕は新学期に合わせて髪を短く切った。久しぶりに男の子みたいだ。

 だって楽なのだ。

 髪を洗うにも流すにも乾かすにも経験で三分の一くらいの労力と時間で済むと感じる。1日に付き5分短縮したら、1か月で150分、1年で1800分、時間にすると30時間にもなる。同じ理由で化粧もしない。色付きのリップと日焼け止めだけだ。


「全然実感ないよ。やっぱり一緒に住んでないからさ」


 そうなのだ。結婚した気がしないのは一緒に住んでいないからだろう。あと2年半、早く国家資格を取ってリアムと住みたい。


「やっぱ長いよな…」


 僕が思わずつぶやくと、大学構内こうないがやたらざわついているのに気が付いた。


 火事だろうか…いや、それなら警報器が鳴るはずだ。

 以前ノーベル化学賞を取ったばかりの名誉教授が大学に来たときもこんな感じだったから、有名人が来たかテレビでも入っているかだ。


 どっちみち興味がこれっぽちもない。


「なんでしょうか、ちょっと見てきます」と野次馬な1年生男子、矢島が走り出て行った。


 僕を前に研究を放ったらかしにして見に行くとは、いい度胸だな…


 もう4年生なので、彼のフォローをするように言われて可愛がっている。僕より少しだけ背が高いが、仕草や言動が可愛らしくて皆に愛されている、マスコット的存在で、僕より女子力が高そうな男子だ。彼もマウス実験が嫌でここに入った口だそうだ。僕だって入ってまだ2年目なのだが…。

 日柴喜はもう一人のごつい男子を担当している。今年は男子2人と女子1人がこの研究室に入った。


「大変です、なんか女子がたくさんこっちに来ます!どうしましょう、マナ先輩ぃ!怖いですぅ」


 矢島が偵察から帰ってきて僕に小動物のようにぎゅっとしがみついた。彼は強い女子が苦手らしい。

 何言ってるんだ、男のくせに、と言いそうになって口をつぐむ。これはセクハラだ、危なかった。


「まあまあ、大丈夫だって。モンハンじゃあないんだから、君を採取したり喰いやぁしないよ」と頭を撫でていたら、ドアががらりとひらいて見たことない女子が「ここですよ、どうぞ」と言った。確かに矢島よりは強そうだ。


「キャー」「えー、なんでここ?」と廊下がより騒がしい。この研究室が目的地だったのか?


「何か御用ですか?」と僕は彼女に聞くと、


「マナ!僕の奥さんやっと見つけた!!」と先日ハワイで別れたばかりの銀色の髪と茶色の瞳の男性が入ってきた。


「な、リアム!なんでここに?」


 チョコレート色の肌に白の研究着が似合っている。


「へへへ、N大の医学部に1年在籍するんだ。交換留学生。…で、誰、その男」と言って、僕にくっついてる矢島をじろりと見てから僕をにらんだ。


「…」


 僕は頭が真っ白になっていた。


 彼が矢島の反対側で僕に抱き着いたので、研究室が一気にピンクになった。廊下の女子軍団が「奥さんだってー」「やだー」と叫んでるのが聞こえるし、ゼミ仲間は爆笑している。


 カオスだ…


 さっきまで僕が寂しがってたのは何だったんだろう?

 とにかくこれから1年、平穏な大学生活は望めそうになさそうだ。




「あれ、知らなかったの?とりあえずうちに住むって言ってなかったっけ?」と母はとぼけた。


 絶対驚かそうとしたに違いなかった。段ボールがいっぱいあるなって思っていたけど、バイトで忙しくて聞けなかったのだ。

 そう、キャンプ場は夏休みが終わってからも流行っており、ずっとのんびりゆるゆるバイトに慣れ切っていた僕は疲れて家でぐったりしていた。


 今思えば、リアムが3月くらいからこっち、ずっと忙しそうにしてたのはこの為だったのだろう。


「マナ…これからずっと一緒だね」とリアムは台所でうきうきして僕にまとわりつく。


「うっ…」


 い、嫌だ

 母がいると僕はイチャイチャ出来ない…彼は絶対してくるだろうし…


「わかった、降参。大学の近くにアパート借りて一緒に住もう、ね?」


「やった!そうだ、家でも建てる?」


「もったいないし、時間がかかるからいいよ。じゃあ、明日さっそく部屋を探そう」


「いいね」


「そうだ、矢島が隣空いてるって言ってた。あそこ広いしちょどいいや」と僕はさっそく彼にラインした。


「矢島?誰?」と訝し気にリアムは僕に聞いた。


 そういえば矢島の事はリアムに言ってなかった。


「ああ、僕が担当してるゼミの後輩。今日僕にくっついてた、あれ。帰りが危ないからいつも送ってってるの。でも隣ならその手間が省けるし」


「……もう!ばか!!」


 ねるリアムの顔がとても可愛いので、母と僕は顔を見合わせて笑ってしまう。


 やっぱり一緒に暮らしたいって、彼も思っていてくれてたんだ…


 僕はなんだかとてもとても嬉しくてニヤニヤが止まらなかった。









~自分に自信がなくて出来たらこっそり消えてしまいたいと思っている人たちのために


海野ぴゅう

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