第97話 やっと封切り?

 結婚式と披露宴を終え、疲れた僕らは昨夜の旅館で少し寝た。白無垢を脱いだ解放感と式の緊張からの解放感のおかげで今までに経験したことのない深い眠りだった。

 夜は両家で宴会し、旅館に泊まった。


「えー、なんでマナと一緒の部屋じゃないのー?結婚したのに!」と酔っぱらったリアムが僕にからんで騒ぐ。


 あの『花瓶の花』を会場が泣くほど上手く歌った人とだは思えない。


「まあまあ、だって男子と女子で分けたほうが旅行っぽいし…リアムだってお父さんと二人きりでたまには話をしたいでしょ?お父さんだって喜んでる」


 僕が適当に言うと、


「あ、これ絶対言い訳でしょ。マナのウソつき」と言って余計にまとわりついてくる。


 いや、ウソなんてついてない。だって宴会をして皆べろべろだから、大変になるのはわかってた。


 僕のいとこや伯父に飲まされまくって酔って動けなくなったリアムを彼の父に託して、女子軍団は部屋でのんびりした。女性だけの世界は平和だ。


 僕が備え付けのお茶を入れていると、リアムの母とエマがじっと見ているので、簡単に説明した。お茶の種類によって淹れ方が違うのだ。


 この旅館に備え付けてあるお茶葉は高級煎茶なので、一度ポットの熱湯を急須に入れ、湯呑に移して2段階で温度を下げてから、ゆるりと茶さじ2杯分の茶葉を入れた急須に注ぐ。茶葉の量はお好みだ。

 40秒ほど待って、急須の蓋を抑えながら優しく2回程まわして湯呑に少しずつ濃さが均等になるように注いだ。

 二人はとても興味深そうに僕の説明を聞いた。でもキアナは全く興味がないようで、外の景色を楽しんだりガイドブックを読んだりしている。


「皆さん、今日はハワイから来てくれてありがとうございました。嬉しかった」


 僕がお茶を出しながら言うと、


「日本の結婚式、様式美でとても良かったわ。神社の中も入れたし、いい経験だった。なにより料理が芸術的だったしね」とリアムの母が言ってくれたのでほっとした。


「明日も着物着たい」とキアナとエマが言ってくれたので、さっそく明日観光する京都の駅近くでレンタル浴衣を予約した。今日の着物よりはずいぶんと楽なはずだ。


「お父さん達のも勝手に予約しておいたらびっくりするよね、これどう?」と女子は盛り上がって夜は過ぎていった。男子は酔って寝倒しているだろう。




 京都駅に新幹線で着くと、予約したレンタル着物ショップで浴衣に着替え、僕らは観光に繰り出した。

 義父と義母はシックな紺の浴衣にシルバーと黒の帯、エマとキアナは派手なオレンジと黄色の浴衣に可愛いフリルとかが付いた流行の帯だ。僕とリアムは涼し気な薄いベージュ系にして帯を紺の鳥柄にした。残念ながらリアムの好きな海の動物の柄はなかったので。

 

 京都は熱いのに観光客でいっぱいだ。

 そういえば京都は小学校の修学旅行以来だな、と僕が言うと、キアナが「近いのに、贅沢ね」と笑った。確かにそうだ。


 彼らは僕より研究してきており、一人一か所ずつ行きたい場所を言ってもらって効率よく回った。もちろん義母は京懐石をハワイから事前に予約しており、ハワイのフードコーディネーターらしく写真を撮りまくったり、作り方や材料を聞いて研究熱心だった。流石だ…。




「ひゃー、ここすんごいね!マナ、大丈夫?」とキアナが値段を心配した。


 僕が選んだ京都の旅館は各部屋に露天のお風呂が付いていて、僕らの2部屋は1階なので庭の戸で仕切られているがカギを開ければ行き来が出来てつながっている。

 値段は目玉が飛び出るほど高いけど、今回はせっかくだしいいだろう。各自が仕事を持って忙しいこのメンバーで一緒に旅行が出来るなんてもうないかもしれないのだ。


 今回の旅行にシズのお金を使わせてもらった。本当はキャンプ場の温泉に使いたかったが、早い時期に口数がいっぱいになったので必要なかったのだ。

 これなら何も残らないし、悪いこともおきないだろう。


「うん、安心して。秘密の貯えがあるんだ」と言うと、リアムがクスリと笑った。出所を思い出しているのだろう。


「さ、じゃあ私たちはちょっと歩いてくるから、2人はゆっくりしてなさい。式からこっち、全然2人きりになってないでしょ?」とリアムの母が気を使って言ってくれた。

 皆がぞろぞろ出て行く。 


「じゃあねー、ごゆっくり」

「ばいばい」

「夕飯までの2時間ほどで帰ってくるから」

 

 最後に時間を言ったのは父だ。さすがというか…サービスタイム(アユに教えてもらった)かよ!キアナとエマはニヤニヤしている。僕らがまだしてないって知っているのだ。


「やーね、みんな…」と僕が呆れて言うのと、

「マナ、やっと触れる…もう我慢し過ぎで死にそう!」と彼が言って僕を抱きしめるのが同時だった。


 いや、結構触ってたけど…。でもそういうんじゃないんだろう。


「僕らもう結婚したんだし、これからずっと夫婦じゃない」


 僕はおでこをぐりぐりと彼の胸に押し付ける。夏なので汗の匂い。僕もきっと汗臭いだろう。


「…お風呂、入ろうか?」


「やだ、今すぐしたい…マナ…」


 彼が触れる肌から伝わってくる思いが僕の顔を赤くする。でもな、うーん、汗臭いのは嫌だ。


「じゃあ、お風呂で…」と僕は提案した。


「んっ…賛成…」


 彼は僕の服を上から順に脱がせた。僕も彼のを脱がせる。夏なのであっという間だ。

 

「…へへへ、昼に裸って恥ずかしいな」

 

 恥ずかしがる僕を、せかすように抱き締めた。


「早く…」


 待ちきれない彼は僕を持ち上げ、庭のヒノキの湯船の中に運んだ。

 一気に身体が軽くなって彼と僕の肌の隙間にお湯が入る。彼が動くと僕が反応する。


「や…んっ…」


 彼は僕の身体を確かめるように触りながら、じっと顔を見た。なんでこの人はいつも僕の顔を穴が空くほど見るんだろう…恥ずかしいじゃないか。


「俺だけ、だよ…マナは俺だけ見てて…全部俺の…」


「んっ…」


 彼の舌が身体の隅々まで入り込んで僕をおかしくする。昼間、っていうのが余計に恥ずかしさを増す。


「も、もダメ…っ」


 僕が涙目で訴えると、彼はやっと笑った。



「ちょっと待ってて」


 彼はくたくたになった僕のおでこにちゅっとキスして風呂のふちに座らせ、お湯から出た。

 なんだろうとぼんやりと見ていたら、タオルで身体を拭きながら、邪魔が入ってなかなか封が切れないコンドームをカバンから取り出した。

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